秋といえば何を思い浮かべますか。




季節は秋めいて、少しずつ朝晩の冷えを感じるようになった。

最近の海常高校は文化祭と体育祭の準備で盛り上がりを見せている。

一週間後に迫った学校最大級のイベントに、生徒たちはそわそわと落ち着かない。

私も例外ではなく、楽しみのあまり授業に集中できない典型的な学生を演じていた。

あれ?今まで授業に集中したことなんてあったかしら?




日程は3日間あり、文化祭が1・2日目に行われ、3日目は体育祭である。

3年生は受験生ということで文化祭の出し物はしない代わりに、体育祭で応援合戦という名のダンスがある。

部活が盛んなうちの高校でも、文化祭・体育祭の準備が優先されることもあり、部活は人がまばらの状態だった。


私たちのクラスは縁日というゲームコーナー的なマルチな出し物をする。

輪投げ、輪ゴムと割り箸でできた射的、風船ダーツ、ミニバスケ。

準備はそれなりに大変で、さらに当日も忙しいというなかなかハードな出し物であるが、そこは行事ごとが大好きな高校生、苦労レベルとか効率なんて気にしていない。

なるべく部活に参加しているものの、たまにクラスに顔を出しては友達と段ボールにペンキを塗った。





「今日、笠松は遅れてくるそうだ」

文化祭が明後日に迫った放課後、監督の言葉に部員たちはどよめく。

体育祭の応援合戦の練習らしいが、笠松先輩はいつも部活の時間には間に合ってきていた。

どうして今日に限って…と不思議に思いながらも準備運動を終えた。

「名前、笠松が遅れてくる理由知ってる?」

口元に笑みを湛えた森山先輩がやってきた。後ろではやめてやれよと小堀先輩が苦笑いしている。

なに?ちょっと面白そうな話じゃない…。

口角が上がるのを堪えながら、首を横に振った。

すると森山先輩はいよいよ楽しそうな表情で、吹き出しそうになりながら口を開く。

「笠松、ダンスが下手すぎて特別講習受けてんだって。クラスのやつらから聞いた」

えっなにそれ。めちゃめちゃ面白い展開じゃないか。

「森山、あんまり言いふらすなよ。笠松がかわいそうだ」

小堀先輩の忠告なんて私たちには聞こえない。

笠松先輩、ダンス下手なんだ。ぷぷ。

「放課後の練習も部活優先にしてたからさ、ついに女子にキレられたらしい。笠松くんのせいで入賞できなかったらどうしてくれる!って」

あ、ちょっとかわいそうかも。

こういう行事に気合を入れる系女子のグループに詰め寄られる笠松先輩が脳裏に浮かんだ。

苦手な女子たちに囲まれてさらにぎゃんぎゃん喚かれる笠松先輩…うわぁかわいそう。でも面白い。


「かわいそうですけど…笑っちゃいますね」

「だろ?きっとボロボロになって帰ってくるぜ」

「大丈夫かなあ」

くすくすと笑っている私と森山先輩をよそに、小堀先輩は真剣に笠松先輩の安否を気にしていた。





部活ももう終わりかけた頃、やっと解放されたのかかなり老け込んだ笠松先輩が体育館に現れた。

「お、お疲れ様です」

想像以上の疲れ果てっぷりに軽く引きながら挨拶をすると、先輩は手を挙げて応えてくれた。

「笠松大丈夫かー?」

心配そうな小堀先輩と、引き気味の森山先輩がやってきて、笠松先輩は小さく頷く。

声が出ないのかな。いったいどれほど扱かれたのだろうか。



私たち3人はしばし様子を窺っていたが、

「女子ばっかりで怖かっただろう。さぁ、敏腕マネージャーの名前に癒してもらいたまえ」

猫背になっている笠松先輩の前に、森山先輩が私の肩を掴んで後ろからぐいと押し出した。

「女子の名字差し出したら逆効果なんじゃ…」

と小堀先輩の真っ当な意見に、私もコクコク頷く。

しかし笠松先輩は、黙って私の顔をじっと見つめていた。

「か、笠松せんぱい?」

いつもよりも凛々しさが足りなすぎるけれど、笠松先輩に見つめられて体温が上がっていく。

肩を掴んでいる森山先輩に気付かれてしまうのではないかとさらにそわそわ落ち着かない気分だ。


ふう、と笠松先輩が俯き長めのため息を吐く。

そして顔をあげると、いつもの笠松先輩の顔に戻ってた。




「なんか名字の顔見てたら疲れ取れたわ」




は?

いま、なんと?

固まる私と、その他2名。

私の顔見て、元気が出たってこと…?

え、ちょ。どういうことですかそれは。


「な、笠松、お前…」

珍しく動揺した森山先輩が私の肩から手を離し、おずおずと笠松先輩に近寄った。


「このアホ面見てたらダンスくらいで疲れてる自分がバカらしくなった。すぐ準備して部活やる」

きりっと眉をあげ、笠松先輩は部室へ小走りで向かう。

その後ろ姿を未だ呆然と見つめる私とその他2名。





「小堀、名前…」

「ん…?」「はい…」

「なんかオレ、ちょっと笠松のこと怖くなっちゃったよ…」

「分かるよ森山」「はい…」

「鈍感で天然って…すごいな」

森山先輩の言葉に、私たちは深く頷いた。





すぐに部室から出てきた笠松先輩は、いつもの主将だった。

部員に檄を飛ばし、自らも厳しく鍛えている。

私はそんな笠松先輩からかけられた言葉が頭から離れず、注意散漫状態でなんとかマネージャー業をこなした。

でも許してほしい。

好きな人から、顔見て疲れ取れたなんて言われて冷静でいられる女子高生なんていないと思う。

たとえそれがアホ面だとかバカらしくなったとかよく分からない理屈でも、さらりとそんな言葉が口から出てしまうだなんて…。

笠松先輩…恐ろしい子!!








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