混乱してる時の行動って。





「…で、どういうことだよ」


笠松先輩は、今私の部屋にいる。

私の死にそうな声を聞いて、帰らずに上がってくれたのだ。


「さっき、お風呂に入ろうとしたんですよ…」

「おう」

「そしたら、お湯が出なくなってしまいまして…」

「…」

「…どうしたらいいですか?」


しくしくと涙をちょちょぎらせながら、私は先輩に問う。

しばらく黙っていた先輩は、おもむろに立ち上がった。


「管理人に、聞きに行くぞ」

「あ」





2人で部屋を出て、1階の事務所へ向かう。

高校生がひとり暮らしするのに、事務所なんて贅沢かと思う。

でもこれは私の両親が可愛い娘のために、セキュリティのしっかりした住まいを選んでくれたのだ。

本当に助かると今実感している。




「すいません」

窓口から先輩が中を覗く。

「はいはーい」

いつも挨拶をしてくれる優しいおじさん、もとい管理人さんが顔を出した。

一瞬見慣れない顔の笠松先輩を見て、首を傾げた管理人さんは私の姿を見つけていつもの笑顔を見せてくれた。

「名字さん、どうしたの?」

「あ、あの、お風呂のお湯が出なくなっちゃったんですけど…」

「ええ?ちょっと管理会社に聞いてみるよ」

管理人さんはすぐに電話をかけに行った。

うんとか、そうとか話をしている声が聞こえる。

手持ち無沙汰な私は笠松先輩の顔を見上げた。

「…なんだよ」

「なんか、すみません」

「はあ?」

「携帯持ってきてもらった上に、引き留めちゃって…」

しょぼんと肩を落としながら謝罪する私に、先輩はため息を吐く。

「お前がそんな死にそうな顔してるのに、置いて帰れるわけねぇだろ」

「…」

また心臓が跳ねた。

なんか、すごく頼もしくて格好良く見える。

やっぱり笠松先輩はいい人だ。





「名字さん」

電話を終えた管理人さんが、窓口へ戻ってきた。

「はい」

くるりとそちらに身体を向けると、先輩も同じ方に視線を向けた。



「ごめんね、会社の方も今確認してて、混乱してるみたい。」

申し訳なさそうに管理人さんが眉をハの字にした。

「え」

「他の部屋の人はまだ使ってないみたいだけど、多分全部屋お湯が沸かない状態だろうって」

「そうですか…」

「ちょっと今日中には直る見込みなくてね、とりあえず明日確認しに来るって」

「は、はい」

「よろしくお願いします」


ちょっと混乱している間に、笠松先輩が管理人さんにお礼を言いつつ頭を下げていた。



「行くぞ」

先輩に肩を叩かれてふと我に帰る。

「ごめんね」

管理人さんに謝られて、私はいえ、と手を振った。

「ところでキミさ」

いつもの優しい笑顔を見せた管理人さんは、笠松先輩に声をかけた。

「はい」

「名字さんの彼氏かな?」

「「なっっっ」」

2人して動揺する私たち。

「か、かれ、しだなんて!」

私は慌てて訂正しようとするが、先輩は

「世話焼き係ってところです」

と顔を赤くしながら俯いてそう言った。






そして、再び私の部屋なう。

沈黙が痛い。

「あっ、先輩!お茶でも飲みます!?」

「結構」

「はい」

慌てて立ち上がるも、即拒否されてまた座る私。

先輩は眉間にシワを寄せて何かを考えているようだ。

することのない私は、亀吉に餌をあげることにする。


「お前、今晩どうするんだ?」

「どう…しましょうね」


一晩くらい入らなくても死なないが、部活で汗をかいている。

明日になったら直るという保障もない。

というか、お湯が沸かないんじゃご飯も作れない。



もやもやと悩んでいると、先輩が立ち上がった。

「お前、この辺に友達いるか?」

「お、お恥ずかしながら友人はみな遠方ゆえ…」



フゥッとため息をつく笠松氏。

「しかたねぇ、家行くぞ」

「…はぇ??」






どうやらすごいことになった。

私は今から先輩のお家へ行くらしい。

何しにって?

…お風呂に入りにだよぉぉぉぉ!




先輩はお家に電話をしている。

私は慌ててお風呂グッズをかばんに詰め込み、準備した。

自転車を引く先輩について、THE笠松家へ向かう。



「い、いいんですか?」

「風呂に入れねぇ女子を放っておけねぇだろ」

黄瀬だったら絶対無視してたのにな、と舌打ちする先輩。

それにしてもアクシデントとはいえ、先輩のお家にこんな形でお邪魔するとは…!

前は黄瀬くんがいたし、そんなに好きって自覚してなかったし…。

「あ、そういえばお母さんとか、いらっしゃるんですか?」

「あぁ。今日はいる」

…お母さん…。

「先輩!私ちょっと着替えてきます!」

「なにいまさら言ってんだよ!そのままでいいだろ別に!」

「というかなんで私制服着てるんでしょうか!?」

「知るか!オレが訪ねたときから制服だっただろ!」


あぁ、私のばか。

お風呂のお湯が出なかったとき、動揺しすぎて部屋着ではなく、脱いだばかりの制服を身に付けたらしい。

あれよあれよと言う間に先輩のお家に行くことが決まり、自分の格好を意識する間もなかったのだ。


「もうすぐ着くし、訳分からないこと言ってねーでさっさと歩きやがれ」

まぁ下手な私服着て行ってダサいと思われるよりは、制服のほうがいいかと自己完結して再び歩き出す。



あれ?

私って、着替え持ってきたっけ…?



少し嫌な予感がし、かばんを開けようとした時、先輩の声が響いた。

「着いたぞ」






★★★★★★★★★★★★★★★★★
お久しぶりです
130520


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