一人暮らしをすることになった、ロンドンのアパート。
去年のうちに引越しは済ませていたものの、その年はここに居つく前にジェームズの家へ移動していたので、本格的な"一人暮らし"は今年から始まるようなものだった。ということでひとまず1ヶ月弱、改めてここで暮らしていくわけなんだけど────。

ひとりで生きていくことの大変さを、私は早々に思い知ることになった。

料理、洗濯、掃除────今まで"お手伝い"としてやったことはあっても、家事のほとんどはパトリシアがさっさと済ませてくれていた。私はそれに甘えて、ただ出されたご飯を食べて、畳まれた服を着て、綺麗な部屋のふかふかのベッドで眠っていた。
それはホグワーツでも同じだった。しもべ妖精が身の回りの世話を全部焼いてくれていたから、私はただただ勉強や遊びに打ち込むことができていたのだ。

それがこれからは、そういった"誰かの手で誂えてもらう"ことが何もない。
宿題をしながら家事をして、合間には生活に必要な品の買い物もしなければならない。

最初に困ったことは、自分の手際の悪さが思った以上のレベルだということだった。
初めてつくるご飯はあまりおいしくなかったし、準備も後片付けもとにかく時間がかかる。
洗濯物を干した途端雨が降ってきた日もあった。シャンプーを買いに行ったはずが、買い物リストを作らなかったせいで「あ、そうえいばあれも切れてたしこれもなくなってたな…」と土壇場で店内を何周もグルグル回って疲れ果てて帰った挙句、最初の目的だったはずのシャンプーを買い忘れていたことに気づいた日もあった。

たかが1ヶ月弱。されど1ヶ月弱。
私は今まで一体どれだけの人に助けてもらいながら生きていたのかを改めて実感した。

パトリシアやしもべ妖精など、進んで世話を焼いてくれていた人達はもちろんのこと、こうしてお金を工面してくれているお父様も、"上手な世渡り術"を教えてくれたお母様にも、今は素直に感謝している。

やっぱりあの時、無理にでも家を出て良かった、と思った。
家を憎んだことはない。ホグワーツに入ってからだって、リヴィア家の教えに助けられたことは何度もあった。

でも、いつまでもあそこにいたら────"私"という人格が許されないところで大人になってしまったら、きっと私は、本当に中身のない人間になっていただろう。

家が憎かったわけじゃない。でも、あのままあそこに囚われていたら憎くなってしまいそうだった。
お母様を否定するわけじゃない。でも、あのまま言うことを聞き続けていたらどこかで私の心が限界を迎えてしまいそうだった。

だから、ホグワーツに入って────家を出てひとりで暮らせるようになって────後ろを振り返る余裕ができて、良かった。
戻る気なんて二度とないけど、それでも感謝をしている、というのが本音だった。

ひとり暮らしは大変だ。でもその自由の重みが、私はいつも好きだった。










「へえー、それで魔法も使わず家事の全てをこなしているのか」
「そもそも未成年は魔法が使えないのよ、フリーモント」
「いや、わかってはいるが…想像ができないな、あれを全て自分の手でやるっていうのが」

8月1日、14時。ポッター家に一番乗りしたのは私だった。
気を遣わせてしまわないよう、事前にお昼ご飯は済ませてから行きますと知らせておいたのに、2人はおやつのファッジが大量に積まれたお皿と紅茶を用意して待っていてくれた。

ユーフェミアさんが私に熱いハグをする。フリーモントさんとはがっしり握手をした。
2人とも、私のことを娘のように温かく迎え入れてくれた。

「ごめんなさいね、ジェームズは今ちょうどダイアゴン横丁に行ってるところなの。お使いを頼んでて」

そういうことなら、と私はありがたくファッジをいただきつつ、この間始まった一人暮らしの様子を語って聞かせていた。予想通り、2人はこの話に非常に興味を持ったようだった。魔法なしでどう効率良く家事を回すかということを考えるのが今一番楽しいのだという話をすると、ユーフェミアさんが「効率なんて考えたことがなかったわね…確かに」と言っていた。

そりゃあ、全部同時並行でやれるのならそれが最も効率が良いことに違いはないだろう。

「でも、料理のことなら少しわかるわ。簡単に済ませる時は魔法に頼るけど、豪華なものを手作りする時は、スープを煮込みながら野菜を切ったり、お肉に下味をつけている間に付け合わせのもう一品を考えたり…いかに手が空く時間を減らすか考えるのって、意外と楽しいわよね」
「はい、そう思いました。…といっても、私はまだまだそこまで本格的な料理は作れませんが」
「イリスが一人暮らしを楽しんでいるみたいで良かったわ。ほら、もうすぐ大人になるとは言っても、まだ15歳だから…」

確かにジェームズがひとり暮らしをするなんて言い出した日には、まず何よりも"家屋"の心配をしなければならなくなるだろう。耐火性、耐水性、耐震性、その他あらゆる防御呪文を施しておかなければ、せっかくの家が1日で崩れ落ちることになる。

「ふふ…でもさっきも言った通り、私も全然まだまだ一人じゃ何もできてないんです。慌ててばっかりで、この間なんて洗剤の量を3倍も入れちゃって…本当に、パトリシアには頭が上がりません」
「偉いわ。そうやって、今までやってもらってきていたことに素直に感謝できることはとっても素敵なことよ」

ユーフェミアさんに褒めてもらえると、心がじんわりと温まる。
どれだけへたくそなひとり暮らしでも、頑張れそうな気がした。

その時、視界の端で居間の暖炉がエメラルドグリーンの炎に包まれたのが見えた。

「お、誰か来たようだな」

悪戯仕掛人の誰かが来たんだ。
心をわくわくさせながら待っていると、炎の中から現れたのは────。

シリウス!

私は思わずパッと立ち上がり、シリウスの元へ駆け寄った。
暖炉の中で灰を払いながら、シリウスが「よ」と笑う。

「思ったより早かったね。おうちは大丈夫だった?」
「万事問題なし。今年も大喧嘩をして飛び出してやったさ」

1ヶ月ぶりに見るニヤリ笑い。
たった1ヶ月しか離れていなかったのに、シリウスはまた背が伸びたようだった。しかも久しぶりに見たからだろうか、また顔が良くなっている気がする(身長が伸びるのと同じ感覚で顔が良くなるってどういうこと? 顔が綺麗なのは良いことなんだけど、ここまでくるとちょっとそろそろ腹が立ってくる)。

「シリウス、いらっしゃい」
「今年もジェームズをよろしくね」
「お世話になります、おじさん、おばさん」

シリウスは2人と握手をした後、私の頭をぽんぽんと叩いた。

「さて、じゃあそろそろジェームズも戻ってくると思うし、あとはリーマスとピーターだけね。そうしたら私は夕食の準備に取り掛かるわ。2人はゆっくりしてて」
「それなら私は一度庭の手入れをしてくるよ。明日からまた、箒を飛ばすだろう?」

彼が到着した途端、2人は立ち上がってそれぞれの仕事に戻って行った。今まで私が退屈しないように話し相手になっていてくれたのかな、とその背をありがたく見送る。

フリーモントさんが座っていた椅子にシリウスが座り、私は再びユーフェミアさんが出してくれた紅茶に口をつける。

「どうだった? 1ヶ月のマグル流一人暮らしは」
「自分が今までいかに子供で、周りの大人に助けられながら生きてきたかがわかったよ」
「へえ、意外と殊勝なことを言うもんだな」
「そりゃあ、全部自分でやるって本当に大変だったからね。────そのお陰で、今はお母様とお父様にも素直に感謝できるようになったし」

これには、シリウスも少し意外そうな顔をしていた。いつも私が「家に感謝している」という時は決まって、自分の"八方美人ぶり"に対する皮肉が込められていたからだ。でも今の私の言葉に、それはなかった。

「覚えてる? 1年生の時に私があなたに言ったこと」
「あまりに色々グチグチ言われすぎて覚えてない」

澄ました顔をして言うシリウスについ笑ってしまう。
私が思い出していたのは、クリスマスの日のことだった。

「私はさ、"自由なんてありえない"って言ったんだよ。あなたに"自由を手にしない限り一生誰からも理解されない"って言われて、腹が立って、"私もあなたもここを一歩出た瞬間不自由になる、自由になんて絶対なれない"って言い返したの」
「ああ…そんなこともあったな」
「でも、あの時の私は────シリウスはまた少し違うかもしれないけど、少なくとも私は、"自由"と引き換えに"安全"を提供されてた。"人格"は否定されてたけど、"命"は守られてた」

それを全面的に良いことだと捉えて良いのかどうかはわからない。
私は"安全"という水槽の中で息もできず藻掻いていることしかできなかったし、命の使い方がわからなくて、ただ中身のない11年を過ごしてきてしまったから。

でも、あの安全がなかったら、命がなかったら、私は今こうしてここに座っていることはできなかった。
だってもし私が、ご飯を食べられない家で育っていたら? もし私が、常に命を狙われるような環境にいたら?

────きっと私は、もうとっくに死んでいただろう。
1ヶ月ひとりで暮らしてみて、その大変さを知って、改めて思ったことがある。

人は、生きているだけで自由の素質を持っているのだと。

もちろん、こんな整備されきった世の中で"本当の自由"を手にすることは難しい。社会で生きていく以上、ある程度の制約を守らなければ、あるいは(たとえ制約を守っていたとしても)ひとたび不条理な事故が起きてしまえば、途端に"生きていけなくなる"ことなんて、15歳の私でもよく理解している。
だからあくまでこれは自由の"素質"だと表現したのだ。

自由であると錯覚できる程度の、都合の良い機動性。
自由であると陶酔できる程度の、些細な選択権。

人が"自由に生きる"というのは、大抵そんな小さな幸せのことを指しているのだろう。

そして私は幸いなことに、そんな"自由の素質"を手に入れるための"ちょっとした知恵と勇気"を、あの学校で与えられた。

だからこそ、私は不自由な環境から脱出できたのだ。
小さな幸せを、ようやく手にすることができたのだ。

「もちろん、そんなの全部結果論だけどね。うちの場合はたまたまお母様が望んでいるものがわかりやすかったから、"悪知恵"を働かせるのも簡単だった。それにたまたま良い友達に恵まれたから、私に決定的に欠落していた"勇気"も備わった」

そこまでしたのに、まだ家との繋がりは切れてないというのが、これからの私の課題なんだけど────。

「本質的には私はまだ全然自由なんかじゃないけど、それでも、改めてあの空っぽだった11年をゆっくり振り返る良い契機にはなったよ。振り返ってみて、私は別に心底両親を恨んでたわけじゃないって気づいた。私はただ、不自由であることに憤りを感じてただけだった

そう、ひとりになってよく考えて────あの11年抱いてきた違和感の本質が、他ならない私が今までずっと言ってきた"思想の違い"に起因していたのだと、ようやく気づくことができた。

"良家のお嬢さんとして誰よりも優秀なステータスを持った人間に成長し、同じくスペックの高い男の人と結婚して子供を産むこと"が第一の幸せだと考えていたお母様。
"成績さえ伴っていれば人格など関係ない、お金さえ稼げればほとんど家にいなくとも構わない"と考えていたお父様。

あの2人は、どちらも"ブランド"に取り憑かれた人間だった。
目に見える数字が全て。そこに心はいらない。見える形として、聞こえる評判として「いいご家庭ね」と言われれば、それで満足できる人間だった。

でも、たとえそれが"ブランド"のためだったとしても、2人は2人が"それが善い"と思う方法で私を育ててくれていた。
私にとってそれは"善くない"11年だったけど、彼らは彼らが信じたやり方で私の命を安全に守ってくれていたのだ。

だからこそ、自由を手に入れて思う。
あの人達が全て悪かったわけじゃない。あの人達は、決して誰からも憎まれる人達じゃない。

ただひたすらに、私と考え方が────思想が、異なっていただけなのだと。

「あの人達を嫌いになってしまいそうだったから、息ができなくなりそうだったから、私は家を出た。でも、そのお陰で────私はもうこれ以上あの人達を嫌いにならずに済むと思う。誰に向かっても"私は自由です"って言えるまでにはもう少し時間がかかりそうだけど、それでも自由の道を歩くための土壌を作ってくれたことに間違いはないから」

シリウスは真剣な顔で私の話を聞いていた。
きっと彼は、私ほどに"守られていなかった"のだろう。"思想の違い"も、こんなレベルじゃなかったはず。

彼は、私以上に不自由なはずだった。
それでもいつだって彼は、私よりずっと自由だった。

「だから改めて、シリウスはすごいなって思った」
「…随分唐突だな。僕がすごい?
「光の魔法に興味を持つだけで家族じゃないと言われるなんて、私以上に"個人"を殺されてると思った。でもあなたは、そんな家に抗い続けた。親戚になら味方はいるって言ってたけど、それでも敵ばかりの環境の中で、あなたはいつも自分を曲げなかった

そのせいで生まれたこの頑固さとプライドの高さ(と、ちょっと度が過ぎる反スリザリン精神)には悩まされたこともあったけど、それでも彼は私の先生だった。目指すべき指標だった。

「私がひとまずの自由を手に入れられたのは、それだけ私の不自由さが簡単にひっくり返せるレベルのものだったってこと。私が両親を憎まずに済んだのは、彼らの束縛が結局その程度のものだったってこと。あなたの置かれていた環境とは比べ物にならないくらい、私は最初から自由の素質を持っていた。あなたは去年"僕より先に自由を手にするなんて"って言ってたけど、私から言わせれば、あなたは私なんかよりずっとずっと前から自由だったんだと思うな」

そう言うと、シリウスは小さく笑った。少し自嘲気味でもあり、そしてどこか大人びた────この表情は知ってる、何かを諦めたような笑い方だ。

「そうだな。僕の家は────少々不自由という言葉じゃ足りないくらいには不自由だ。そんな中で自由に生きることは、生きながら拷問を受けてるみたいなもんだったよ。それでも屈さずに生きてきた自分を、僕は確かに誇ってる」
「うん、その通りだと思う」
「ただ、僕と君のどちらが自由かということは、比べられるものじゃないだろ」

諦念に染まった笑みの中で、シリウスの目にきらりと光が灯る。

「僕は確かに、君のように賢く家を出ることはできないだろう。それだけうちはもう汚染されてる。でも君は、"自分の不自由さは乗り越えられるハードルだ"と判断して、実際に飛び越えてみせた」

"不自由"っていう概念を全部一緒くたにして諦めていく奴は多いんだぞ、と付け加えるシリウス。制約の多いブラック家だからこそ、本来純血主義に反対していても、"生きていくために"純血主義に無理に賛同している親戚もいたんだそうだ。

彼に言わせれば、「不自由っていうのは、それだけで人の生きる気力を削ぐもの」とのこと。それこそ、彼のその不幸な親戚しかり────1年生の時の私しかり。

「ブラック家より多少自由の余地があったとしても、リヴィア家が不自由であったことに変わりはない。でもそんな中で、あー…さっきなんて言ったっけ? "ちょっとの知恵と勇気"? 君はそれを自分の力で得て、"ひとまずの自由"を手に入れた」

シリウスの長い言葉は続く。なんだか彼に真っ当に認められるのがむず痒くて、私は言葉を挟めないまま、彼の話を聞き続ける。

"自分が置かれた不自由な環境の中でとれる、最善の選択をした"。それは僕らのどっちもがやってのけたことだ。たまたまその"最善の選択"が、僕の場合は"反発"で、君の場合は"穏便な出向"だったというだけ────僕は最初から、君と僕は同じだと思ってるよ」

彼の透き通った灰色の瞳が、私の目をまっすぐに見つめる。窓から入る風が彼の髪を静かに揺らして、夏の強い日差しが彼の横顔を眩しく照らしていた。

「…ありがとう」

その時、私はうまく笑えていただろうか。
月のない夜空さえも自ら照らして生きてきた、一等星の輝きを持つ星のような人。
そんな彼に、私はその時、どうしようもなく魅せられてしまっていた。

友達だと思ってる。尊敬できる人だと思ってる。大事な人だし、既に大好きだ。

でも────今のこの気持ちは、そのどれとも違うような気がした。

「────お、ようやく他の奴らもお出ましのようだ」

この気持ちはなんだろう。それを考える前に、シリウスが暖炉の方を見やる。
エメラルドの炎が燃え盛った後、そこにいたのはリーマスだった。

「リーマス、久しぶり」
「元気そうだな」
「ああ、2人は先に来てたんだね。ピーターとジェームズは?」
「ピーターはまだだよ。ジェームズはダイアゴン横丁にお使い中だって」
「そっか。じゃあとりあえずおじさんとおばさんに挨拶してくるよ」
「おじさんは庭、おばさんはキッチンな」
「オーケー」

リーマスが来たことで、この話はおしまいになった。
シリウスは大きな欠伸をして、「僕もおじさんを手伝いに行こうかな」と椅子から立ち上がる。
それなら私も、ユーフェミアさんのご飯作りを手伝おう。きっと今日は、私達を歓迎するために"手料理"を作ってくれているだろうから。










今年の教科書リストを持ったふくろうがやって来たのは、その日の晩だった。
新しく追加された教科書は3冊だった。買い物が楽になりそうで良かった、と思った時、私の元にやってきたふくろうがもう1つの封筒を落としていった。

「────?」

周りを見ると、リーマスだけが同じように2つ目の封筒を受け取っている。
彼もすぐ、私の封筒に気づいたようだった。

「…なんだろ、これ」
「さあ…?」
「なんだなんだ、ダンブルドアからのプレゼントか?」

ジェームズが興味を持ったように私をリーマスを交互に見ている。
不思議に思いながら2人同時に封筒を開けると────中から、赤と金に塗られたグリフィンドールの紋章の上に、大きく"P"と書かれたバッジが出てきた。

────これ、見たことある。

監督生バッジだ。

ダイニングが一瞬静まり返った。リーマスも、手に同じものを持っている。
私達は互いに目を見合わせ、そして────互いに溜息をついた。

「監督生だってよ」
「しかもリーマスとイリスが!」
「うわあ、ぴったりだ!」

シリウス達3人は世界一面白いことが起きたかのように騒ぎ立てているけど、私とリーマスはあまりこの報せを喜んでいなかった。
リーマスが溜息をついた理由はなんとなくわかる。「シリウスとジェームズの悪戯を止めろ」というメッセージが聞こえてくるような気がしたからだ。当然、リーマスの手に負えない野獣に成長してしまった2人は、そんな彼の憂いなど全く気にせず「おめでとう!」「君の前じゃもう悪さができないなあ! おい!」と言っては背中をバンバン叩いている。

一方、私はといえば────。

正直に言うと、私は自分が監督生になる可能性を十分に考えていた。
だって、私はホグワーツの生徒として相応しい"優等生"として、これまで4年間生活してきたのだから。そりゃあ、大人の目線から見れば私が一番その立場に相応しいと思われてもおかしくない。

でも、だよ。
監督生って、他の生徒を"監督"する立場でしょ? 悪いことをしている生徒がいたら減点して、有事があった時には率先して前に出なきゃいけない。

このバッジを貰えたことは、ある意味私の"優等生ごっこ"がうまくいっている証拠だ。それ自体は喜ばしいんだけど────ちょっとその責務のことを考えると、どうしても気が重くなってしまう。

ほら…監督生ってそれだけで良くも悪くも注目されるじゃん…。スリザリン生から何と言われるか考えただけで胃が痛くなるし…。私はそんな彼らを必要に応じて減点とかしなきゃいけないわけで…。
だいたい私が誰かを統率するなんて、そんなことできるの? 私こそ悪戯仕掛人の面倒を見るので手一杯なのに、寮全体のことなんて、本当に見きれる?

色々と悪い理由ばかり並べ立てて、リスクの方にばかり目を向けて自信喪失していくのは私の悪い癖。わかってはいるんだけど、これもなかなか治らない。
しかしそれについても、彼らは全く動じた様子を魅せなかった。

「まあ、女子の監督生が君なのは1年生の時からわかってた」
「ウン。なんなら当時もミラより君の方が監督生っぽかった」
「お目付け役が2人か…腕が鳴るねえ」
「な。監督生2人の目の前で規則を破ったら何点減点されるんだろうな?」
「かっこいいね、そのバッジ…!」

ああ、もう。

再度溜息をついた時、リーマスと目が合った。

「お互い苦労しそうだね」
「本当にね。とりあえずよろしく」

唯一このバッジをもらって嬉しかったことがあるとすれば、それを見て喜んでくれたユーフェミアさんがデザートにケーキを焼いてくれたことだけだった。



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