talking
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「あ、おかえり〜」
「なに人の部屋で寛いでんだよ」
「おばあちゃんに言われてお裾分け持ってきたら岩泉ママがアイスくれて部屋に入れてくれた」
「…」
おばあちゃんのお使いで岩泉家のインターフォンを鳴らし、出てきたお母さんが
「はじめ、今ちょっとコンビニ行ってるから上がって待ってて。アイスどうぞ」
と誘ってくれたので、スーちゃんにも会いたかったし喜んでお邪魔させていただいた。
案内された岩泉の部屋でアイスを食べながらスーちゃんと戯れているところに帰ってきた岩泉が大きくため息をついている。
「普通に馴染んでるな、お前」
「ん、まだ2週間なのにね。宮城って温かい所だね」
「秋田とはちげーの?」
「えっあ、あー。まぁそうだね。それに温かいのはこの地域だからかもだね」
「まーそれは分からんが」
やばい墓穴掘った。話題変えなきゃ。
「そういえばね、春子ちゃん彼氏できたんだって!」
苦し紛れに今日知った大ニュースをぶつけてみるが、本人は首を傾げている。
「春子ちゃん?」
「嘘でしょ、小川春子ちゃんだよ」
「あぁー、あの小さくてボケッとしてる奴か」
「普通に可愛いって言えないの」
そろそろクラスメイトの名前くらいは覚えてほしい。
「あ〜あれだろ、お前が目指してる…ふわなんとかって」
「ゆるふわ」
「それ。で、彼氏がなんだって?」
話が逸れてもちゃんと私の話へ戻してくれるんだ。
本当にいい奴だなぁ、と思いながらアイスを頬張った。
「大学生の彼氏なんだって!年上!」
「へえー」
「いいよねぇ、青春。高校生って感じ」
「彼氏ほしいの?」
「そりゃねー。青春はしたいですよ」
「フーン」
他愛もない話をするこの時間がなんだか心地好い。
教室ではあまり話さないから余計にそう思うのかな。
「名前ちゃんはゴールデンウィークどうするの?」
「うーん、部屋の片付けかなぁ〜」
「まだ引っ越しの荷物片付いてないの?」
「へへ。なかなか腰が上がらなくて…」
「うーん、分かるなぁ。やり始めたら燃えるんだけどね」
お昼休みに春子ちゃんらとお弁当を食べながらお喋りをする毎日がとても楽しい。
最近では恋バナも始まって、女の子って感じの会話が余計にわくわくする。
「春子ちゃんは?デート?」
「大学生もゴールデンウィークあるの?」
「あー、うん。あるみたいだから遊ぶ予定だよ〜」
「いいなぁ。彼氏!」
「ねー!私も欲しい」
「どんな人がいい?」
「及川くんみたいな人かなぁ」
「理想高すぎるよー!」
「名前ちゃんは?」
「ふえっ…どんな人だろう?憧れるのは、自分を持ってる強い人かな?」
「いいね、男らしいよね」
自分に矛先が向くと何故だか照れてしまう。
「名前ちゃん、可愛いし及川くんみたいな素敵な人が似合いそう!」
「え!?全然だよ!!」
春子ちゃんが突然爆弾を落とすような発言をしたので驚いて大袈裟なほどに両手を振り回してしまった。
しかし発言者の春子ちゃんは、相変わらず可愛い顔で笑っているし、他の2人も確かに〜と同意していて余計に焦る。
「爽やかなカップルって感じで絵になるよね」
「そうそう、2人ともふんわり優しいし爽やかで」
え、及川くんがふんわり…?
岩泉に余計な一言をぶつけてはシバかれている彼はあまりふんわり爽やかではない。
そして私も本当はふんわりも爽やかも当てはまらないけど、憧れていたタイプに近づけている気がして少し嬉しくなった。
放課後、学校を出ようとしたところでロードワークへ行く男子バレー部と遭遇した。
「名字ちゃん、バイバーイ」
「気をつけて帰れよ」
及川くん、岩泉が順に声をかけてくれて、私も微笑み手を振り返した。
「2人とも部活頑張ってね」
知り合い?、うん近所の子〜と他のバレー部の子たちと話している及川くんに目を向けると、同じ1年生らしき男の子たちと目が合ったので愛想良くペコリとお辞儀をしてから学校を後にした。
その夜
『名前ちゃん、女の子らしくて可愛いねって言われてたよ!ヤッタネ!』
と及川くんからメッセージが届いたので、小さくガッツポーズした。
『ちなみに岩ちゃんはそれ聞いてニヤニヤしてた』
という追撃のメッセージに
『岩泉覚えとけよって言っといて』
と返信すると、すぐに了解のスタンプが返ってきた。
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200927
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