時は限りなく | ナノ


25

夜になり、月が城の上に登ってもまだルフィたちによる捜索は続いていた。

「おーいトナカイ〜〜っ!!一緒に海賊やろうーっ!」
「…おいルフィ、もう諦めろよ。これだけ呼んでも探しても出て来ねぇんだ」

辺りに大声を響かせるルフィを、ウソップに続いてゾロも止める。

「海賊になんてなりたくねェんだよ。あいつは」
「それは違うぞ。おれはあいつを連れていきてェんだ!」
「だから、それはお前の都合だろうが!!」

見当違いの答えを返すルフィに、ゾロが的確な指摘を入れる。

「あんな可愛い子、目を離すと危ないから私が海に連れてってずっと側で守ってあげたいなぁ」
「いやいや、おめェの方が危険思考だろうがよ!」

こちらも自らの欲望に任せた身勝手なニーナの発言に、ウソップがツッコミを入れる。

そんな会話をしているとついに諦めたのか、ルフィがトナカイと呼ぶ不思議な生き物が、少し離れた所にチョコンと現れた。
一緒に海へ行こうと笑顔で誘うルフィと対照的に、トナカイの表情は暗く俯いている

「だっておれは…トナカイだ!角だって…蹄だってあるし!青っ鼻だし……!そりゃ海賊にはなりたいけどさ!」
「………」
「おれは“人間”の仲間でもないんだぞ!バケモノだし!……誘ってくれてありがとう」

最後の方は涙を溢しながら、小さな身体から懸命に声が振り絞られる。

「おれはここに残るけど。いつかまたさ…気が向いたらここへ」

「うるせェ!!!いこう!!!!」

苦しげな声を押しやったルフィの最大の勧誘は、力強かった。


***


ルフィの勧誘に漸く頷いたトナカイ、名はチョッパーというらしい、が別れの挨拶や準備の為に城へ戻って数十分。城の中から人の叫び声が聞こえたことで、外で待っていた麦わらの一味も顔を上げた。

一体、こんな時に誰が。と様子を伺っていれば、そこで見えた光景に驚き口をあんぐりと開いてしまう。
なにせ、チョッパーがそりを引き、その後ろから包丁を投げつける魔女Dr.くれはが追いかけてくるのだから。

「みんなそりに乗って!山を下りるぞォ」

チョッパーの言葉に従い全員がそりに飛び乗る。そしてそのままチョッパーは迷わず、ドラムロッキーの頂上から伸びるロープウェイのロープを走り下りた。

月が輝く夜の空を、一直線に駆け下りるそり。

「これが、魔女のそり」

その光景は下の町から見れば、まるでトナカイに引かれたソリが飛んでいるように見えるだろう。
それは分かったが、彼らはこんな別れで良いのだろうか。

思わずニーナが振り返れば、ドラムロッキーの頂上からこちらを見下ろすDr.くれはの姿が、どんどんと小さくなっていく。
ニーナの心配など他所に、チョッパーは地上に下りても止まらずひたすら走り続ける。そのまま海岸へ向かって森の中を進んでいたが、城の方から響いた砲撃音に、流石に驚きそりは止まった。

その砲撃は一発では収まらず、何発も続く。一体何が起こった、と一味が城の方を振り向くと。

「すげェ……」
「綺麗」

思わず上がった感嘆の声は誰のものだったか。
高く高く聳え立つ真っ白なドラムロッキー。そして、その頂上に咲いていたのは、なんとも美しい桜の花。
一年を通して雪が降り積もる冬島に咲いた、見事な桜だった。

「ウオオオオオオオ!!」

その美しさを前に声を上げて涙を流すチョッパーを、桜から注ぐ桃色の光がやさしく照らしていた。



***


ルフィたちが島を出港した後も、遠くに見える桜は色褪せることなく。一味は月と雪と桜を堪能しながら宴を楽しむことになった。

「アッハッハッハッハ!」
「めでて〜めでて〜っ!月が出てるし桜が咲いたぞ」

棒を鼻と口の間に挟んで騒ぐルフィたちだが、ビビとナミとニーナはそれどころではなかった。
船に戻ってみれば、カルーが川で凍っていたのだ。

「カルー、あなたどうして川で凍ってたりしたの!?」
「ビビ、お湯が沸いたよ!ほらカルー。羽出して」

ぐったりしたカルーを、ビビとニーナが必死に介抱する。
すると、カルーの弱々しい鳴き声を聞いたチョッパーがそれを翻訳する。どうやらカルーの状態はゾロに原因があるようだが。
それは分かったが、一味はチョッパーの動物と会話が出来る事実にまた驚く。

「すごいわチョッパー。医術に加えてそんな能力もあるなんて!」
「バ、バカヤローそんなの褒められても嬉しくねェよ!コノヤローが!」

ニヤけ顔で小躍りを始めるチョッパー。どう見てもこれはとても嬉しそうだ。
チョッパーが医者だったというナミの説明も驚きだが、ニーナにとってはそれどころではない。
先ほどまではそれどころでは無かったので機会が無かったが、ウソップの宴を始める乾杯の号令に、もう良いだろうと思惑を実行することにした。

「いやあああん!チョッパー、可愛いいいいいい!!」
「ギャアアアア」

両手を広げて迫ってきたニーナに咄嗟に逃げようとしたチョッパーを素早く捕らえ、ギュッと腕の中に抱きしめる。

「なんて可愛いの。もうダメ、このモフモフ感!可愛い可愛い可愛い」
「は、離せよ〜バカヤロー!可愛いなんて言われても嬉しくねェぞー」
「あああん、なんでそんなに可愛いの」

毛皮に顔を埋めるニーナは、非常に満足そうだ。

「なんだなんだ。そんなに気持ちいのか?」
「うんうん。もうフッカフカだよ〜」
「俺にもやらせろー」
「ギャアアアア!」

ニーナの反応に興味を示したウソップとルフィが、ニーナと一緒になってチョッパーの毛皮に顔を埋める。当然息苦しさとむず痒さにチョッパーは悲鳴を上げたが、ニーナが彼から離れるまでには、相当の時間を要した。
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