私も女子高生だった。



「よし、じゃあ今日からはシュートの練習に入ろう」

「きたー!」

「これで名前が点を稼ぐことができるようになれば、バスケ部のプライドも保たれるな」

「頑張ろうな」



「…はい」






なんだかんだ練習を続け、球技大会までの残り3日はシュート練習からの集大成になった。

シュートは初日に醜態を晒した通り、運が良くても入らないレベル。

それをあと3日で出来るようにするとか…。

絶対鬼畜だろ…。






「まずはこのラインから」

レギュラーのみなさんとラインに立ち、ゴールを見上げる。

意外と入りそうなのにな。入らないんだよね。


メンバーが次々とシュートしていく。

ボールは簡単にネットへ吸い込まれていくからすごい。



真似して投げてみるも、見当違いの方向へ飛んでいき、メンバーがごくりと唾を飲むのがわかった。



「おい、ドリブルと守りに時間かけすぎたんじゃねぇか?」

「でも基本すら出来なかったら何も出来ねぇよ」

「シュートは捨てるか?」

「いや、出来る!!…たぶん」


こそこそとメンバーの話す声、丸聞こえですけど!!




「よし名前、シュートのやり方はな」

森山先輩がにっこり微笑みながらボールを持って近寄ってくる。


「ダメだ森山!お前のフォームで素人ができるわけないだろ!!」

「確かに森山先輩のシュートはお手本にならないっス!」

「なんだと黄瀬!?」



「ここは笠松に任せたほうがいいんじゃないか」

相変わらずのエンジェルスマイルを見せる小堀先輩。

隣では早川もうんうんと頷いていた。



「えー!オレも教えたい!」

「えー!笠松先輩とか怖い!」

「あ?」




やべ、森山先輩に釣られてつい本音が出てしまった。

頭をグワシと掴まれる…。

「てめぇ、いい度胸だな。主将直々に教えてやるから覚悟しろよ」

「ぎゃあああああああああ!!すみません!!」




と、いうことで笠松先輩のシュート講座☆を受けることになりました。

いや、☆なんてつけてるけど、マジで鬼。

☆つけないとやってられないくらい鬼コーチですあの人。



「おら!休憩終わりだ!さっさと戻れ!」

「はいいいいいい」




もう何度ボールを投げたことだろうか。

ゴールなんて見たくない。辛いよー。

しかも相変わらず入らない。

ただ、結構いいところまでは投げられるようになってきた。

リングに当たったりとか、自分でもナイスだったと思う。




「なんか腕の動かし方がおかしいんだよなー」

「オレもそう思う」

「笠松先輩!正してあげるっス!」



見てるメンバーが口々にそう言うと、隣で見ていた笠松先輩が近寄ってきた。


「たぶん、バネの使い方だろうな」

思案するように私の後ろに回ってくる。

するとボールを持っている私の両手を後ろから抱えるようにして掴んだ。


「え、ちょ、せんぱ」

これ、後ろから抱きしめられてるみたいなんですけども!!

近い近い近い!!

耳に先輩の息が当たるし、背中に温もり感じるし!!



「こう持って、投げるときは腕のバネを…」

なんか説明しながら私の腕を動かしてるけど、頭ついていかないから!

心臓が倍のスピードで動き出してるから!



「おい名字?聞いてるのか?」

「…」


今、声出せません。




笠松先輩は不審そうに後ろから覗き込んでくる。

だめ、死ぬ!!



「おいおい笠松ー、いちゃつくならよそでやってくんなーい」

「いやいやいい感じっスよ!」


「は?…………」

「……」













「わわわわわわわわわ!!!」


やっと自分の状況に気付いた先輩が、ものすごい勢いで後ろに跳ねた。

エビもびっくりなくらいの跳ねっぷりだった。



「わ、悪い!その、別に、わざとじゃ!!!」

「いいいいえすみません!大丈夫です!」



真っ赤になる先輩と、たぶん同じような表情の私。

森山先輩がすごくいやらしい笑みを浮かべているし、小堀先輩はにこにこしてる。

恥ずかしすぎて消えたい。

体育館だけど穴掘って潜り込みたい。






「もー、笠松先輩は今使い物になりそうもないスから、オレが代わりに教えるっス」

「あ、あり、がと」


キラキラと爽やかな表情で黄瀬くんが寄ってきて、腕の動かし方を直してくれた。

ちらりと後ろを振り返ると、体育館の隅で膝を抱えてそこに顔を埋める笠松先輩。

と、隣で一生懸命励ましているだろう早川の姿が見られた。

あぁもう本当、恥ずかしい。









ガツン!

「おっしい!!」

黄瀬くん指導の甲斐あって、ボールがリングにぶつかる回数が増えてきた。



球技大会前日という、ギリギリの日程である。

練習の後の私の特訓は、相変わらず続いておりみんなには申し訳ないと思う。

でも少しずつバスケが楽しくなってきた。

私でも出来るんだとちょっと自信もついた。

あとは、このシュートさえ出来るようになれば…!




「もう少しで入るぞ」

「集中!」

「でき(る)でき(る)やればでき(る)」

「黙れ修造というか早川!」





みんなの声援を背に、大きく息を吸って吐く。

腕を意識し、身体全体を使って、タイミングよく。

渾身の集中力をボールにこめて、いざ、投げた。



われながらきれいな弧を描いている。

もちろん目指すはリング。

ガツン

リングの上をボールがくるくると回っている。


「入れ!」

「「入れ!!」」


ギュッと両手を握り締めて息を止めた。





「入る!」


誰の声だかわからないけど、そう聞こえた瞬間、ボールがネットをくぐって床に落ちた。



「は、はいった…」


「やった」

「ついに!」



「入ったああああああ!うおおおおおお!」

早川の異常な声のでかさも気にならないくらい嬉しい。



「やったああああ!ありがとうございますうううう!」



ぴょんと飛んで振り返り、近くにいた人に勢いで飛びついてしまった。


「ちょ、名字!」


しかし相手はよく見ると、いや見なくても笠松先輩だった。

がっちり首に腕を回してしまっている。


「のわー!!!すみません!!!!」

慌てて後ろへ引く。

女子高生のノリがなぜかここで発揮されてしまったのか。

調子に乗ったことを一瞬で後悔した。




「名前−、オレにもハグしてよー」

ぶーぶーと半笑いの森山先輩をキッと睨む。

「わーい名前先輩やったっスー」

そんな状況に気付いていないのかへらへら笑う黄瀬くんが近寄ってきて、ギュッと私を抱きしめてきた。



「あ!黄瀬ずるい!」

「頑張ったスねー」

そのまま頭をよしよしと撫でられ、なんだか変な気分だ。


「うん、えらいえらい」

小堀先輩も近寄ってきて頭を撫でてくれた。


「名字!球技大会頑張(ろ)うな!」

早川は相変わらずのでかい声で肩をバシバシ叩く。痛い。


「お礼は女の子の紹介でいいよ」

なぜか決めポーズをしながら私のあいている手を握ってくる森山先輩。握手か。




「ほらー笠松もなんか言ってやれよー」

森山先輩に促され、顔を赤くした笠松先輩が近づいてきた。


「先輩、ありがとうござ」

途中までお礼を言いかけたところで、先輩はまだ私を抱きしめている黄瀬くんの襟首を掴んだ。


「てめーはいつまで引っ付いてんだ!」


そう言うとグイッと引っ張り、その辺に投げ捨てる。

痛いっスーと泣き声をあげる黄瀬くんを無視して、今度は私の顔を見た。



「…先輩?」



「入ったからって油断すんなよ!あと…よく頑張ったな」



言いにくそうに小さく褒めると、私の頭をぽんぽんと叩いてくれた。

身体中の血液が沸騰したかのように熱くなっていく。

恥ずかしいけど、すごく嬉しくて。

思わず下を向いて頬を押さえた。














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