03.奪い、奪われる/3

「どうした? さっきみたいに叫ばないのか?」

 背中にヘッドボードが当たり、ひんやりとした冷たい感触で身体が強張る。追いつめられた身体は、既に脚の間にエルヴィン団長の両脚が割って入り、身動きが取れない状態だった。

「叫んだらやめてくれますか?」
「……いいや」

 どうしたらこの窮地を脱することが出来るのか、混乱しながらも必死に考える。叫んでも無駄だったことは先ほどの男で学習済みだ。

「負傷している女性兵に乱暴を働くなど、兵士としてあるまじきことなのではなかったのですか?」
「ふ、そうだな」
「……っ、だったら……!」
「私は既に何度も最前線に配置されてきた。罰など怖くないよ」

 先ほどまで目にしていた凛々しい兵士そのままの姿で、底知れぬ雰囲気を漂わせ、僅かに微笑みながら彼は言った。
 完全に油断していた、自らの浅はかさに後悔する。同時にこの男が怖くてたまらなくなった。

「どうして……、こんなこと……」
「君が男を誘うのに長けているということだ。君が望んでいようと、いまいと」

 彼の骨張った指を下唇に当てられる。そのままぐっと指を進められ、口内を蹂躙される。苦痛に顔を歪めながらも、精一杯の抵抗として彼を睨み付けた。

「ああ、その顔、ゾクゾクするよ」

 エルヴィンは指を離すと、それを乾いた秘所に這わせていった。先ほど唾液で濡れた彼の指は、狭い箇所を無理矢理押し進んで、拡げていく。彼の胸板を必死で叩いて抵抗するが、びくともしなかった。

「……痛っ、も……、やめて……!」
「哀れだな。貴族のお嬢様がこんな目に遭うだなんて、誰が想像するだろう」
「……っ、ご存知だったんですか?」
「みょうじ家のお家騒動は内地ではちょっと話題になっていたよ。まあ翌年にはすっかり忘れ去られていたが。よくある話だからな」

 下半身から迫り上がる感触に震え、圧迫感で息が苦しくなる。指が増やされ、いつの間にか何かが溢れ出す感覚とともに、ぐちゅぐちゅという水音が響いていった。

「力を抜いたほうがいい。辛いのは君だ」

 思いやるような優しい言葉を掛けながら、していることは卑劣で凶悪な行為だ。ただただ悔しくて唇を噛んだ。

「痛いのがお好みなら、それでもいいが」

 彼は淡々と言い、その張りつめた肉棒をぐっと突き立てていった。
 一瞬目の前が真っ暗になった。狭い箇所が灼けるような痛みを伴って押し広げられ、侵入してくる異物感に言葉も叫び声さえも出てこなかった。呻きのような声にならない声が噛み締めた唇の間から洩れるだけだ。
 最奥まで達したところで動きを止められ、詰めた息をやっと吐き出す。彼のモノが脈打っているのか、それとも自分が締め付けているのか、身体の中に押し込まれた異物の存在を酷く敏感に感じ取ってしまう。
 
「涙一つ流さないとはな。根性だけで訓練兵団を卒業しただけのことはある」
 
 太腿を抱えられ、かろうじてヘッドボードにもたれ掛かっていた上半身がマットレスの上まで滑り落とされる。繋がっている部分がいっそう深くなり、内蔵を抉られるような圧迫感と、体中を縛られているような痛みで気が遠くなりそうだった。
 腰を掴まれ、激しく揺さぶられながら、いっそこのまま身体を壊されて、死んでしまえたらいいのにとすら思った。

 私を組み敷くこの男は、穏やかな表情を浮かべながら氷のように冷たい支配者の目をして、射抜くように見つめていた。さっき落ちたときの空のような、吸い込まれそうなほどの真っ青な瞳で。

「気に入ったよ。君は役に立ちそうだ」

 エルヴィンは腹の上に生暖かい白濁を放った後、満足そうに呟いて、なまえの頬にキスを落とした。それからジャケットの内ポケットから上品なハンカチを出してそれを拭き清めた。

「巨人のエサでないなら、性欲処理機としてでしょうか?」
「はは、それも良さそうだが、もっと重要な役目だ。手駒を適切に扱うのが私の仕事なんでね」
「手駒には何をしてもいいとお考えなんですね」
 
 彼に対する怒りと嫌悪を隠しきれないまま、言葉を飾ることなく吐き出し、散らばった服を身に纏っていった。じんわりとした身体の痛みと下半身の痛みが、余韻のように行為の跡として残っているのにますます苛立ちを感じた。

「……私とのセックスは良くなかったかな」
「反吐が出そうなほど」
「はは、面白い。ますます君が気に入ったよ。……あの男に似ているな」
「あの男?」
「少し前に地下街から連れて来て、調査兵団に入れようと思っている男なんだが、君とは入れ違いになるかもしれないな」
「……私をどうなさるおつもりなんですか?」
「もちろん、調査兵団のために働いてもらう。君に拒否権はない。調査兵団に入団した時点で、君の全ては私のものだ」

 そう言って彼はクスリと微笑み、後ろから覆い被さるように腕を回された。ゆっくりとたぐり寄せ、絡めとるのが必然だったかのような彼の言動に、得体の知れない恐怖と、なぜだかわからない高揚感が沸き上がるのを感じて、涙が一粒零れ落ちた。
 
 きっとこの瞬間から、心も身体も彼に囚われてしまっていた。


(2013.11.23)

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