間の話:利用価値

※エルヴィン視点

 シガンシナ陥落以降、壁外調査の主目的はウォールマリア奪還のための補給ルートの確保に変わった。
 現実的でない途方も無い年月が掛かるという計算。取り立てて成果は出ないのに、人は死んでいく。人が使い捨ての矢のように放たれ、毎度の調査の後は死亡率は何割だとか、在籍何年で生存率は何割だとか、人の命を無機質な数字のように扱う日々。
 陣形の工夫をすることで生存率は多少は上がったが、それだけだ。こんなことの繰り返しに何の意味がある? きっと根本解決には至らない。我々の敵には未知な部分が多すぎる。謎が多すぎる。真正面から立ち向かうだけでは到底勝てない。とにかく情報と、それから資金が必要だった。


 諜報員という名目で内地に送ったなまえが、内地の王立劇場の女優として名を馳せてきた。
 壁外調査後のどさくさで、なまえ・みょうじが調査兵団に居たという記録は抹消した。元々死亡率の高い調査兵団では、兵士が一人居なくなったところで誰も驚かない。
 元貴族の令嬢がどこまでやってくれるか未知数だったが、どんなことをしてでも、必要なら男と寝てでも社交界で不自然でない居場所を確保しろ、と王立劇場に捻じ込んでから半年足らず。
 劇場の支配人か、舞台監督とでも寝たのだろうか? なまえは最後に見た日より少々大人びて、華やかな舞台に立っている。
 上出来だ。これで貴族や商会、憲兵団の上層部へのとっかかりができる。
 観劇の度に花束を持って、彼女に贈っていた。堅物で知られる調査兵団の団長が新人の女優に入れ揚げていることが公になったら、ちょっとしたニュースになるかもしれない。彼女に興味を持つ男はますます増える筈だ。


 最近では王都の地下街から調査兵団に連れて来て、兵士長という役職を与えたリヴァイを伴って社交界に顔を出すようになった。彼は持ち前の才覚で、ものすごい勢いで実績を上げ、人類最強とまで称されるようになった。
 地下街の破落戸だったリヴァイは気乗りしない様子だったが、人間離れした英雄の存在を見せつけ、有力者からの支持を得るという目的もあった。実際彼の纏う鋭い空気は、平和ボケした内地の連中には刺激的に違いない。


 内地での用事がある度に彼女を訪ねて、そして組み敷く。それがお決まりのようになっていた。

「出資者に身体を差し出すのは当然だろう?」
 
 そう言ってなまえに迫ると、反抗的な視線を向けながらも、諦めたように素直に抱かれてくれる。 
 彼女が住むこの瀟洒な館は私の所有しているものの一つを提供したものだったし、彼女の身に纏うドレスや靴も私の私財から出していた。美しいもので縛って、がんじがらめにして、逃げられないように。
 実際、彼女の居場所はここだけなのだ。兵団にも戻れず、生家に戻ることもできない。彼女の望んでいた死も簡単には得られないだろう。

 なまえは初めて抱いたときのように、眉間に皺を寄せ、唇を噛んで、色めいた声ひとつ立てない。
 この様子だと他の男と寝てはいないのだろう。元々努力型で生真面目な人間だった。貴族らしい上品さと容姿の華やかさを合わせ持った、器量の良い娘だが、持ち前の根性でのし上がったのかもしれないな、と心の中で笑った。

 たとえ他の男の精液を幾度も飲み込み、情欲にまみれ、淫らで汚らわしい女の姿になったとしても、手駒としての彼女に払う敬意は変わらないのに。
 戦場で私が指揮する兵士は、皆巨人の唾液にまみれ、咀嚼され、死んでいく。そんな彼らの姿を哀れとも汚いとも思うことがないように。

 彼女の陰核に舌を這わせ、蜜壷に指を差し込み、刺激を与えていく。なまえは相変わらず気乗りしない様子でぎゅっと目を閉じていた。
 ともすれば性欲を削がれかねないその姿は、かえって私の欲望に火をつけた。
 無垢な身体を快楽に導く作業は大変な根気のいるものだ。それでもその過程をどこか楽しむように、ゆっくりと彼女の身体を開いていった。
 なまえの頬に僅かに頬に赤みが差し、体温が上がってくるのをじんわりと感じる。

「……んっ、ふぅ……っ」

 喘ぎを必死に堪えるような声がこんなに耳に心地良いものだとは思わなかった。嫌がる素振りを見せながら、なまえの身体はとても従順だった。

「我慢しないで、声を出していい。ここがイイんだろう?」

 そういって彼女の感じる部分を探り当て、しつこいぐらいに刺激すると、急に焦りを見せた彼女に手を制止された。そんなものは簡単にねじ伏せてしまえる。彼女の両手を片手で押さえ込むと、そのまま愛撫を続けた。

「嫌っ、嫌なの……! やめて……! あっ、あ……っ! ……ああっ」

 腰を浮かせてガクガクと痙攣して、達してしまった彼女は、あの日見せなかった涙を簡単に流してむせび泣いていた。
 兵士だった頃よりも、ずっと柔らかく女らしい丸みを帯びた身体を撫で、彼女に自身を埋め込み、揺さぶっていく。
 嗜虐趣味はないと思っていたが、涙を流すなまえを見つめながら、どうしようもなく高ぶるのを感じる。
 なにかを奪われ、失っているのは、私の方なのかもしれない。それを打ち消すかのように、彼女の腰を押さえつけ、深く浅く抉り、激しく打ち付けては何度も何度も精を吐き出す。

 その涙に濡れた目で、責めるように見つめられる度に、まともな指揮官の顔に戻れる気がする。もう引き返せないところまで来ているのだ。


(2013.11.26)

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