call
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ゴールデンウィーク初日。
岩泉と及川くんは合宿があり、朝早くに出発したらしい。
特にやることもないなと思っていたら、春子ちゃんから突然連絡が来て、遊びに誘われた。
私服変じゃないかな。
気合いを入れすぎていないか不安になりつつ、待ち合わせ場所に着くと春子ちゃんが待っていてくれたので小走りで近寄った。
「ごめんね、お待たせ」
「あ、名前ちゃん!待ってないよ〜今来たところ」
「わ、春子ちゃん可愛いっ…」
「え!?そ、そうかな…ありがとう…」
あらためて春子ちゃんを見ると私服もふんわりしていて可愛いかったので、思わず褒めてしまうと春子ちゃんが頬を赤くしながら笑うので余計に胸がキュンとした。
「今日、急に呼び出したりしてごめんね」
「全然だよ〜!ゴールデンウィーク暇だったから嬉しいよ」
「あれ、秋田のお友達とは会わないんだっけ?」
「あー、うん。ちょっと距離もあるしね…夏休みくらいかな」
「なるほど」
2人でお買い物をして、チェーンのカフェに入っておしゃべりをするのが、憧れの高校生活で幸せだ。
しかし、ふいに真面目な表情になった春子ちゃんに、緩んでいた口許が引き締まる。
「あのね、今日は名前ちゃんに相談したいことがあって…」
「えっ…どうしたの?」
「あのね、彼氏に…この連休中泊まりで遊ばないかって誘われたの」
「ふぇ?えっと。それって…」
「そ、そういうことだよね?」
「う…うん」
2人して赤面してしまう。
「でも私、まだ早いかなってちょっと思うし心の準備も出来なくて」
「そ、そうだよね」
「でももしお泊まりするってなったとしても親に正直に言えるわけないって答えたら、友達の家に泊まるって言えばいいよって言われて…」
「…」
「名前ちゃんならどうする?それっていいのかな…」
「…どうなんだろう。私たちまだ未成年だし」
「そうだよね…でも、断ったら嫌われちゃうかなぁ…」
不安そうにする春子ちゃんにかける言葉が見つからない。
こういうとに、なんて言ってあげたらいいんだろう。
「そ、それでね。もし、もしもお泊まりするってことになったら… 名前ちゃんの家に泊まりに行くって親に言ってもいいかなぁ?」
「え!?」
それは、嘘の片棒を担ぐことになるんだよね?
それって、やっていいことなのかな?
「ごめん、やっぱり難しいよね」
「わ、私たちまだ中学卒業したばかりだし…何かあったときに責任とか、取れないし…」
「うん…」
「ご、ごめんね?」
せっかくできた友達だから力になりたい。
でも無責任なことはできない。
家に帰ってからも、私の答えは正しかったのか分からずにモヤモヤしたままだった。
夕飯後、部屋で考えている間にうとうとしていた頭を、スマホの着信音が揺り起こした。
「…もしもし?」
「あ、名字か?」
「あれ?岩泉?」
寝ぼけながら取ったため相手を確認していなかったので、スマホを耳から離して画面を確認すると、岩泉一と表示されていた。
「おう。悪いな急に」
「あれ、合宿じゃないの?」
と聞くと、電話の向こうから何人もの男の子の声が聞こえてきた。
『おぉ出たー!スピーカーにしろ!』
『名字って誰?どんな子?』
『岩泉のクラスの女子っす。可愛い感じの子っすよ』
『名字さ〜ん!急にごめんねぇ〜』
「…岩泉?どういうこと?」
なんだか後ろが騒がしそうで、揶揄われているのかなと少しイラッとしてしまう。
すると電話口の向こうで代わってと声がしたかと思ったら、急に通話相手が及川くんに切り替わった。
「ごめんね名字ちゃん。岩ちゃんがトランプに負けて、一番最近連絡を取った女子に電話をかけるっていう罰ゲームさせられてんだ」
「あぁ、そういうこと?」
「先輩たちいるからさ、岩ちゃんも断れなくて…ごめんね」
及川くんが小声で事情を説明してくれたので、まぁ体育会系は仕方ないよなぁと納得して、大丈夫だよと告げる。
おそらくスピーカーにされていて、私の声は向こうの全員に届いているだろう…普段お世話になってるし岩泉の顔を立ててやるか。
『名字さ〜ん!岩泉がお世話になってまーす!』
先輩らしき人の声が聞こえたので、私もそれに反応した。
「こんばんは。皆さん合宿お疲れ様です」
『おぉ、声可愛い!』
『いい子!』
及川くんが小さな声で、さすが☆と呟いて岩泉と交代した。
「巻き込んでごめんな」
「ううん。もう寝るだけだし大丈夫だよ」
普段岩泉と話すよりもワントーン高い声で答えると、向こうはさらに盛り上がっているようで
『名字さんもうお風呂入ったのー?』
『いま部屋着?パジャマ?』
と質問が飛んできて、岩泉が焦っているのが分かった。男子高校生しょーもな。
でもまぁ、ここは私が大人になるべきか。
「お風呂は入ったけど…格好は、内緒です」
一瞬の沈黙と、岩泉の息を呑む音があってからまた騒ぎ出す声がして少し笑える。
「それじゃあ明日も部活、頑張ってくださーい。岩泉、おやすみ」
「あ、お、おやすみ」
うまくやれたかな?
ほうっと息をついていると、及川くんからメッセージが届いた。
『名字ちゃん、ナイス☆』
親指を立てた猫のスタンプを送り返し、その後岩泉から届いた『すまん』というメッセージには、アイスのマークだけ送った。
了解のスタンプが送られてきたことに気付いたのは、翌朝だった。
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200929
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