今年に入ってから、新しい科目が3つ増えた。
リリーと相談して一緒に取った"魔法生物飼育学"と"古代ルーン文字"、それから"数占い学"。魔法生物飼育学と数占い学は私のチョイスで(これは魔法界にしかない分野に興味を持ったからだ。占いの分野においては"占い学"と迷ったけど、上級生の話を聞く限り占い学の方はマグルの世界にあるデタラメな占いと同じようだったので、やめておいた。マグル学は…それこそ今更学ぶ必要なんてないだろう)、古代ルーン文字はリリーのチョイスだった。ちなみに私は、リリーがこの科目を選んだ理由に、絶対レイブンクローの才女マチルダが絡んでいると確信している。

新学期最初の週でその3つの科目を初めて受けた時、私はまるで1年生の時に戻ったような錯覚を抱いていた。
教科書をよく読んで。先生に名前と顔を覚えてもらって。授業中は積極的に手を挙げて。空気に順応しながら、自分の"ハリボテの優秀さ"を誇大して見せて。

正直に言うと、どちらの新しい科目も特別得意とは思えない。まあでも、100点で良ければ目指せば取れないことはないだろう。特別難しいことは何もない、他の科目と一緒だ。初週が終わった時、私はこの年もなんとか無事に終えられるだろうという予感で安堵の溜息をついた。

ただひとつだけ残念なことがあるとするなら、魔法生物飼育学の授業内容が闇の魔術の防衛術と一部被っていたことだった。今年の先生(事情はよく知らないけど、この授業はなぜか毎年先生が変わる)は魔力を持っている"人外種"を用いて防衛魔法を教えるタイプの人だったのだ。
初回の授業で、先生はこれから学ぶ生き物のこととそれらに有効な魔法を一通り教えてくれた。先生が自分で書いたという教科書をパラパラと見ながら、私達はガイダンスを聞く。
水魔やまね妖怪であれば校内にも持ち込めるので、まずはそういった生き物を中心に実践訓練をするのだそう。そして、たとえばトロールのような大きな生物にまで進む段階が来た時には、流石にもう本物は持って来られなくなるからと言って、先生をその獰猛で巨大な動物と見なして上手な"逃げ方"を学ぶことになっていた。

防衛術の先生は、アップルビー先生と言う名の男性。
失礼とは思いつつ、名前の通り赤らかな顔をしている、細身で小柄な先生だ。トロールとは真逆の体型をしているけど、「実践練習の時、私はトロール大に成長する魔法を自分にかけるから、侮らないようにね」と言った瞬間、クラスの空気がピシっと締まったことに気づいた。決して無茶なほど厳しいわけではないけど、甘くもなさそう。

「────そして、学期末には人狼のことを学ぶ。この生物…ううむ…私はこの種族を"人外種"として教科書に載せることを反対したんだがね。どうしても出版会社の編集員が"危険生物"だと言って聞かなくて…。人狼は、本来"ヒト"だ。普段は何の害もない、我々と同じヒトなんだ。ただ、満月の夜にのみ、本人の意思とは関係なく狼となってしまう。そして、何人かの不幸な"人狼"が、不幸な"そうでない人間"を噛むことで、新たな人狼の数が増える。だから────現代の魔法界は、人狼を恐れ、ヒトとは異なる生き物と定義している。それは客観的な事実として、知っておかなければならない」

アップルビー先生は辛そうに言っていた。もしかしたら知り合いに狼人間でもいるのかもしれない、となんとなく考えながら、私は教科書の最後の方に描かれた恐ろしげな挿絵を見つめる。狼にしては体型が人間に近すぎるし、人間にしては顔つきが獣と似すぎている、遠吠えのような仕草をしている男性のイラストだ。

「だから、私も仕方なく基本の要綱に則って、学期末には人狼についての指導をする。しかし君らにはあまり彼らへの偏見を持ってほしくない。もちろん、他の魔法生物にもね。まだ人からの呪いを想定した"戦い"の訓練は早いかもしれないが、言葉の通じない、文化もマナーもわからない種族から否が応にも攻撃を受けるような状況が来てしまった時、君達がどう"自分を守るか"くらいは考えておくべきだろう。この2年で基礎は十分学んできたようだし────私が今年教えるのは、その基礎を大いに活用した、その名の通り"防衛術"だ。そう思ってくれ」

最後にそう言われて解散となった時、少なくともこの3人目の先生は、一番私とタイプが合いそうだ、と思った。
一年生の時、既にリーマスが「防衛術は"呪い"じゃなくて"お守り"だよ」と言ってくれていたので、入学当初に抱いていたこの科目への苦手意識はかなり薄れている。そこに加えて今年は本物の"教授"が「身を守る術を教える」と明言してくれているのだから、今年こそはこの科目を好きになれると良いな、なんて思った。

授業が終わると、リーマスが「やあ、今年も自主訓練、やるかい?」と早速声をかけてくれた。もうひとりの心強い先生の登場に、私のやる気がぐんと高まる。

「よろしくお願いします。…といっても、もう私がリーマスに教えられるようなことなんて何もないから…一方的に教わることになっちゃいそうだけど」
「そんなことないよ。イリスの変身術と呪文学に敵う生徒なんて、ホグワーツ中を探したっていないさ。僕もたまには防衛術以外で100点を取ってみたいんだ」

リーマスはいつになく機嫌が良さそうだった。防衛術の先生がとてもキビキビとした口調でわかりやすく、それでいて合理的な授業を行ってくれるとああまで明言してくれたから、あの科目が得意な彼からしたらそれは嬉しい話だったのかもしれない。

「リーマス、なんだか嬉しそう。アップルビー先生のことが気に入ったの?」
「うん、あの先生は良い先生だと思うな。僕らの実力を正当に判断してくれて、いつか来る"人との戦い"に備えた"本物の防衛術"の基盤固めをしてくれようとしてるんだって、すごくわかる」
「私、アップルビー先生はリーマスとちょっと似てるなって思った。ほら、あの考え方。防衛術はあくまで────」
「呪いじゃなくて、お守り?」
「そうそう。そんな風に防衛術を捉えてる人なんてリーマスかアップルビー先生しか知らないからさ、今年は去年までよりリラックスして頑張れそう。私、リーマスが将来正式な防衛術の先生になってくれたら嬉しいなあ」
「はは、まだ進路のことなんて考えてるわけないだろ。でもそうだね、もしそんな未来があるんなら、僕もああいう教え方をしたいな」

リーマスがここまでウキウキしているのは初めて見たかもしれない。
なんにせよ、"私の先生"がここまで乗り気で、今年も私の"補習"に付き合ってくれるのなら、それは私にとってもありがたい話だった。

────その夜、私は改めて新しく手に入れた教科書を、ベッドの中で開きもう一度読んでいた。
とはいっても、変身術と呪文学の教科書は買った日に読んでしまったので、粗方の内容はもう頭に入っている。

今年の変身術では、去年マクゴナガル先生が言った通り"消失呪文"を唱えたり、それから新たに"動物もどき"などについて学ぶことにもなっている(他にもたくさん新しい項目はあったけど、その単語だけは初めて聞く言葉だったのでずっと頭に残っていた)。

呪文学では呼び寄せ呪文などを扱うらしい。アクシオならもうとっくに使えるんだけど、私はずる賢くもまだそれを知らない体を装うことにしておいた。「最初から知ってます」と言うより、「初めて唱えた魔法が大成功しました」と言う方が私の(偽りにまみれた)才覚をより先生に印象づけることができるだろうと考えたのだ。

当然、この考えはリヴィア家による教えなんだけど…。

「……」

ホグワーツに入学してから、2つ気づいたことがある。1つは、私は家の方針が嫌いだということ。そして2つ、私は家の方針が嫌いなのに、"リヴィア家の教えに従うことは大人からの評判を上げるために最適な方法"であると認めざるを得なかったこと。
後者はユーフェミアさんの言葉を借りるなら、「スイッチをうまく使う」ということになるんだろう。そういう風に言い換えれば、家の教えにもあまり抵抗感もなくなる。
だから私はあくまで、"大人の前"では変わらず"優等生スイッチをオン"にするつもりでいた。

────もちろんそれは、お母さまのためなんかじゃない。むしろ2年前まで、全ての行動基準を"お母さま"ありきの考えで定めていた自分を、哀れにすら思っている。

じゃあ何のために優等生ぶるのかと言われたら、今の私には────そんな些細なことよりもっと優先すべき課題があるからだ。そのために私は、何がなんでも"優等生"であり続ける必要がある。
今はもう、"イイ子チャン"な自分を無意味に嫌って、胃を重くするつもりはない。この2年で学んだことは、私にとても大きな知識と勇気を与えてくれていた。

ひとつ加えるなら、去年の試験後に倒れて、ちょっと弱気になっていた私が「本当にグリフィンドールで良かったのかな」と言ってしまった時、シリウスとジェームズが何の疑問もないという風に「当然だろ」と言ってくれていたことを、今でも鮮烈な記憶として覚えている…そのことも、今の私の気持ちを大きくしてくれていた。

私は、今年も変わらず"私"を完成させるつもりだ。
家の教えに何もかも従うという弱さは、今の私にはもうない。
私はただ、自分が自分であるために、その教えを"利用してやろう"と思っていた。

あまり自分の言動が急激に変わったという実感がないと────ホグワーツ特急に乗っていた時つい思っていたそんなことも、確かに本音ではあるんだけど────だからこそ私はその"実感"を持てるように、今年与えられた1年を1秒たりとも無駄にしたくないとは思っていた。

自己判断をするなら、まだ私は中途半端なままだ。悪戯仕掛人やリリーには言いたいことを素直に言えるようになったけど、こと魔法界における立場に関する激しい対立には、(特にスリザリンとグリフィンドールそれぞれの伝記を読んでしまった後だと)どちらの立場にも正当性と不当性が混在していると思わざるを得なくなってしまうので、未だにこれといった自分の意見を持てずにいる。
せっかく2年間のうちで"自由"の快感を知ったのだから、今年はそんな迷いを捨てて、今度こそ確固たる自分だけの考えを持てたら良いなと、そんなことを考えていた。

────ちょっと思考が横道にそれてしまったけど、そういうわけで私はこれからも"エセ優等生"の地位を確立するため、熱心に勉強するつもりでいた。
マグル生まれの私には、そもそも魔法界で生きて来ていた子どもと比べると既に知識面におけるディスアドバンテージが目立っている。まずはその穴埋めをして、その上で誰よりも良い成績を収めなければ。────いつか訪れる、"私の長期的で壮大な計画"のために。

さて、決意を新たにしたところで改めて今年新調した教科書を並べてみる。
変身術や呪文学と同じように、新たに追加された魔法生物飼育学と古代ルーン文字、数占い学の教科書も、買った翌日に目を通していた。
魔法生物飼育学は簡単な暗記だけで済むだろう。古代ルーン文字は、解読に時間がかかりそうだけど…担当のバブリング先生の説明はとてもわかりやすかったので、こればかりはリアルタイムに勉強しながらできるだけ早く習得しておけば良い…と、思う。数占い学はパズルのようで面白いので、こちらも理解に時間はかかると思いつつ、悲観してはいなかった。

となると、残りは魔法薬学、薬草学、天文学、魔法史、闇の魔術に対する防衛術だ。
分厚い教科書の山を見ると、とても一晩で全てを網羅できるとは思えない。ひとまずこれら全てを読み込むためには2週間くらいかけよう。徐々に" 3年生"に求められる資質を見極め、それに沿う勉強の仕方を模索するんだ────。その一歩として私は、まず最初に一番苦手だった防衛術の本を取ることにした。

赤帽鬼、水魔、ヒンキーパンク…アップルビー先生が一通り説明してくれていた魔法生物の特徴と、攻撃する際の傾向、そしてそれに対抗するために有効となる呪文が書き添えられている。
中でもやはりトロールの対処法については厄介極まりないと思った。アップルビー先生が本当に"言葉も通じない、魔法なんて使わず乱暴に暴力に訴えてくる"トロールの姿をそのまま再現してくることはないと思うけど…。いつか来るであろう疑似トロールとの戦いを思い浮かべて、思わず身震いしてしまった。

それから1ページずつ読み進め、最後の項目────人狼についても、目を走らせる。
アップルビー先生の言う通り、人狼は基本的には何の特徴もない他の魔法使いと同じ生活を送っているそうだ。
ただ、満月の夜にだけ、彼らは自分の意思を捻じ曲げられて────どれだけ狼になりたくないと願っても、どんな魔法をかけても、どうしたって狼に変身してしまうらしい。

『人狼────魔法省レベルXXXXXに指定されている。人狼に噛まれても粉末状の銀とハナハッカの混合物をすぐに傷口に塗れば、被害者は同じ人狼として生き延びることが可能であるが、人狼として生きるより死を望んだ末の自害、という悲劇的な事件も多く言い伝えられている。人狼は変身するかどうかを自分で決めることはできず、一度変身すると自分の親友でさえ殺してしまいかねない。ところが、人間の状態に戻ったときには狼の状態で経験したことについての記憶が残っている。

────私は、その記述を読んだ時────恐れより先に、悲しみを覚えてしまった。
"人狼に噛まれたい"という理解の出来ない思想を持った人間がそこそこいるというのならともかく、この書き方では────あまりに不本意に人狼化させられた魔法使いが多いのは明白なように思えた。もっとも、アップルビー先生が人狼に必要以上に肩入れしているというのなら、話は別になってくるけど。

確かに、記述を読んでいると人狼はとても恐ろしい種族だ。その牙だけで簡単に魔法使いを殺せてしまう、獰猛な生き物。
でも────満月の夜、望んでもいないのに狼になってしまうような"善良な魔法使い"も、たくさんいたんじゃないだろうか。人狼が怖いと思うより先に、私はそんな魔法使いの苦悩の方を思いやってしまう。

ここには理性を完全に吹き飛ばされ、"狼"としての本能のままに魔法使いを────あまつさえ、親友でさえ殺してしまいかねないとまで書いてある。しかもその記憶が、満月の夜を乗り越えた後にも残るなんて────。

人狼になりたくなかったはずなのに、不幸な事故(あるいは悪意のある事件)によってヒトとして扱われなくなってしまった平和主義な魔法使いのことを思うと…知り合いに人狼なんていないはずなのに、心が痛くなってしまう。

更に読み進めると、私の他人事な悲しみを更に深める記述を見つけた。

『満月が近づくと、人狼はあからさまに憔悴する。一般的なヒトでいう"栄養不足"の状態に陥るといったイメージが最も近いだろう。』

そもそも魔法省レベルでXXXXXといえば、最高ランクの危険分子として扱われる称号だ。そこに人権などない。魔法省が────つまり魔法界の最高機関が、人狼を完全に"人外種"として扱っていることは、この項目を見るだけで歴然としていた。彼らは人狼にあらゆる権利を認めていない。日の下で暮らすことも、他の子どもと関わらせることも、ろくな職すらも与えてもらえない。他人からの処遇はハッキリ言って最悪だ。それなのに、彼ら人狼は満月を迎えるたった1日それ以外の時にでさえ自らの体を蝕まれ、苦痛に悶えなければならないなんて。

彼らが本当の狂気に駆られてしまうのは月に一度、満月の日だけだというのに、その一度のためだけに背負う業があまりにも深すぎる────。

────人狼の恐ろしさをまだ身を以て知らない私は、すっかり"人狼になりたくなかった人狼"に肩入れし、胸を痛めていまっていた。ああ、それがまさか、"人外種として敵対した時にどう対処するか"なんて書き方で教科書にまで載せられてしまうなんて。

「……あれ?」

そこまで思い詰めたところで、私はひとつ、嫌な仮説を思いついてしまった。
────本当に私の知り合いに、人狼はいないのだろうか?

改めて、人狼の項目を調べる。

普段は善良な魔法使い。そこに、他の人と何も変わりはない。
でも、満月の日だけ彼らは豹変してしまう。それは冷たく輝く月の光が、善良な魔法使いの人格を完全に変えてしまう疎ましい現象。丸い月が近づくだけで、要らないはずの栄養を不足させるような錯覚を起こさせる邪悪な呪い。

────そういえば────。

私の周りに、似ている境遇の人が1人だけいたじゃないか────。

いつもは上品で大人っぽくて、紳士的な魔法使い。
公平で、争いを好まず、できるだけ目立たないように────あるいは、自分の"素性"をあまり明かしたがらない魔法使い。

"彼"は、月に一度だけ、私達の前から姿を消す。

それがいつも満月の夜だったかは、正直覚えていない。
でも、私はいつも"彼"に対してこう思っていた。

────同じくらいの周期…月一のペースで、彼はあからさまに体調を崩しているようだった。それこそ、生理なんじゃないかってバカバカしいことを考えてしまうくらいに…。
今思えば、彼が体調不良だとか、母の見舞いに行くとか…色々な言い訳をして、詳しいことを説明しないまま寮を出て行く姿を何度も見てきていたじゃないか。

「綺麗な月ね。明後日あたりには満月かしら」
「最近ずっと晴れてますから、綺麗な月が見えそうですね」
「そうね」


それは、げっそり痩せこけたリーマスを送り出した日の夜、ユーフェミアさんとなんとなく交わした会話。

もちろんそれが偶然である可能性は大いにある。
でも、こう思った日もあった。

あれは、去年ジェームズがクィディッチの選抜試験を受けた日。
明るい陽の下でリーマス顔を見た時、私はこう思っていた。

でも…今のリーマスは、紳士とは程遠い様子だった。どっちかっていうと、これは野生の獣みたいな────そんな感じの顔。何かに飢えてるって言えば良いのかな、とにかくこう、不健康そうだったのだ。

野生の獣。
何かに飢えてる。

「………」

これは、憶測でしかない。たまたま似たような項目を見てしまったから、変な予想が私の脳を揺さぶっただけだ。
"彼"は本当に、体調が悪かっただけなのかもしれない。あるいは、本当にお母さんのお見舞いに行っているだけなのかもしれない。むしろお母さんが定期的に体を崩してしまうから、それを心配するあまり彼自身も精神的にやつれてしまっているだけなのかもしれない。

でも、毎月だよ…?

それに、私は考えながら、もう1つ嫌な予感が胸を過ったことを無視できなかった。

"必要の部屋"の存在を知った途端、入り浸るようになった"とある4人組"。
もちろん、何か規則を破るような"楽しい実験"をしているだけなのかもしれない。

でも、あのリーマスやピーターが試験をおろそかにしてまで、そんな"お遊び"に付き合う?

ああ、そういえば──── 一度だけ、あの4人に「必要の部屋で何をしてるの?」と尋ねた時、「気になるなら見に来いよ」と言ったシリウスを止めたのも、"彼"だった。
普段から悪戯仕掛人の考えることを"止めない"ことは事実だけど、"彼"がシリウスの"悪戯計画"を他言しないよう────まるでその計画を推奨しているとも取れるような────あるいはそれが相当な危険(それが物理的な危険なのか、法に触れるという意味での危険なのかはわからない)の伴うものだと認めているかのような────そんな言い方をしたのは、初めてだった。

ジェームズの様子だっておかしかった。
彼が家を、そして家族を愛しているのは明白な事実だ。それでも、それを差し置いてまで"やらなければならないこと"があるとしたら────。
これは間違いない。この2年でよく思い知っている。彼が家族を除いて最も重要視しているものがあるとすれば、それは"友情"だけだ。

────もちろん、それらの予想を全て総合しても、結論は出せない。
たまたま私がこの項目を読んで、身近な存在として落とし込もうとしたことで、無理に友人を────辛い立場に仕立てあげようとしてしまっているだけなのかもしれない。もしそうなのだしたら、それはとても罪深いことだ。

ただ────ただ、少しだけ観察する余地はあると思った。

次の満月は、2週間後だ。

これがただの好奇心なのか、それともシリウス達が(おそらく)考えているように"自分が彼らを手助けできるかも"と思って手助けをしたいと思っているのかは、まだわからない。

でも、一度生まれた疑念を晴らさないことには、私もずっとこのままこの件が気がかりになって仕方なくなってしまうことだろう。
本人、あるいは悪戯仕掛人の面子には絶対にバレてはいけない。

私はただひとり、この根拠の乏しすぎる予想の是非を明らかにするために────。

リーマス・ルーピンという男のことを、もう少し注意深く観察しようと密かに決めた。



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