家には、夜明け前に帰って来た。東の空に、薄ぼんやりと赤い太陽の光が膜を張るようにして、世界の闇を覆い隠そうとしているのが見える。

「じゃあ、エバンズによろしく」

再びふわりとあの宙を踊るような感覚の後、私は部屋の中に戻された。今度もまた騒々しい音が(魔法使いの耳には)入ったことだろうが、すっかり熟睡しているのか、リリーは私のベッドをまるまる占領して小さな寝息を立てていた。

「夕方頃、プロングズ達と改めて来るよ。今夜のことは、僕達だけの秘密だ」
「うん、わかった。待ってる」

最後にシリウスはもう一度私に小さくキスをして、それから去って行った。
バイクはあっという間に空の彼方へと消えてしまう。きっと彼も、ジェームズが起きる前に家に戻ろうと急いでいるのだろう。

リリーが起きたのは、それから約1時間後のことだった。
ベッドの端に座ってリリーの顔を眺めていた私に気づき、ぼんやりとした顔で「おかえり」と言ってくれる。

「ただいま」
「どうだった? ブラックとのデートは」
「うん、楽しかったよ」
「それなら何よりだわ」

うんと背伸びをして、目を覚ますリリー。「お手洗い、借りるわね」と言って洗面所の方へ向かって行った。

────騎士団に入ったら、こうやってなんでもない日常を送ることもなくなるんだろうか?
毎日命の危険に晒される中で、こんなにのんびりとした朝を友人と迎えることも、できなくなってしまうんだろうか?

味方だということはわかっていても、やはり実態が掴めないというのはどうにも恐ろしい。
私は本当に騎士団に入りたがっているんだろうか。まだどこかで、"自分の安全"を考えているのではないだろうか。

「────どうしたの、そんなに難しい顔して。また喧嘩した?」
「…ううん、ちょっと寝不足なだけ」
「そう? それなら良いけど」

リリーは「じゃあ今日の朝食は私が作ろうかな。時間をかけてじっくりやるから、30分くらいでも寝てると良いわ」と言ってくれた。
シリウスについて行く、と言った昨日の言葉に嘘はない。
でも────リリー、私は卒業後も、あなたと一緒に────。










リリーは昼過ぎに帰って行った。何度も別れを惜しみつつ、「また9月にね」と言って帰って行くその背中を、いつまでも見送った。

────さて、間もなく今度は手に負えない悪ガキが4人もやってくるのだ。おちおちしんみりしてもいられない。
リリーはこの2週間、本当に私の家を綺麗に使ってくれていた。それでも改めて、私は室内の片づけに取り掛かる。

洗ったお皿を戸棚にしまって、見られたくないもの(お母様からの手紙とか)をデスクの引き出しの奥にしまいこむ。もちろん、夏休みの宿題も同様だ。
それから夕食用の食材をいくらか買いに出かけて、戻ってきた頃には────ビンゴ、ちょうどアパートの向かい側から見慣れた4人の姿が歩いて来るのが見えた。

「お、良いところに」
「久しぶり!」
「お世話になります、イリス」

ジェームズ、ピーター、リーマスがそれぞれ朗らかに挨拶してくれる中で、唯一シリウスだけが大欠伸をしながら「…んにゃ」と何かしらの音を発した。ただ欠伸の合間に言われたところで、彼が何を言おうとしていたのかは全くわからなかった。

「狭いところですがどうぞ、寛いで」

アパートの中に彼らを入れると、「うわ〜、これがマグルの"普通の家"か〜」、「綺麗だね、もしかして僕らのために掃除してくれたの?」、「うわ、僕があげたかくれん防止器、飾ってくれてる!」とここでも三者三様の反応。相変わらずシリウスだけが全く興味のない様子で眠たげにしていた。

「ねえ、僕とシリウスもこの2週間、魔法を使わずに生活してたんだ!」

早速シリウスの言葉通り、自慢げにジェームズが私にそんな報告をしてきた。
まさか私がそれを知っているなどとは言えなかったので、わざと驚いたような顔をして「えっ、そんなことできたの!?」と言ってみる。後ろの方でシリウスがクスクスと笑っていた。

「もちろん。料理、洗濯、掃除、今じゃなんだってできるよ」
「本当? じゃあ今日の夕食はジェームズに作ってもらおうかな」
「いや…僕はイリスの手料理が食べたいな…な、そうだろ、パッドフット!」

見事なまでの掌返しだった。自分が"マグル流"に慣れていないことはちゃんと自覚していたらしい。シリウスも「ああ、消し炭はもう二度と御免だ」と言っていることから想像するに、本当に2人の生活は惨憺たるものだったのだろう。ただただ巻き込まれたフリーモントさんとユーフェミアさんが不憫でならなかった。

「手料理って言っても、簡単なものしかできないけど。今日はシチューの予定」
「うわぁ…まともな料理名を聞くのなんて2週間ぶりだ…」
「あの家で暮らしてたとは思えないような言葉だね、ジェームズ」

これにはリーマスもピーターも笑っていた。
それからいくらか狭く感じられるようになった私の部屋で、5人食卓を囲んだ。
リリーと穏やかに暮らしていた2週間も楽しかったが、こちらはこちらで他にはない賑やかさがあって楽しい。いつも誰かが何かを叫んでいて、聞いているのか聞いていないのか、とにかく笑いが絶えなかった。

風呂はともかく寝る場所についてはどうしたものかとずっと考えていたのだが、これについても4人は既に答えを持ってきていたようだった。道理で大荷物だと思ったら、全員が寝袋を持ってきていたらしい。家主の私はベッドを使い、他の4人は家具を動かして空いたスペースに雑魚寝をするということで満場一致していた。

「なんか申し訳ない…」
「でも君を床に寝かせるわけにはいかないし。かといって君のベッドで一緒に眠るなんて言い出したら、パッドフットに殺されるし」
「殺しはしないさ。多分」
「たぶん!?」

他の案が思いつくわけでもなし、そもそも招いた時点でその問題を考えていなかった私に彼らが「それで良い」と言ってくれるのだから、私は申し訳なく思いながらもひとりベッドに入ることにした。

男子達の寝入るスピードは恐ろしく早かった。日中あれだけエネルギッシュに動いていればこうなるのも当然か、と一応彼らも"人間"だったことを思い出し、どこか安心している自分がいた。
リリーと一緒にいた時は、2人とも…その…あんなに暴れることがないから。だから夜がとっぷりと更けるまで他愛のない話をして、それから順に寝落ちていくのがルーティーンだった。
鼾や寝息をBGMに、私は今日も将来のことを考える。

あと2年で、卒業だ。そうしたらようやく────あるいは遂に、安全地帯から放り出されることになる。
その時、私は────?










彼らとの生活も、約2週間続いた。
こちらはもう何もかもがメチャクチャだった。マグル生まれの母を持つリーマスや、言われたことをきちんと聞いてくれるピーターは一緒に生活するにも不便を感じなかったものの、甘やかされきって育ったジェームズと何もかもにも反骨心を見せなければ気が済まないシリウスを飼いならすのは本当に大変なことだったのだ。

家事なんて、とても任せていられない。狭い部屋じゃ、何もできない。
ジェームズはやたらと家のことを手伝いたがっていたが、私はそれら全てを丁重にお断りし、できるだけ日中は外に出かけることを提案するようにしていた。

「マグルの世界の探索なら毎年してるじゃないか。僕はマグルの生活を体験してみたくてイリスの家に来たのに…」
「それで私がこの家を追い出されたら元も子もないでしょ」

ブツクサ言っているジェームズを追い立てながら、私達は今日もロンドンの街を練り歩く。私にとっては慣れた街並みでも、彼らには物珍しいものばかりだったらしい。あちらこちらで足を止めては興味深そうに観察している彼らが人目を惹かないよう注意しているのが、これまた骨を折ることだった。特にシリウスとジェームズ。3秒目を離したらもうどこかへ行ってしまって見つけられないのだ。世の子供を育てる親に深々と同情の念を込めて、私は本日17回目となる双子探しに向けて空を仰いだ。

その日の夜には、ふくろうが5羽うちを訪ねてきた。

「来年度の教科書リストかな?」
「あ、きっとOWLの結果も戻ってくるよ」

ジェームズが「そんなもの興味ない」と言わんばかりに言ったそんな簡単な言葉に、私の背がびくんと跳ねる。忘れていた。そうだ、5年生の試験結果は夏休み中に知らされることになっていたのだ。

賢いことに、私達それぞれの前にそれぞれの封筒をぽとんと落とし、しばらく部屋の中を静かに旋回するふくろう達。私達は揃って来年度の教科書リストと、OWLの試験結果を覗いた。

『イリス・リヴィアは以下の成績を修めた。

天文学:O
魔法生物飼育学:O
数占い学:O
呪文学:O
闇の魔術に対する防衛術:E
古代ルーン文字:O
薬草学:O
魔法史:O
魔法薬学:O
変身術:E』


10ふくろう。闇の魔術に対する防衛術と…ああ、変身術までEだ。
闇の魔術に対する防衛術は苦手科目だったなりに頑張れたと思う。
ただ、何がなんでも呪文学と変身術だけはOを取るつもりでいたのに、と胃が凹む。
原因はわかっている。筆記試験の直前でスネイプと悪戯仕掛人の派手なドンパチがあり、リリーのこともあって、とても平常心ではいられなかったのだ。できなかった理由を人のせいにしてはいけないと思っていたので、これはひとえに動揺を抑えきれなかった私の弱い理性が悪かったのだとただ自分を責めた。

マクゴナガル先生はこの成績を見たらどう思うだろうか。まさかクラスで一番の出来を誇っていた生徒がEを取ってきたなんて知ったら、ひどく失望するような気がする。

「全科目O、まあ本気を出せばこんなもんだね。それより見ろよ! 僕、今年はクィディッチのキャプテンだ! 遂に僕の時代がやってきたぞ! なあ!」
「はいはい、君の時代は4年前から始まってるよ。あ…僕は魔法史でやらかしたな、ひとつだけEだ。同じ日に魔法薬学が入ってたからそっちばっか張り切っちまった」
「僕は呪文学、変身術、古代ルーン文字、魔法薬学がEだ。君らには全く劣るよ」
「まあまあムーニー、君が薬の調合が下手っくそなことなんて3年前からわかってたさ」
「ぼ、僕、なんとか全部10ふくろう取れたよ! 魔法薬学と変身術と防衛術と呪文学なんてEだ! すっごいなあ、この成績を見せたら、僕の両親はきっと喜ぶ────」
「そりゃあお前、あれだけ必要の部屋で"訓練"しといて、その4科目でA以下の成績なんてありえないぜ」

傍では4人がそれぞれそんな話をしているのが聞こえる。序列としては私はシリウスとリーマスの間、というところか。あれだけちゃらんぽらんに見えるジェームズが全てOをとってきたということに、私は思わず舌を巻く。

「そうら、優等生は? 全部Oか?」
「いや、防衛術と変身術でE」
君が変身術でE!?

4人が完璧なハモりで私の成績に驚いた顔を見せたので、ついこちらは笑ってしまった。しかし彼らも私が変身術で"調子を出せなかった"理由にすぐ気づいたらしく、一様に気まずげな顔をしてみせる。

「あー…直前のアレが原因か」
「ごめん、やっぱりもう少し後にしとけば良かったな」
「僕も止めるべきだったね」
「ごごごごごごめん、ぼ、僕が何かできるわけじゃないんだけど…その、ごめんっ!」
「いやいや、これが私の実績だから。実際、あんなことで心を乱して調子を狂わせてるようじゃ、卒業後なんてすぐ潰れちゃうよ」

リーマスやピーターはそれでもまだモゾモゾと居心地悪そうにしていたが、シリウスとジェームズは納得したように頷き合っていた。

「ま、それもそうだな。なんてったってフォクシーにはこれから騎士団の若きホープになってもらわなきゃいけないわけだし────」
「プロングズ、イリスが一度でも自分から騎士団に入りたいなんて言ったか?」
「でも、要はそういうことだろ?」
「まあ、うん。そうだな。とはいえ魔法史でOを落とした僕に言えることは何もない」

これまでも彼らの賢さは知っているつもりではいた。でもこうして一斉に成績を広げてみると、私の精一杯の"優等生ぶりっ子"なんて"本物"の前にたちどころに霞んでしまうのだと、改めて思い知らされる。

何はともあれこれで私達もNEWT学生。次の試験でこそ、挽回しなければ────そんな思いを胸に、私はふくろうをホグワーツへと返したのだった。

それから2週間。
はじめは酷いことだらけの生活だったが(家を爆破させないように注意したりだとか、騒音で苦情がこないよう使えもしない杖を突き付けて脅したりだとか)、これについては体が慣れる方が早かった。
いい加減あの2人はいなくなったところで放っておいた方が良いのだということにも気づき、いつどこでも穏やかなリーマスと好奇心より恐怖が勝ってひとりで動けないピーターとのんびり街を散歩することが常習化してきた頃。

満月を控えて、リーマスが家に帰ることになった。
"帰らなければならない"のはリーマスだけだが、そこはやはり友情のなせる業と言うべきか、彼らは全員口を揃えて「一緒に帰る」と言い出した。

「ホグワーツの外で遊ぶのは初めてだな?」
「うん。そろそろ僕らも叫びの屋敷だけでなく、もう少し広い世界に飛び出してみても良いかもしれないな」
「正気か? もしそれで僕が人を襲ったら────」
「僕らがリーマスを襲うから心配すんなって」

どうやら、今月は4人、どこか広いところで満月の晩を"遊んで"過ごすらしい。
危険がないことを祈るばかりだが、一線を弁えている彼らなら大丈夫だろう、と私は特に何も言うことなく送り出すことにした。

「それじゃあ、また9月に」

お決まりの挨拶。すぐに会えるとわかっていても、やはり少しだけ寂しさを覚えてしまう。

「うん、駅で会おうね」

たった1週間ちょっと会えないだけでも寂しくなってしまうほどの友人に恵まれたことを感謝しよう、と頭を切り替えることにして、私は笑顔で4人を見送った。
────4人が出て行った後の家は、まるで空き巣に入られたような様相を呈していた。リリーが出て行った後とは大違いだ。

まったく…リリーのようにおしとやかに、とは言わないまでも、もう少し家主に気を遣うという言葉を覚えてほしいものだ。特にシリウスとジェームズ。
心の中で文句を言いながらも、私の唇はどうしても笑ってしまっていた。

────そして、来たる2週間後。
私は再びキングズクロス駅で、恋しかった5人とそれぞれ再会を喜び合った。
本人達は言わずもがな、私は今年会えずにいたフリーモントさんとユーフェミアさんにまた会えたことが何より嬉しかった。

「夏休みの間は息子をありがとう」と、フリーモントさん。
「話は聞いたけど…相当ご迷惑をおかけしたでしょう? 大家さんから何も言われなかった?」とユーフェミアさん。

正直、大家や隣人から文句を言われなかったのは奇跡だと思っている。ただ、一応本当に大きな問題は何も起きていなかったので、私は2人を安心させようとその手をぎゅっと包み込んだ。

「ええ、とても楽しかったです。こちらこそありがとうございました」

────年々、2人がどんどん衰えていっているのを感じる。
フリーモントさんの頭は見る度に禿げ上がり、皺も増えている。ユーフェミアさんは頻繁に咳をしていて、立ち続けるのもどこか苦しそうだった。
もしかしたら、もう先は長くないのかもしれない────そんなことを一瞬考えて、ぷるぷると頭を振った。

嫌だ、考えるのはよそう。
2人にはいつまでも元気でいてほしい。せめて、ジェームズがもう少し────。

「おーいプロングズ! あっちでホグワーツ特急の車内販売の仕込みやってるの見たぞ! 先に卸値で僕らにも売ってくれないかな!?」
「ほんと!? 待って、今行く! 交渉次第ではイケるだろ!」

────もう少し大人になって、彼らを安心させられるまでは。

「あの子にはもう少し世の中の厳しさを教えてやらないとな。卸値で特定の生徒に売るわけがないんだから」

フリーモントさんはすっかり諦めた様子で笑っていた。止めるつもりはないらしい。

「イリス、あの子のことをよろしくね」
「はい、今年もしっかり監督しておきます」

…とは言っても、今のところ私の"P"バッジが機能したことなんて、一度もないんだけど。

まるで実の娘のように別れを惜しんでくれる2人に手を振りながら、(シリウスとジェームズは放って)私、リーマス、ピーターは特急に乗り込んだ。

「じゃあ、僕とイリスはまた監督生用のコンパートメントに先に行くから。空いてるところ、探しておいて」
「うん、わかったよ」

ピーターが1人で後方車両へ歩いていくのを見送ってから、私達は監督生が集まるコンパートメントに入って行った。
今年は早めに特急に乗ったというのに、彼らはもう既に全員揃っていた。

「ごめん、また僕達が最後だったみたいだね」
「良いのよ、私達がきっと早すぎたんだわ」

レイブンクローの監督生、メイリアが隙のない声でフォローしてくれる。
確かに、彼らは見た目ですぐに"監督生"だとわかるような、きっちりとした雰囲気を纏っていた。1年経って、彼らも監督生としての自覚を存分に育ててきたということだろう。
守るべき規則の基準が緩み切っている監督生なんて、どこをどう見ても私達の2人の外にはいなかった。絶対にこれは、普段悪戯仕掛人と一緒にいることが原因だと思う。

去年は「時間が経てばわかるわよ」なんて、自分が監督生として選ばれたことの意味を見いだせなかった私にリリーが簡単に言ってたが────。

「まず最初のホグワーツ特急の見回りの件だけど、去年やり方で何か問題点はあった?」
「いや、特に。今年も去年と同じ要領で良いだろう」
「オーケー。あとハロウィンやクリスマスのイベント準備で、各寮にシェアしておいた方が良いこととか、ある?」
「あ、じゃあ僕、ヘンリーから。地下牢の方の飾りつけに人手が足りないんだ。みんな自分の寮の周りに力が入るのは当然のこととして、大広間や地上階の廊下なんかは目につきやすいから精力的に準備が進むんだけど…」
「確かに地下牢はスリザリンの談話室か魔法薬学の授業でしか立ち入らないものね。わかったわ、じゃあ今年は私とレイが手伝いに行く。他は?」
「あ…その、最近クリスマス前になると厨房にやたら人が集まるようになっちゃってて…。ハッフルパフが迷惑を被ってるわけじゃないんだけど、しもべ妖精の仕事がかなり増えてるみたいだから、少し注意喚起をしてくれると嬉しいわ」
「みんな、聞いた? イベント前に無用な厨房への立ち入りを禁ずるように言っておくこと」
「これは先生方にも一言言っておいた方が良いんじゃないかな。アンナ、念の為スプラウト先生に僕らから後で言っておこう」
「そうね、ウィリアム」

メイリアを中心に学校の風紀を守るべくビシバシと意見が飛び交う空間内で、私とリーマスは完全に浮いていた(スリザリンの女子監督生、ドイルも終始無言ではあったが、話し合いに参加しようとしてはできずに口をぱくぱくさせているだけの私達の方がどう考えても無様だった)。

「あなた達からは何かある? リーマス、イリス」
「特にないよ」
「私からも特になし」
「そう。じゃあこういう形で…今年もよろしくね」

その頃にはもう、ホグワーツ特急は駅を離れ、田舎の田園風景を外に映し出していた。会議が終わり、車内巡回にトップバッターとして繰り出すのは去年同様、私とリーマス。

「…なんか、みんな1年でかなり変わったね」

リーマスも同じことを考えていたらしい。

「あれが監督生のあるべき姿ってことだよね。いやぁ、ちょっと怖かったな…」
「僕も。普段無法地帯にいるから大抵のことは怖くないと思ってたんだけど、まさか秩序を恐れる日が来るなんて」

2人して、こっそり笑い合う。

「僕らもちょっとは監督生"らしく"しないとダメかな」
「まあ、らしくしたところで一番私達と近い人が何も聞いてくれなさそうだけどね」
「僕らの場合、そこが問題なんだよなあ」
「よし、今年はあの人達に流されないよう、私達も1年遅れでちゃんと監督生になろう!」
「うん、僕も頑張るよ」

…なーんていう決意表明は、初っ端に中を覗いたコンパートメントで誰かのペットらしいネズミやカエルがブンブン飛んでいる光景を目の当たりにした瞬間折れてしまった。

「…あれ、2年生の時のジェームズも同じことしてたよね?」
「うん。特にお咎めはなかった」
「じゃ、良いのかな?」

……私達、相変わらず完全に麻痺してます。



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