イースター休暇を終え、矢のように飛んで行く日々を過ごし、私達はあっという間にNEWT試験を迎えることとなった。
ここまで発狂した生徒は3名、ストレスからハイになって罰則を食らった生徒が13名、そして試験を前に嘔吐や下痢が止まらなくなってしまいマダム・ポンフリーにお世話になった生徒が…数知れず。

OWLの時とは全く違った緊張感が私達の間には流れていた。2年前と同様に外部の試験官を招き、玄関ホールに集められる私達。今日からの一週間で私達の未来が決まる────重々しく口を閉ざす他の生徒のそんな心の声が聞こえるようだった。

いつもの私だったら、きっとそんな緊張の波に呑まれてあわあわと内心慌てふためいていたことだろう。しかし今の私は、不思議と落ち着いた気持ちになっていた。

多分それは、2年前にはもっと大きな問題を(言わずもがな、スネイプ逆さ吊り事件だ)抱えていたことが大きく起因しているのだと思う。あの時みたいに試験以外のことで心を乱されることがなかったお陰で、私はこの1年思う存分試験勉強に没頭することができていた。
そして、あえてもうひとつ理由を挙げるとするなら────。

「早く試験終わらないかな。まだ仕込み切れてない魔法薬をさっさと完成させに行きたいのに」
「それより卒業したらどこに行く? 多分騎士団に入ったら優雅にバケーションなんてしてられないから、1ヶ月くらいどこか旅行に行くってのもありだと思うんだけど」
「いや、卒業したら即刻騎士団に入りたい。もう心行くまで遊んだだろ、今更フランスやらドイツやらに行って何をやらかせるんだよ」
「みっ、みんなぁ…まず試験のことを考えようよお…僕もう喋ったらその分だけ詰め込んだ知識が逃げて行きそうだよ…」
じゃあ喋るな、ワームテール」

────私のすぐ傍に、最も気の抜けた4人組がいることもまた、私に"試験のことばかり案じているなんてバカバカしい"と思わせているのかもしれない。

試験1日目、午前一発目の試験は魔法史の筆記テストだった。
時間になって、私達は揃って大広間へと通される。

問題用紙と答案用紙、それからカンニング防止用の魔法がかけられた羽根ペンが各生徒に配られ、試験開始の合図が言い渡される。
大丈夫。問題の内容がスラスラと頭に入ってくるし、その答えもスラスラと書ける。この7年間守り続けた"優等生"という肩書きは、ちゃんと私を支えてくれている。

内心では優等生なんてくだらないって思いながら、結局その呼び名に甘んじて過ごしてしまったな────と、思った以上に余裕を感じさせる試験問題を解きながらふとこの7年間のことを思い起こした。
最初は優等生であることにしがみつこうと必死になってばかりいたっけ。テストで良い点を取ることだけが幸せだと思って、その"幸せ"に伴うお腹の痛みを必死で無視していた。

幸せって、辛いことなんだと思ってた。

でも、そんな価値観はここに来て一気に崩れていった。
幸せが辛いだなんて、どうしてそんな倒錯したことを考えていたんだろうと、あの頃の自分が可哀想に思えてくる。どうしてあんな小さな家の教えに囚われていたんだろう。どうして家から出たはずなのに、ずっと家のことばかり考えていたんだろう。

きっと私は、自ら世界を狭めていたんだ。
だって今はほら────世界は"自由"で"果てがない"ってちゃんとわかってる。今なら、世界は私のような人間じゃ到底知りえないほど広いものだって理解してる。"知らない"ということを知っているというだけで、世界の見え方はこんなにも変わるんだ。

そんな狭い世界の中で"優等生"という名前に固執するなんて、どれだけ無意味なことだったんだろう。
でも私は、それを思い知った後も"優等生"であることをやめなかった。
私はそれまで植え付けられていた教えを"捨てる"のではなく、"利用する"ことを選んだ。

当然、それは簡単なことじゃなかった。状況を瞬時に把握し、余計な争いを排除してできるだけ円満な解決策を模索する。その上で、自分が一番望んだ解へと状況を導いていく。
常に頭を回さないといけないし、頭を回しながら体も動かさないといけない。

私が見つけた新たな"幸せ"の形は、決して私を楽にはしてくれなかった。
でも、それを辛いと思ったことはなかった。

幸せは辛いものじゃない。
でも、楽なだけが幸せじゃない。

自由であるための苦悩。果てない旅を楽しむための迷い。
幸せというゴールの前に立ちはだかる────そう、ちょうどこんな試験のように────私が望んだ未来は、そんな"ちょっとした困難"が伴うものだった。

それで良い。だっていつだって、願ったものを手に入れるためには相応の代償が付くものじゃないか。
私は私らしくありたいだけ。悪戯仕掛人のように「罰則なんてクソ食らえ」なんて言えないし、リリーみたいにいつでもまっすぐ規律を守って生きていくこともできない。私はただ、コソコソと悪戯を楽しみながら"優等生"という肩書きを振りかざして、困った時にその都合の良い評価を利用したいだけなのだ。それがどれだけ狡いことかはわかっているけど、でもそれが私にとって一番"面白い"と思えてしまった在り方なのだから、もう仕方ない。

そしてこのスタンスは、ホグワーツを卒業しても続けていくつもりだった。
もちろん、騎士団には入るつもりだ。秘密裏に組織された光の魔法使いの集団と共に、闇の魔法使いと戦う覚悟ならしている。

でも、表立っては────私は、これからも"優等生"でいるつもりでいた。
どういう手段でそんな"表の顔"を作るのかって言われたら、それは────。

「そこまで!」

おっと、つい考え事に没頭しているうちに時間が経ってしまっていた。
過去の振り返りと未来図の設計をしている合間にもちゃんとペンは動かしていた。見直しの時間まで取れなかったことが残念だったものの、最終問題にまでちゃんと自信を持って解答を書けている。使っている教科書が大きく違っていた、なんてことでもない限り、きっと良い成績となって返ってくることだろう。

────それから1週間、私はずっと自分の今後のことを考えながら試験と相対していた。

どの科目も概ね良好。前回点を取りこぼしてしまった変身術は、その失態を上回るつもりで熱心に答えを書いたし、実技試験も張り切って要求以上の魔法を見せつけてきた。

ずっと苦手だった闇の魔術に対する防衛術も────皮肉なことに、去年のホグワーツ戦争のお陰でかなり腕が上がったことを実感していた。あれ以来、いつどこで戦いを仕掛けられても良いように様々な呪いや防衛魔法を勉強してきた甲斐あって、どんな問いを出されても、どんな課題を課されても的確に答えることができたのだ。
特に試験の最終日に行われた防衛術の実技試験については、今回は試験官との決闘形式で行われたのだが────それこそ、私がこれまで最も訓練してきた自負のあるものだった。もちろん相手は学生ということなので、手加減はしてもらっている。ただ、私が試験官の動きを素早く読んで対抗魔法を唱え、そして相手を怯ませた隙に武装解除呪文で杖を取り上げ縄で縛るという────すっかりお決まりになってしまった流れで完全に動きを封じると、縛られた試験官は「素晴らしい!」と床を転がりながら私を褒めてくれた。

リーマスに教わりながらたどたどしい魔法を唱え、防衛呪文を"恐ろしい呪い"だと思っていたあの頃が懐かしかった。

そうして、私の最後の試験が終わった。

この時間が終了したら、予定通りシリウス達ともう一度あの"新しい抜け道"の先にある広場でピクニックをする約束をしている。最後に呼ばれたジェームズが戻って来るのを待ちながら、先に試験を終えていた私達5人は早速集まっておしゃべりをしていた。

「意外と大したことなかったな」と言うのはシリウス。リリーも「まあ、勉強していた分のことはできたと思うわ」と満足そうにしていた(流石主席だ)。リーマスは「僕は君達ほどどれも楽には思えなかったよ」とそれでも笑っていたし、ピーターはいつも通り「どうしよう…全部落第になったらどこにも就職できないかも…」と嘆いていた。

するとその時、ちょうど別の教室で試験を終えたらしい6年生の集団が揃って玄関ホールを通り、それぞれの寮へと戻って行く姿が見えた。
去年の試験期間は、終わった後にリリーとジェームズが初めてのデートを本当に実現させるかどうかばかり気にしていたなあ、と1年前のことを懐かしく思い出す。試験から解放されて楽しそうにバラけていく後輩の姿を微笑ましく眺めていると────。

その集団の中にいたレギュラスが、つかつかと私達の所へ歩いて来るのが見えた。
それに気づいたのは私だけではなかったようだ。集団からひとり離れてこちらへ向かってくる姿を捉えた私達は、反射的にローブの中にしまっていた杖に手を掛け、いつでも戦いに対応できるよう備える。

────今まで、こうしてレギュラスをあからさまに敵対視することはなかった。
しかし、学生の身分でありながら彼が死喰い人に関わっているという推測は、私達の間でもはや共通認識となっている。レギュラスと直接の面識がほとんどなかったリリーやピーターでさえ、警戒心を露わに彼が何をやらかすつもりなのかと、注意深く観察していた。

レギュラスは私達のところへまっすぐやって来ると────なぜか、私に向かってその鋭い眼光を向けてきた。シリウスとよく似た灰色の瞳。シリウスの面影と重なる、綺麗な顔立ち。いつもながら、相手が排除すべき敵であることを理解していながらも、どこか兄の影を感じてしまうのか、私はレギュラスを前にすると────警戒しつつもリラックスしてしまうような、そんな不思議な心地になるのだった。

「リヴィア」

レギュラスは、明確に私を名指しした。

「何か用?」

なんとなく、彼の用事を推測しながらあくまで私は何も知らない体を装って尋ねる。

「半年前、お前は僕の持ち物を盗んだだろう」

────彼の言葉はあまりにも直球だった。
やはり彼は、"エメラルドの鍵"を私がすり替えたことに気づいていたようだった。

「どういうこと? 私がわざわざあなたの持ち物に関心を示すなんてこと、あるわけないと思うんだけど」

きっと彼は、あの日────クィディッチの練習後、突然闇に包まれた視界の中で鍵をすり替えた犯人が私だと確信しているはずだ。
でも、それを私が認めるわけにはいかない。だって私達はあくまで"レギュラスがヴォルデモートと内通している"ことを推測するに留まっているだけなのだから。彼がその鍵を使ってヴォルデモートと連絡を取り合っていると半ば確信しているということは、私達だけの秘密だ。

「11月、お前達と話をした時に突然視界を奪われた。そしてその後、僕が大切に持っていた"家の鍵"が偽物にすり替わっていたんだ」
「それで、その犯人が私だって言いたいわけ? 私だってあの闇がどうしてあんな突然私達の視界を覆ったのか、わかってないんだけど…」

言われて思い出した、という風を装って、私は首を傾げてみせる。
そうなのだ、こういう時こそ、私の"優等生"と"監督生"という立場は有利に働く。他の人から見れば私は、規律を守り清く正しく生きるただの善良な生徒でしかない。理由がどうあれ他人の持ち物をすり替えて盗み取るなんて、"監督生であり優等生でもあるイリス・リヴィア"がするはずない。

「いい加減なことを言うな。あの日に僕の鍵が偽物にすり替わったことには気づいていたんだ。そしてその日に何があったかを考えれば────僕の鍵が盗まれたことにお前達が関与していることは間違いない」
「事情はわからないけど、どうして"家の鍵"が偽物になったってその日のうちに気づいたの? それが本当に家の鍵だったなら、実際にクリスマス休暇でも迎えてその鍵を使う機会がない限り、それが偽物だったなんて気づく機会はないと思うんだけど」

────ここまで来ると、もはや私達は単に腹の探り合いをしているだけと言わざるを得なかった。
きっと互いに、互いの目的はわかっているはず。レギュラスはレギュラスで、私達が彼とヴォルデモートが繋がっていると見当をつけていることに気づいているはずだし、私はそれを察しながらあえて彼自身の口から"自らがヴォルデモートと関わっている"ことを吐き出させようとカマをかけ続けていた。

「普段から触っていれば、それが本物か偽物かなんてすぐに判別がつく。お前がいくら巧妙なそっくり呪文で模造品を作ったところで、毎日それを持ち歩いていた僕がその違和感に気づかないわけがないだろう」
「随分大切にしてるんだね、その鍵を。でも、あなたが言ってることはあくまで状況証拠でしかない。私はあなたの持ち物がいつどこで誰によってすり替えられたのかなんて知らないし、どうしてあなたがその鍵に執着してるのかさえわからないんだよ」

だからとにかく、あくまで私は白を切り通すことに専念していた。

「────残念ながら、僕はその鍵が"ブラック家の鍵"だなんてここ17年以上全く知らなかったけどな。それ、本当に家の鍵なのか? お前が確かに家族のことを尊敬してるのは知ってるけど、用途もわからないそんな鍵を常々持ち歩いてるなんて話、家を出るまでの16年間、噂にでも聞いたことなんてなかったぞ」

レギュラスの腹の内を探ろうとしている私に加勢したのはシリウスだった。たとえ家出したとしても、それまではずっとブラック家に閉じ込められていた彼の言葉は、確実にレギュラスの発言の矛盾を捉えていた。
そう。それが本当に"家の鍵"なのであれば(もちろんそれが嘘であることは私達全員がわかっているが)、同じ家の出であるシリウスがその存在を知らないはずがないのだ。

「兄さんは、正当なブラック家の継承者じゃない。家を裏切ったあなたに、我が家に伝わる秘密の鍵の所在を明らかにするわけがないだろう」

────やはりレギュラスは手強い相手だった。完全に彼の矛盾点をついてきたと思われたシリウスの言葉は、"もっともらしい理由"で封殺される。

どうする? ここでいつまでも"何も知らないフリ"をして曖昧な言葉で彼の腹を探り続けても、悠々とかわし続けてしまうのだろう。

それならば────まだ推測でしかないこの状況でこの話を切り出すことには相当なリスクが伴うが、私は腹を括って、一か八かの勝負に出ることにした。

「そこまで言うんなら────そうだね、私は自分の嘘を認めるよ。私は確かにあの日、あなたの鍵を偽物とすり替えて盗み出した。本物はもう、誰の目にも届かない場所に隠してある」

私はそこで、"真実"を語ることを選んだ。練りに練った作戦で"レギュラスに気づかれないよう鍵をすり替える"ことを遂行しきった私の仲間達は、突然掌を返した私の発言に対して揃って驚いたような顔を見せた。

「だって私は、あなたがそれを使って何をしていたか、見当をつけている。去年スネイプ達が私達を集団で攻撃してきたのも、そこに誰か1人狡猾な首謀者がいてのことだと、察しをつけてるんだ。────レギュラス、私はヴォルデモートと内通している本当の死喰い人は、あなただと確信してるんだよ」

これには流石のレギュラスも狼狽えたようだった。私が彼の正体に気づいていることをなんとなく察してはいたのだろうが、こうして真正面からその"推測"を突き付けられるとは思っていなかったのだろう。

「────それこそ状況証拠でしかないな。僕がいつ、お前達に呪いをかけた? 僕がいつ、去年お前達を襲ったうちの寮生を指揮した姿を見せた?」
「状況証拠って意外と馬鹿にできないって、あなたの方がよくわかってるんじゃない? だってあなたが今こうして私を責めてることだって、全部状況証拠に基づいた根拠のない理由からじゃない。私達はね、これまでのあなたの発言や思想を全部ひっくるめて、あなたが誰よりもヴォルデモートに心酔していることを知ってるんだよ。そんなあなたが、去年のスネイプ達の計画に携わっていないなんて、それこそありえない。今までのあなたの言動は、十分な裏付けになってる。────あなたが、ヴォルデモートと内通しているってことのね

レギュラスはその瞬間、怒りに満ちた眼差しで私を見た。曖昧な言葉の応酬で腹を探ることをやめ、一か八かの勝負に出た私の言葉をゆっくりと噛み砕いているようだった。

「────闇の帝王は、僕が最も尊敬する偉大な人物だ。僕はずっと、その配下に加われる機会があるとするなら、それを喜んで受け入れる準備をしていた」

────レギュラスは、遂に(曖昧な表現ではあったが)ヴォルデモートと繋がりがあることを示唆してみせた。私が以前彼と互いの思想を共有し合ったことが、その一つの原因になっているのかもしれない。ここまで私が彼を"敵"として認識していることを明らかにした以上、彼としてももはや私に無害であることをアピールする必要性はないと感じたのだろう。

「…ただ、僕は今ここでお前達を攻撃するつもりはない。ホグワーツにいる限り、ダンブルドアがお前達に加勢することはわかっている。闇の帝王のお傍にいられない以上、僕がお前達を攻撃したところでこちらの形勢が不利になることはわかりきっているからな」

でも、とレギュラスは言葉を続けた。
彼は確かに明確に"スネイプ達のグループのリーダーである"ことは言わなかった。しかし、彼がヴォルデモートを心から尊敬し、私達を敵と見做していることだけは、今ここでハッキリした。

レギュラスはきっと、心からヴォルデモートの思想が正しいと信じている。彼にとってホグワーツとは、自分の思想を真っ向から否定する居心地の悪い空間でしかなく、そして彼にとって私達の存在は"悪"と認識されているのだろう。

誰かの正義は、誰かにとっての悪になる。いつか自分で気付いたそんな言葉が、脳裏を過った。
そうだ、私は彼を"悪"だと見做しているが、彼もまた私のことを、彼の基準によって"悪"と断じているのだ。これはもう、それぞれの"正義"が対極にある以上、仕方のないことなのだろう。

「でも、遂に闇の帝王は、僕を忠実な配下として受け入れることを許してくださった。僕にとってはもはや、こんな甘い理想論ばかりを掲げる城など全く価値のないものだ。今は────ホグワーツにいる間はお前達に危害を加えるつもりはないが────覚悟していろ、必ずあの時の借りは返してやる」
「どうぞご自由に。私としても、もうヴォルデモートに付き従う人間は皆"敵"だと思っているから。あなたがホグワーツを離れた瞬間、私もきっとあなたに杖を向けることを厭わないと思う」
「お前だけは絶対に許さない、リヴィア。いつかこの手で、必ず復讐をしてやる」

レギュラスは最後にそれだけ言って、憤然と地下への階段を降りて行った。鍵の所在については、結局訊かれなかった。もしかすると、「誰の目にもつかないところに隠した」というその計画にシリウス達という"物を隠す天才"が関わっている以上、どこを探ったところで見つからないと諦めたのかもしれない。────だって彼は言っていたじゃないか、「闇の帝王は僕を忠実な配下として受け入れることを許してくださった」と。もはや鍵がなくとも、彼は別の方法ないしは卒業後の内定先として、既に自分のポストを固めているはずだ。

固めて、しまった。

彼と初めて会ったのは2年生の時だった。必要の部屋で、ホグワーツ創設者にまつわる本を読み漁っていた時、偶然彼がそこに入ってきたのだ。
あの時彼は、「図書館にないものを求めた」と言っていたっけ。今思えばそれは、ヴォルデモートについて書かれた本あるいは新聞記事を見に来ていたのかもしれない。当然そんなものがホグワーツに残っているわけがない。当時の、彼をまだよく知らなかった私はどうして彼がわざわざ必要の部屋に来たのかわからなかったけど────彼は彼で、きっと自分の思想を更に強固な形で確立させに来ていたんだろうと、今なら予想ができる。

だって、私は4年生になった時、再び彼に会ってその"思想"を知ったから。
彼は淀みのない口調で、"マグルは支配されるべきだ"と語った。その支配者に最も相応しい者こそがヴォルデモートなのであり、自分は彼を心から敬愛しているとさえ言った。

その時はまだ彼の言っていることは"単なる思想"に過ぎないと思ったし、彼の言うところには"社会の常識"の観点から見て一部の正当性があるとさえ思った。だから私は彼と相容れないとは言いながらも、その思想を真っ向から否定することはしなかった。

────しかし、もはやここまで来ればもう、私が彼に賛同するところはひとつもない。
次に会う時には────そんな時がもし来てしまうのだとしたら、私は迷わず彼に杖を向けるだろう。

「随分と嫌われたもんだな」

気楽な口調で、シリウスが私に言った。最初から弟と敵対していた彼にとって、今更彼と私が改めていがみ合ったところで本当に大した問題ではないのだろう。

「復讐したいならすれば良い。その前にきっと、私が返り討ちにしてやる」
「────強くなったよ、本当に君は」

私がもし獣だったら、きっと今は牙の隙間から唸り声を上げて今は影もないレギュラスに向かって威嚇していたことだろう。少し驚いたような顔をした後、シリウスは今度こそ私のことを笑ってみせた。

ジェームズが戻ってきたのはその時だった。ぴりついた空気に気づくと「何かあった?」と笑みを引っ込めて尋ねてきたが、それに答えたのもまたシリウスだった。

「別に。ただイリスがまたひとつ大人になったってだけさ」



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