nightmare
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「名字さんってさぁ、気取ってない?」
「自称サバサバ系女子でしょ?」
「東京から来たからって上から目線だよね」
「転校生らしく大人しくしてろよ」
「無視でいいんじゃない?」
やだ。
なんで?
気取ってなんかいないよ。
普通に話してただけなのに。
分からないことを聞いただけなのに。
「…!!」
「うお!びっくりした」
「え…いわいずみ…なんで」
「お前、教室で寝てたぞ。声かけようとしたらすげー勢いで起きたからびびった」
「あ、」
そっか、私は教室にいたのか。
きょろきょろと周囲を見渡す。
教室にはジャージ姿の岩泉しかいなくて、外は暮れてきているからだいぶ寝てしまったのかと不安になって手元のプリントに視線を落とした。
「珍しいな、課題忘れてくるとか」
「うん、おかげで居残り…」
「ほとんど終わってるじゃねーか」
「だね、あと少し」
プリントが湿り気を帯びてよれてしまっているので首を傾げると、私の前の席に腰を下ろした岩泉の指が私の額へ伸びてきて視線を上げた。
「汗すげー。大丈夫か?」
「あ、うん。ちょっと嫌な夢見た」
そうか、プリントは私の汗で湿っていたのか…。
額に貼りついた前髪を岩泉がそっと剥がしてくれるのがなんとなく心地好くて目を閉じた。
「…俺、忘れもん取りに来ただけだけどもう少しで部活終わるから、そしたら一緒に帰るか?」
「え?」
「また迎えに来るから、それまでに課題終わらせとけよ」
「あ、うん。ありがとう」
「じゃーな」
自分の机から何かを取り出すと岩泉はさっさと教室を出て行く。
その背中が離れていくのを見ていたら何故か無性に泣きたくなった。
「…行かないで」
「なんか言ったか?」
「あ!ううん、なんでも!!」
「…そうか」
岩泉が扉を開けたときに小さく呟いた言葉だったのに、くるりと振り返って反応されて驚き、慌てて手を振った。
「名字、終わったか?」
「うん、職員室に出してきた」
「名字ちゃんお待たせ〜!帰ろ帰ろ〜!」
「及川くんもいたんだ」
「同じ方向だしな」
「そうだね」
課題を提出まで終わらせて、少しずつ暗くなっていく教室で窓の外をぼうっと見ながら岩泉を待っていた。
迎えに来てくれた2人の元へバッグを肩にかけて駆け寄ると、2人からふわりと制汗剤の匂いがしてなんだか安心する。
「及川くん、ファンの子たちはいいの?」
「さすがにもう遅いから帰ってるよ」
3人で校門を出ながら、私はふと後ろを振り返った。
あれからまだ1ヶ月も経っていないんだな…。
この2人と出会って一緒にこの学校の前まで歩いてきたことを思い出す。
すごく前のことみたいで、でもあの時の記憶は鮮明だ。
「どした?」
「ううん、何も」
「岩ちゃんがアイス奢ってくれるって!」
「なんでだよ!」
「わー岩泉ありがとう!」
「…今回だけな」
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200929
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