時々乙女になっちゃいます。




「…ついにきた」


なにがって?


もちろん…



「映画デート」だよ!!!










待ち合わせの駅前へ向かう。

あぁ、緊張してきた。どうしよう。

時間には余裕をもって来た。

こんなときまで遅刻するわけにはいかない。




ん?

あそこにいるのは…



イヤフォンをして俯きがちに立っている人は、どう見ても笠松先輩だ。

もう来てやがる!さすが主将!



それにしても…


「私服格好良いなぁ…」



シンプルだけどダサくない。

フィルターかかってるかもだけど、昨日の黄瀬くんより格好良く見えた。






そして、声がかけられず離れたところでもじもじしているのが私の現状である。

なんて言って行けばいいの?

「ういーっす!」ってテンションじゃないし。

「お待たせぇ。ごめんね遅くなってぇ」なんてキャラじゃない。

あぁー先に来ていたかった!なんでこんなことで悩んでるんだ私!



頭を抱えて地団太を踏む。


「おい」


「え?」



「なにジタバタしてんだ。恥ずかしくないのか?」




「え?………………………え?」



聞きなれた声に顔を上げるとそこにいたのは。



「ったく。大丈夫か?」

「笠松先輩…」



逆に声かけられてました。完。









「なんでそんなに大人しいんだよ気持ち悪いな」

「いえ、だって…」


映画館に向かって歩いているが、笠松先輩はいつも通り。

私はというと、緊張がピークを迎えてしまい顔を上げられない。

先輩の数歩後ろをよたよたとついて歩く。



「ったく調子狂うな。ほら、着いたぞ」

「あ」


いつの間にか映画館に到着していた。

そして先輩は財布から紙を2枚取り出す。


「え、先輩、それ」

「あ?あぁ、並ぶの面倒だし買っておいた」






す、すまーと!!



笠松先輩は映画のチケットをすでに手に入れていたのだ。

本当に女の子苦手なのかな!?

なんか慣れてる気がする!!



絶句している私に気付き、首を傾げる。


「なんだよ?観たい映画これじゃなかったか?」


「いえ!これです!!あ、お金!いくらでした!?」



しどろもどろになりつつも、鞄から財布を取りだす。

なのに



「あー、いいよ。奢ってやる」

「え!?まさかそんなわけにいかないですよ!」

「うるせーな。球技大会頑張ったご褒美なんだから、いいだろ」

「…あ、ありがとうございます」

「おう」






い、いけめん!!!




笠松先輩ってこんなに出来る男だったのか!

どうしよう、色々どうしよう。

先輩が格好良すぎてどうしたらいいのか分からない!





「じゃ、じゃあジュースとかは私に払わせてください!」

絶対に!と鬼気迫る勢いで拝み倒し、やっと許可を貰った。

お互い学生だし、奢ってもらうだけなんて申し訳なさすぎてね。















「…大丈夫か?」

「はい…」



やられた。

普通のSF映画だと思ってたのに、まさかの恋愛要素含まれてた。

ちょっとしたラブシーンに動揺したのはまぁ、いいとして。(本当はよくない)

まさかここまで泣けるとは…!!




1人だったら絶対ハンカチ噛みしめながら号泣してたけど、笠松先輩の前でそんな醜態を晒すわけにもいかず。

必死に忍び泣いていたのだけれど、バレバレだったようだ。

ウルリともしてない笠松先輩はさすがですね。






「腹減ったな」

「あ、そうですね。もうお昼…」

「ついでにどっか寄ってくか」

「え!?」

「なんだよ忙しいのか?」

「いいいいえ!めちゃめちゃ暇です!」

「じゃあ行くぞ」





そんなわけで先輩とお昼ごはんです。

わー夢みたいだー。

昨日黄瀬くんと食べたときは全然緊張しなかったのに、笠松先輩だと心臓がものすごく元気になる。




「そういえば」

「はい?」


笠松先輩は手を止めて、チラリとこちらを見て口を開いた。



「お前もそういう服、着るんだな」

「そういう服?」

「なんか、女子みたいな服」

「女子なんですけど」



ひどくない?

そりゃいつも制服かジャージだから珍しいかもしれないけどさ。

いや、待てよ?

先輩って私のこと男だとでも思っているのだろうか。

男のくせに女子みたいな服着やがってこいつ、とか?




「んなこと思ってねーよ。被害妄想激しすぎだろ」

「あ、聞こえてました?」

「…」


まぁ、と冷たい目線をこちらに向けていた先輩が再び口を開く。


「そういうのも、いいんじゃねーの」

「え」

「…」


思いもよらない言葉が聞こえた気がして、思わず笠松先輩を凝視した。

先輩はぷいっと横を向く。

て、照れてるのかな。可愛い…。



「え、えへ、ありがとうございます。実はこれ、黄瀬くんが可愛いって選んでくれたんですよ」

「黄瀬が?」


突然出てきた後輩の名前に反応した先輩が、視線をまたこちらへ戻した。


「はい、昨日ちょっと夜会ったんですけど、明日出かけるって話したら黄瀬くん家に来て服選びしてくれたんです」


だから黄瀬くんに感謝しなきゃと頬を擦りながら笑う。

笠松先輩はしばらく黙ってこちらを見た後、へぇとだけ呟いた。


「あ、もちろん笠松先輩と出かけるとは言ってませんよ!?」

「別に、それはいいけど」


慌てて私が手を振りながらそう伝えると、先輩は下を向いてまた食事を再開した。









店を出てぶらぶら歩いていると、公園の横に出た。


「あ、バスケやってる」

先輩が公園を見て呟いたので私もそちらに目を向ける。


公園には子供用だろうか、小さなバスケットゴールがあり小学生たちがバスケをしていた。




「あっ」



ボールが弾み、こちらへ転がってきた。




「おにーさーん、それ取ってー」

「取って、だぁ?」




小学生たちはブンブンと両手を振って笠松先輩に拾ってくれるよう頼んでいる。

しかし笠松先輩は、その言葉遣いに反応していた。

いつもの主将の表情になっている。



「せ、せんぱい?」

「生意気な口ききやがるなぁ」


そしてにやりと笑ったかと思うと、ボールを拾って子どもたちの方へ駆け出した。

子どもたちは不思議そうな顔で先輩を見ている。



笠松先輩はボールを軽くドリブルしながら近づき、ゴールの遥か遠くからシュートを決めた。

わああああと驚きの声が上がる。

まぁ、全国区のバスケ部主将からしたらこんなの造作もないことなのだろうけど。



どうだ驚いたかーというような表情で笑う先輩に、少しときめきつつ私も近づく。

「お前ら、目上に人にはちゃんと敬語使えよ」

なんて、いかにも体育会系な台詞を言う先輩に小学生たちは



「すっげぇー!なんで入るの!?」

「かっけぇ!今のもう一回やって!」

「やり方教えてー!」



敬語を使えという言葉を全く聞いていなかったようで、一斉に笠松先輩を囲う。

そしてシャツの裾をひっぱったりと大騒ぎだ。



「コラ!引っ張んな!というか敬語!」

先輩は慌てながら逃げようとするが、小学生パワーには叶わない。



ため息をつきながらこちらを振り返る先輩。


「悪い名字、ちょっとだけいいか?」

「もちろんですキャプテン」


バスケをする笠松先輩を見れるなんて大歓迎だ。








「こう?」

「そう」


小学生たちにシュートの仕方を教えている姿を、ベンチに座って眺める。

この前は私もああやって教わったんだなぁ。

その結果球技大会で活躍できて、そのご褒美で今日一緒に映画に行けた。

なんか、私しか得してないような気がしてきたわ。



それにしても笠松先輩、子どもに懐かれるなぁ。

部活だと鬼みたいなのにこんなに優しく笑ってるし。



「格好良いな…」



なんて本人には絶対言えないけど!

でも本当、こういうところも好きだなぁ。なんて。

乙女か私は!いや、乙女なんだけど!










「結局こんな時間になっちまった、悪いな」

「いえ、楽しかったですね」



ちょっとと言ってたけど、なんだかんだ夢中になってしまってもう夕方である。

夏が近づき、だいぶ日は長くなっているけど。

先輩は汗をぬぐいながら戻ってきた。




バスケ教室には、途中からなぜか私も参加していた。

まぁ、バスケは少し出来るようになってたからね!

あの奇跡のシュートを見せてやったぜ!



先輩は今日も変わらず、送ってくれるそうだ。

楽しかった一日も終わりかぁ。

あっという間でした。




「昨日の、黄瀬のことだけどよ」

「はい?」

突然話が飛び、というか戻り、不思議だが返事をした。



「そう易々と、男を家に入れんなよ」

「え?」




男?って黄瀬くん?


「で、でも後輩だし別に」

「いいからそういうところは気をつけろ」

「…」


なんでそんなに頑ななんだ。

どうしたんだろう。

と、いうか



「でも、先輩だってこの前上がったじゃないですか」


そう、お湯が出なくなったとき先輩は私の家に確かに上がっていた。



「そ、それとこれとは話が別だろ。そんなに遅い時間じゃなかったし」

「えーよく分からないです」

「いちいちうるさいなお前は」

「ひど!」



軽く言い争いをしていると、気付いたら家の前まで来ていた。


「だから、そのーなんだ、お前は一人暮らしだし、いくら後輩でも」


笠松先輩は頭をガシガシと掻きながら言葉を濁す。

うーん、と何か言いたいような、言葉が見つからないような。



「立ち話でもなんですから、上がります?」

「だ か ら!!」



ここじゃ暗いしと思って提案したのだが、逆に大声で叱られた。


「そういうところ、もう少し自覚持てって言ってんだ!シバくぞ!」

「痛!?」

ベシッと音がするくらいの勢いで頭をはたかれる。




「ったく、明日の部活は遅刻すんなよ!じゃーな!」


そういうとくるりと踵を返して走って行ってしまった。

なんか最後はあっというまだったな。

ちゃんとお礼も言えてない。

変な笠松先輩だったなー。







『ちゃんと帰れました?
 今日はありがとうございました!
 すごく楽しかったです。また遊んでください』

ありがちだけど、まぁこんなもんかと笠松先輩にメールを送る。


『帰れた。
 オレも楽しかった。
 夏合宿終わったら、またどこか行こう』



こんなメールが返ってきて、悶えない子がいたら教えてほしい。

楽しかったって言ってくれてよかった。

私だけいい思いしちゃって申し訳ない気持ちだったけど、笠松先輩と少しでも楽しいって気持ちを共有できてたなら幸せだな。




「もうすぐ夏休みか」






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130904

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