とんだスタート切っちゃいました。




いやー…。

まったく時が経つのは早いというか…。

急というのか…。




今日から夏休み!

そして初日からの夏合宿!



と、いうわけで遅刻しないように慌てて準備して、小走りで学校に向かっているわけです。


球技大会終わって、笠松先輩と映画行って…

そんなことをしているうちに、季節は夏になっていたわけです。






「おはよーございまーす」

「あっ名前先輩!」

学校に着くと、ほぼメンバーは揃っていた。

お迎えのバスも既に止まっている。



「よーし最後のマネージャーも来たことだし、出発するぞー」

監督の言葉にギョッとする。

「えっもしかして私ビリでした!?」

「あぁバッチリな!」

ベシッと後頭部をはたかれ、振り返るとそこにいたのは

「笠松キャプテン…おはようございます…」

「時間内に来たということで許してやる」

「あざーす…」






「名前先輩!隣座りましょー!」

バスに荷物を積んでいると、後ろで黄瀬くんがピョンピョン跳ねていた。


「残念ながら黄瀬はオレの隣だ」

「えぇ!?なんでっスか!?」

すると現れた森山先輩が、黄瀬くんの肩を叩く。

「名前はマネージャーだぞ。主将と打ち合わせが色々あるんだよ」

「えー!そうなんスか?」



「ごちゃごちゃ騒いでないでさっさと乗れ!」

イヤイヤと首を振る黄瀬くんの首根っこを掴み、笠松先輩がドアの方に押しやった。

「名字の荷物は?これだけか?」

「あ、はい」

「じゃあオレたちも乗るぞ」


テキパキと部員たちに指示をし、笠松先輩はバスに乗り込んだ。

私もそれに続き、隣に座る。







うん。近いね。




バスって意外と狭いよね。

笠松先輩は一応(?)大きめだから余計に狭く感じる。

なるべく通路側に身体をはみ出させようとするけど、そんなに効果は感じなかった。



ふと思い立ち、私は席に膝立ちをして後ろの方を向いた。

すると広がっていたのは、ガタイのいい部員の皆さんが窮屈そうに座っている光景だった。

特に小堀先輩と早川はお互いが大きすぎてぎゅうぎゅうだ。





「笠松先輩、小堀先輩たちちょっとかわいそうじゃないですか?」

「ん?あぁ、確かにな。そこまで考えずに座席指定しちまった」

そのまま左側にいる笠松先輩に話しかける。

膝立ちしているから私の方が高い位置にいて、先輩のつむじが見えて変な気分だ。



「私、早川と代わりましょうか。たぶんこの中で一番私が小さいし、小堀先輩の隣に座るのが適任だと思うんですけど」

と、ない知恵を振り絞って考えた提案をしてみた。



「んなこと言ったって、打ち合わせがあんだろーが」

笠松先輩はこちらを見上げることもせず、書類を見つめながら返事をする。




「じゃあ私と小堀先輩が前に座って、こういう感じで笠松先輩と話しますよ!そしたら打ち合わせも出来るし窮屈じゃないし」


我ながら名案だ。

早速小堀先輩と早川をこちらに呼んでこよう。

そう思って席から降りようとする。



「いいから」

すると笠松先輩にグッと左腕を引かれた。


「うわっ」


予想していなかった衝撃に、私の身体は先輩の方へ素直に崩れ落ちる。

気付くと膝立ちの状態から正座になっていて、目の前には笠松先輩の顔があった。






うん。近い!!!




「いいからここに座ってろ」


先輩はまだ書類を見ているが、目だけでこちらをチラリと見て、そう言った。


「…ハイ」


思いがけない近さと、思いがけない台詞、思いがけない視線。

私は何も言えずに大人しく座りなおすしかなかった。











「んで、午後からは…」


「はい、ミーティングしてから試合形式ですね」




2人で日程表を見ながら細かいことを決めていく。

後ろではワイワイと声が聞こえてきて、部員たちのモチベーションの高さが窺えた。



合宿は3泊4日だ。

一応強豪校ということもあり、食事つきのまぁまぁの宿泊施設に泊まることができる。

どこかの学校では、生徒が食事を作らなければいけない状況になっているらしいが、そうならなくて良かった。

これだけの部員がいるのだから、私は洗濯やドリンク補充、スコア作り、雑用などできっと大忙しだろう。

去年もそうだったし。

去年はマネージャーの先輩が他にもいたので、まだ楽だったけれど…。


とにかく私も頑張らなければ!!







と、思っていたのだが…







「せ、せんぱい…」


「ん?どうした?」









「酔いました」

「はあ!?!?」

「きもち悪い…」






ずっと書類を見つめていたせいか、車酔いしてしまった。

笠松先輩は私の様子に驚いている。





「と、とりあえず窓側の方がいいから席かわるぞ!」

ちょっと立て、と通路に私を立たせる。



うっ揺れがまた気持ち悪さを助長させる…!!


先輩も急いで通路に出てきて、私の両肩を支えながら先輩の座っていた席に座るよう促す。



「すいません…」

「いいから早く座れ」



私たちの様子を見ていた部員たちと監督も、どうしたどうしたと声をかけてきた。


「名字が車酔いしたみたいで…」

「えぇー!名前先輩大丈夫っスか!?」

「水飲むか?」

「ガム噛むか?」


みんなわらわらと寄ってきて心配してくれるが、答える気力がない。




「だーうるせぇ!大人しく座ってろ!オレがやるから!」


すると笠松先輩がシッシと手を振って、心配してきてくれた人たちを追い返した。






「おい、平気か?」

「たぶん…」



なるべく窓の外の景色を見ながら、返事をする。


先輩は小堀先輩が持ってきてくれた水のペットボトルを開け、差し出してくれた。


「ちょっと飲んでみろ」

「ありがとうございます」


少し飲んで、息をついていると今度は持っていた書類でパタパタと扇いでくれた。



先輩が優しすぎて泣きそうだ。



チラリと先輩の顔を見ると、困ったような表情をしていて、心配させたことに申し訳なくなる。



「ごめんなさい、迷惑かけて」


小さな声で謝ると、それを打ち消すような声で否定された。


「いや、オレがお前のこと考えずに打ち合わせにつき合せちまったからだ。ごめんな」



笠松先輩はどれだけ責任感が強いんだ。

こんなマネージャーの車酔いでさえ、自分の責任として背負ってしまうなんて。


申し訳ないやら、嬉しいやらで、つい涙がこぼれてしまった。





「な!そんなに具合悪いのか!?吐くか!?」


私の涙を見て、先輩はものすごく動揺していた。


でもそれは気持ち悪いからだと思っているようだったので、一生懸命手を振って否定する。




「と、とりあえず窓開けるか!風に当たったほうがいいよな」


笠松先輩はそう言うと、グイっと私の方に身体を乗り出し、窓に手をかけた。







うん。近、い、ね。






酔いも冷めてしまうのではないかと思った。


目の前に笠松先輩の横顔があって、心臓が高鳴る。





キッと音を立てて窓が開き、外の風が吹き込んできた。



「どうだ?風強くな……」


そう言いながら先輩がこちらに顔を向ける。


間近で目が合い、先輩は固まった。

必死すぎてこんなに近いとは思っていなかったのだろう。


私も声が出せず、小さく一度頷くことしかできない。


サッシに手をかけたまま、動かない笠松先輩。


両手を握り締めて、同じく動けない私。


心臓の音だけが身体中で響いていた。









「おい、名字大丈夫か?もうすぐ着くぞ」








「「!!!」」





私たちがそれぞれ我に返ったのは、監督がやってきて声をかけてきたときだった。






ハッとして周りを見ると、確かに合宿所に近づいていた。

去年も来た、海が近い合宿所。

夏合宿にもってこいの場所である。






「も、もう着くのか!良かったな!どうだ調子は!?」


「あ、ああ!だだだ大丈夫です!もう良くなりました!!」


「そうか!!」



笠松先輩は慌てて自分の席に座りなおし、まくし立てる様に話すと、荷物をまとめ始めた。


私も窓の外を必死に見ることにした。





あぁ…びっくりした。

どれくらいの間見つめ合っていたんだろう。

こんなに接近したのは初めてだ。

恥ずかしすぎて顔が熱い。

監督に声をかけられなかったら、ずっとあの状態だったのかな…。















「着いたっスねー!」

「うおおお!や(る)ぞおおおお!」

「早川うるさい」

「元気になって(る)!?」




合宿所に着くと、部員たちは我先にとバスから降りて、身体を伸ばしている。


私たちもゆっくりと降車すると、荷物を持ってそれぞれ部屋へと歩き始めた。







「広いな」


そうか、よく考えたらこの3泊、私は1人部屋なのだ。

部員たちとは少し離れた場所にある私の部屋。

遠くから騒ぐ声が聞こえてきてなんだか寂しい。

ま、寝るだけだしいいか。


それよりも今から頑張らないと!

笠松先輩との打ち合わせも今日の分しかきちんとできなかった。

明日以降の分は夜にでもやろう。



荷物をある程度まとめ、急いでジャージに着替えて体育館へと向かった。


夏合宿、スタートだ!!!















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