これただの青春じゃん。




そんなこんなで、ついにやってきた球技大会当日。

行事の日は絶対遅刻しない私は、他の生徒同様の時間に教室に入った。



「大丈夫だって!ちゃんとでき(る)か(ら)や(ら)せてく(れ)!」

「は、早川くん」



同時に聞こえた早川の大きな声。

女の子に掴みかかる勢いで話している。




「早川、何してんの?皆びっくりしてるじゃん」


同じ部活の仲だし、ざわざわしている中心に割って入った。


「名字!ほ(ら)!お前もちゃんと言え!」

「は?何を?」


突然矛先が私に向くが、意味が分からない。


「あのね、早川くんが今日の球技大会、名前にもパス回してくれって」

「早川ああああああああああ!!!!!」


何余計なことしてくれとんじゃ!!

目立つだけだろーが!!!



「だって!名字バスケの特訓頑張っただ(ろ)!シュートだって入った!」

「いや、気持ちはありがたいけどさ」



純粋に私に努力の成果を見せる場を与えてくれようとしていたらしい。

全くバスケバカはこれだから…。


「笠松先輩たちだって、名字の活躍見たいに決まって(る)!」

「う…」


だからって急に言われても、他のメンバーは納得できないだろう。

学年1の運痴の私が急にバスケ出来るようになりましたなんて、私だって信じられない。




「へぇー名前、特訓したんだ?笠松さんと?」


にやにやと近づいてきたのは、マイフレンド。

彼女もバスケのメンバーで、リーダーである。



「名字、すっげー頑張ったんだ!絶対活躍でき(る)!」

早川は相変わらず熱弁している。

確かに頑張ったけど、もし、活躍できなかったらと思うと自分からは言い出しにくい。



「面白そうじゃん!みんな、名前にもパス回していこうよ!」

「ほんとに!?だって名前だよ!?」

「学年1だよ!?」


ちょっとこいつら失礼すぎじゃない?


「せっかくだし、動ける人数は多いほうがいいじゃん」

「確かに、他のクラスの子達は名前が戦力だなんて思ってないだろうからねー」

「そっか、フェイントに使えるかも」


急に他のメンバーも乗り気になってきた。

あ、あんまり期待されるのも怖いのですが。


「名前、ガンガン回してくからね!」

「目標は優勝だよ!」

「笠松さんに良いところ見せようか〜」

「ちょ!な!」


なんだか1人不純な動機で盛り上げてる奴(マイフレンド)がいるのですが。

でも、ちょっと楽しみになってきた。

頑張ったもん、やってやるぜ!!













「次の試合を始めます。選手と係は集合してください」


私たちのクラスの第一試合が来てしまった。

相手のクラスには、運動神経抜群系女子が揃ってる。



「お、女子のバスケ名字いるんだ」

「なになに?」

「知らねーの?学年1の運痴だよ。あいつの動き笑えるぜ」

「去年見た!くっそおもしれーよな!」



なんだか知らんがギャラリーが集まってきた。


「名前転ぶなよー!」

「一回でもシュート成功したら体育満点やるからなー」


去年同じクラスだった友達も集まってきて、冗談を言って笑っている。

なぜか体育の先生も半笑いで野次を飛ばしてきた。




タイムキーパーなどの係はバスケ部の1年生たちだ。

ハラハラした表情で私を見ている。

なんだか申し訳ない気分だ。



「名前せんぱーい!ファイトっスー!」


きゃあああという悲鳴とともに聞こえたのは、黄瀬くんの声。

後ろに100人単位の女子生徒を引き連れ、応援に来てくれていた。


「うわー名前、すごい注目されてるね」

「私たち、この中で試合すんの?」


メンバーは引きつった笑いを浮かべながらコートへ向かっている。

私だってこんな注目されたくないやい。




「名字ーーー!!!!勝つぞーーーーー!!!!」

体育館中に響き渡る声は、顔を見なくても分かる。

クラスメイトたちの中心で叫ぶ早川だ。



「早川!もっと静かに応援しろ!迷惑だろ!!」

「いやー笠松も結構うるさいよ」

「名字頑張れー」


早川ほどじゃないけど体育館に木霊した声。



「おぉー笠松さんだー」

「バスケ部集合してるじゃん」


なんだか大ごとになってきて、出来れば逃げたい。

バスケ部が続々と集まるので、他の生徒たちも野次馬根性なのか注目してくる。



「名前、笠松さんに良いところ見せなきゃね」

「はは、プレッシャーはんぱないんですけど」

こっそり耳打ちするマイフレンドに苦笑いで返す私。

これじゃあ黄瀬くんのいるときの練習試合並みだ。







「それでは、第一試合始めます」

「「「お願いします」」」


ついに始まった。

ミニゲームなので、10分やって3分休憩してまた10分。

運動部に力が入っている学校なだけあって、結構ハードである。




ジャンプボールは残念ながら取られてしまった。

しかし、うちのクラスだって私以外は運動が出来るメンバーが揃っている。

ボールを奪い合う攻防が続いた。



「頑張れー!」

「そこだ!取れ!」


声援が耳に届く。

突出して出来る選手がいるわけではないので、まだ全然ゴールが決まる様子がない。

そしてパスを回すほどでもなく、互いにボールを奪い合っていた。



「名字ー!ボー(ル)取(れ)!」


早川の声が聞こえる。

それに続いて

「無理だろー」「学年1じゃなあ」

という笑い声も…。



いきなり活躍できるわけではない私は、まだうろうろと走っているだけだった。

普段見ているバスケと違いすぎて、なんだか頭が混乱しているんだよ。

こんなにもたもたしてたっけ?

こんなにパスが廻らないものだっけ?





「名前!」

メンバーの声にはっと意識を戻すと、ドリブルをしながら相手チームの子が私の方へ向かってきていた。

たぶん、抜けると思って私の方へ来たのだろう。

パスを回してカットされるより、その方が確実だから。



取られるなんて思ってもいない余裕の表情が見えた。

でも、あれ?バスケ部じゃないと、こんなに動き遅いんだ…。



「名字!ディフェンスだ!」



早川の声を聞くと同時に、私の身体は動き出していた。

うわ、遅い。

笠松先輩の動きと比べるとなんて遅いんだろう。




「「「え」」」



味方チームと相手チーム、両方の子達の時が一瞬止まった。





「うおおおおおお!!取ったあああああ!!」




「取れ、ちゃった」

あらま。

笠松先輩と何回も練習したディフェンス。

小堀先輩に教えてもらった手の出し方で、出来た。



「すぐ動け名字!」


笠松先輩の声がした。

取れたことに驚いて、ボールを持って固まっていたところだが、我に返る。


「ええええっと!」

どうするんだっけ!?

混乱していると、バン!と音がしてボールを奪われてしまった。




「ああー…」「やっぱまぐれだったか」「そりゃな」

ギャラリーの落胆した声が聞こえる。


やっぱりそう簡単に活躍できるわけじゃない。

ちょっと気持ちが落ち込んできた。




「名前ー!すごいじゃん!」

「よく取れた!やっぱり頑張ったんだね!」


そんな私を褒めてくれたのは、同じチームのメンバーだった。

ボールを取り返すために動きながらも、大声で喜んでくれている。


「次、絶対取ろう!」


近くにいたメンバーが、バシッと肩を叩く。


「うん!」


諦めるもんか。みんなに特訓してもらったんだ。

私もボールに向かって走り始めた。






チャンスは案外すぐに巡ってきた。

相手ゴールの近くで、また私を突破しようとする作戦に出たのだ。


今度は取る!

相手の動きをしっかり見て、タイミングを見計らう。

もう向こうはシュートする気だ。

フェイントをかましまくる笠松先輩と違って、動きが読みやすい。



「今!」


相手よりも数秒早く身体を動かし、ボールの元へ。

やっぱり笠松先輩より動きが鈍いから、動きを急に変えることが出来ないらしい。



「取った!!」



今度はさっきよりも楽に取れた、気がする。

ギャラリーの驚く声が響いた。





「一本確実にだぞ!」




そんな中聞こえてきたのは笠松先輩の声。

無言で小さく頷き、今度は奪われないようにすぐ動いた。



自分たちのゴールへ向かう。

ここでもびっくりした。

ドリブルしてこんな簡単に走れるもの?

特訓ではでかい図体の彼らの妨害を受けながらだったから思うように進めなかった。

でも今は敵チームの動きが簡単に読める。

どこへ避けたらいいかすぐ分かる。

どこへパスをしたらいいかも。



チラッと見えたメンバーに向かって、すばやくパスを回した。


「ナイス名前!」


受け取ったメンバーはマークされずにゴール下にいる。

そのままシュートした。




「「「やったぞおおおおおお!!1点先制した!!!」」」


クラスメイトたちが大喜びしている。

私たちもみんなで集まってハイタッチした。


すぐにまた始まるため、自分のいるべき場所に戻るが、ギャラリーからはざわめきが消えない。



「名字がディフェンスして、ドリブルまでした!」

「うそだろ…」


「どうだ見たかー!名字は運痴じゃないぞ!」

「名前先輩格好いいっスー!!」


自慢げに騒ぐバスケ部に、恥ずかしいような嬉しいような。

ちらっと笠松先輩のほうを見ると、グッとガッツポーズしてくれた。








「試合終了!」


その後はシュートされることもなく、こっちが3点追加して余裕で勝ってしまった。

整列して挨拶を終え、クラスメイトの元へみんなで戻る。



「名前ーーー!!見直した!すごい!えらい!」

飛びついてくる女子、女子、女子。

さすがの早川も女子高生パワーには負けたのか、私に近寄れなかったらしい。

「運痴だなんてバカにしてごめん!」

「優勝いけるよ!次も頑張って!」

みんな嬉しそうで、私も貢献できたんだと実感する。

特訓してよかった。





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ルールは捏造です
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