08

 永遠の命を手に入れるには、何かの代償を払わなくてはならないらしい。
 それは永遠に癒えることのない渇きの他に、もうひとつ。
 そのことに気付いたとき、エルヴィンとリヴァイの関係もまた変わった。一つの共通する目的を果たすために。





 組み敷いたなまえの首筋に残る二つの跡を、エルヴィンはそっと指でなぞった。まだ塞がりきらない傷は、肉の色が露わになって痛々しい。血もこの上なく美味しいだろう。それは解っている。でも本当の意味でエルヴィンの身体が欲しているのは別のものだった。
 
 後ろ手に縛って、馬乗りになって、身体の動きを奪ったなまえに視線を落とすと、恐怖からか僅かに震えている。拘束したときに思いの外抵抗したなまえを押さえつけるため、少々手荒にしたからだろう。しかしそんななまえの姿を目にするだけで、エルヴィンは身体の中心が熱く昂るのを感じた。
 抵抗したときにかなりばたつかせたなまえの脚は、既に膝上まで覗いていた。エルヴィンは夜着の裾を撫で上げて太腿まで捲って、その先の白く滑らかな尻まで露わにしてしまう。

「いけない子にはお仕置きが必要ですね」

 そう言ってなまえの尻を叩いてやれば、乾いた音と共に肌が吸い付くような艶かしい感触がした。もがいて悲痛な叫びを上げるなまえの声も耳に心地よい。まだ若い、瑞々しい肌は何度かそれを繰り返せば、痛々しく赤く腫れた。
 哀れに思って慰めるようにエルヴィンがそこに口づけを落とせば、びくりとなまえの背が弓なりになる。尻の割れ目を両手で広げてその奥の秘められた箇所まで舐め上げれば、既にぐちゃぐちゃに濡れていた。肉芽を指で執拗に責め立てれば、なまえの口から切ない喘ぎが漏れた。

「なんてはしたない。人妻ともあろう方が。昨日まで処女だったというのに、叩かれて感じたのですか?」

 淫乱、と耳元で囁けば、大きく見開かれたなまえの瞳に涙の膜ができて、それがみるみる眦へ溜まっていく。あとどれだけ傷つけたら、苦しめたら、それは手に入るのか。罵声を浴びせれば、何も解らなくなるまで犯せば、それは叶うのか。
 与えられた餌を前に、既に冷静ではないのだろう。エルヴィンに沸き上がる加虐心も持って生まれた性質ではなく、罪の代償の産物と言ってもおかしくなかった。
 エルヴィンはなまえの細い腰の括れた部分に両手を沿わせて、一気に貫いた。

「ひっ、あ……、ああ……っ」
「ああ、全部飲み込んでしまいましたよ。ぐちゃぐちゃに蕩けて、いやらしい身体だ」

 とうとうなまえの瞳から溢れてしまった涙を見つけて、エルヴィンは視界が白むような心地がした。





 最初にエルヴィンがなまえに出会った時、世界はまだ壁に囲まれていた。

 団長として、苦しい決断をしなければならなかった。
 なまえのいる隊が巨人の群れに囲まれているのを知りながら、撤退命令を出した。大事なものを切り捨てても、多くの命を残すため。身が千切られそうな苦悩に苛まれながら、毅然とした団長の仮面を被り続けた。
 そんなエルヴィンの背後から、まるで風を切るようにリヴァイはなまえの元へ真っ直ぐに駆けていった。
 いくら兵士長として調査兵団では主力になる実力を持ってはいても、到底太刀打ちできる数ではなかった。

「リヴァイ!? やめろ!! 戻ってこい、リヴァイ――」

 そんな命令など耳に入らないと言わんばかりに、急速に遠ざかる背中をエルヴィンは茫然と見送った。
 リヴァイもまた、エルヴィンと同じ想いをなまえに抱いていた。残酷すぎる日常では気持ちを口にも出来ない、ただ、同じ時を噛み締めるように過ごすことしか出来なかった。お互いに呆れ、笑いながらも、小さな幸せを見つけて、生きていくことしか。


 結局なまえは助からなかった。
 血塗れの亡骸を抱え、自らも血塗れになってリヴァイは戻ってきた。その表情には怒りも悲しみも見えず、音もなく立ち尽くすだけだった。掛ける言葉も見付からない。既に団長として、鋼のように閉ざした心を壊すわけにはいかなかった。少しでも気弱なことを吐いてしまったら、それはきっと元には戻らないだろう。
 深く傷つき絶望したリヴァイは、この時既に人ではなくなっていた。

 リヴァイは何度壁外へ出ても、どんなに危険な目に遭っても、必ず生きて帰った。
 いつしか人類最強と呼ばれるようになった彼は、死ねない身体になっていたのだ。そのことを知るのはエルヴィンだけだった。血を求めて苦しんで、その渇きから逃れるように次々に巨人を、人を屠っていく。
 そんなリヴァイに、エルヴィンは申し出た。

「俺の血を飲め。苦しいんだろう?」
「駄目だ。お前まで巻き込むことになる」
「巻き込め、と言ってる」

 並大抵の覚悟ではなかった。それでもリヴァイが永遠を彷徨う魔性に堕ちた一端が自分にあると思ったから口に出た言葉だった。

「俺はなまえを探すつもりだ。例え何年かかっても、何百年かかっても。それで、今度こそ絶対に幸せにする……協力するなら巻き込んでやってもいい」
「ああ、約束する。なんだってしてやる」

 傍らに跪いたエルヴィンの首筋に、リヴァイは牙を突き立て――、それから二人の永遠に近い時間は始まった。

 


 
 壁に両手をつかせて、膝立ちになったなまえをまるで獣の交尾のように後ろから何度も容赦なく突いていった。最奥に届いたところでもっと奥へと圧迫すると、なまえの口が大きく開かれ、唾液がだらしなく口の端を伝っていく。

「ぐ、あ……んう……、う……」

 びくびくと痙攣するように蠢くそこに全部もっていかれそうになって、一気に引き抜けば、放心したようになまえが崩れ落ちる。

「ほら、もっと欲しい?」
「も、やぁ、あぁ……ん」

 さっきまで雄をくわえこんでいた蕩けるようなそこに指を一本、二本と差し込み刺激を与えながら、もったいつけるように問うた。

「指じゃ物足りないでしょう? 素直に言えたらたらまた入れてあげますよ」
「……嫌、やぁ……」

 瞳を潤ませながら、首を振って拒否するなまえがエルヴィンには可愛らしくて仕方がなかった。その頑さが愛しかった。それは確実に、何倍も美味しい味になって返ってくる。

「まぁ、どっちにしろ私の気が済むまでやるんですけど」

 そう言ったときの青ざめたなまえの表情だけで、ゾクリとした快感が走る。再びなまえの中に自身をゆっくりと埋め込んでいけば、その色は一層濃くなった。

 なまえの絶望が、エルヴィンにとっては最高の糧だった。





 どれだけの時間が経っただろうか。エルヴィンが正気に戻った時、なまえは傍らで人形のように手足を投げ出していた。吐き出した白濁がなまえの身体を汚し、頬に乾いた涙の跡が残っている。乱れた髪に指を差し入れて整えてやれば、意識を手放しているなまえが、撫でられた猫のように無防備な顔をする。

「エルヴィンさん、すき……」

 うわ言だった。こんなにぼろぼろにされたのに、何を言っているのかとエルヴィンは耳を疑った。
 それでも後悔よりも、渇きの癒えた安堵が上回っていることに嫌悪を覚える。エルヴィンはなまえの頭を撫でながら、自らを嘲笑するように、小さく低く笑った。やはり幸せになどなれない、と悟って。


(2014.11.7)
prev / next

[ main | top ]