心を揺さぶられました。 「…ういーっす」 小さめの声で背中を丸めながら体育館に入る。 そう、私は今緊張しているのだ。 意識は後頭部に。 いや、正確には後頭部にあるシュシュである。 「名前先輩!」 「ひぃ!」 後ろからいきなり肩を叩かれ、飛び上がる私。 「お疲れッス!今日は居残りなしッスか?」 「もももちろん!いつも遅刻しているわけではないのだよ黄瀬くん!」 「あははーあれ?」 「ん?」 「今日のシュシュ、新しいッスね!」 「え、分かるの!?」 「だって初めて見るやつッス」 「すごいね…」 これがモテ男の力か…。 笠松先輩とは大違いすぎて泣ける。 そんな風に黄瀬くんと話していると、突然ポニーテールにしている髪を引っ張られた。 「いだ!」 「なにべらべらとおしゃべりタイムしてるんだ」 「Oh...」 後ろにいるのは我らがキャプテン笠松氏。 お怒りである。 「す、すみません」 「笠松先輩、見てください名前先輩の新しいシュシュ!」 「あ?」 「わ!」 なぜか鬼キャプテンを引きとめ、シュシュを見せ付けるようにぐいっと私を差し出す黄瀬くん。 うん、早く練習に入ろうか。 気まずいことこの上ないぜ。 「ほら、可愛いッスよねー?」 天使の笑顔(であろう)黄瀬くんは私の肩を掴んで後ろからぐいぐいと笠松先輩に私を主張してくる。 厳しい目つきの笠松氏と目が合う。 あぁ、恥ずかしい。 顔が熱い。 「……」 しばらく無言で私を見る笠松キャプテン。 「……」 何も言えずに固まる私。 ぎゅっ… 「いっ!?」 いきなり私の両頬を摘み、左右に引っ張ってきた。 「いふぁふぁふぁふぁふぁ!」 「名前先輩ー!」 ぎゃあーという悲鳴を上げたいが変な声しか出ない。 後ろで黄瀬くんもなぜか悲鳴を上げている。 ひとしきり頬を引っ張った後、暴力キャプテンは 「やっぱりオレの目に狂いはねぇ」 と、私にだけ聞こえる声で言ってあっさり去っていった。 「だ、大丈夫ッスか…?」 床にへたり込んで顔を抑えている私を、黄瀬くんが気遣ってくれる。 「へ、平気ッス…」 「ほっぺ真っ赤になってるッスよ」 かわいそうに、とでも言いたげな優しい瞳でしゃがみ、私の頭を撫でてくれた。 なんて優しい後輩なんだ。 でもね黄瀬くん。 頬が赤いのは引っ張られたからじゃなくて、笠松先輩に見つめられて、あんなこと言われちゃったからだよ。 なんて乙女な発言は、口が裂けても出来ないがね! 「もーやばいなぁ」 練習をしている部員たちを見ながら一人呟く。 ほんとに、笠松先輩って奴は…。 女の子のシュシュを把握している黄瀬くんの方がよっぽどか素敵なはずなのに、私はなぜか笠松先輩にときめいてしかたない。 時々くれる言葉が、こんなに嬉しくさせるなんてほんとに、 「こういうのを罪な男って言うんだろうなぁ」 「ただいまー」 誰も返事をしない一人の部屋に帰る。 あー寂しい。 さ、お風呂でも入れて入りますか。 宿題の前に入ってしまおう。 服を脱ぎ散らかして風呂に入り、シャワーのコックを捻った。 「!!!」 言葉に出来ない声が、木霊した。 ピンポーン 「はい……!?」 「おい、お前体育館に携帯忘れてったぞって、どうしたその泣きそうなぶさいくヅラは」 「え、携帯、あ、あらまぁ…」 「なに動揺しまくってんだよ」 突然現れた笠松先輩に、泣きそうになる。 「せんぱい…」 「どうした」 「お風呂壊れました」 「は?」 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 120629 ←*→ |