5万打リクエスト1



名字名前。

笠松がひそかに想いを寄せる、1つ年下のマネージャーだ。

一緒に部活をするようになって1年と少し。

彼女の献身的な姿に笠松は徐々に惹かれていた。




「笠松先輩!タオルです!」

「…」

「先輩…?」

「…」

「せーんぱーい!!」

「うお!?」

部活の休憩時間、笠松が体育館の舞台に背を預けて座っていると、いつのまにか目の前には名前がいた。

不思議そうな顔をして笠松を覗き込んでいる。

笠松が彼女のことを考えていたなんて思いもしないだろう。



「どうしたんですか?具合悪いですか?」

「いいいいや!違う!」

「本当ですか?」

「あぁ!」

「なんだか昔の笠松先輩みたいに挙動不審ですよ?」

「えっと…それは…」


名前とはだいぶ話せるようになった。

海常の男子バスケ部に入ってきた当初は、他の女子同様に会話することが出来なかった。

今はお互いの努力や慣れもあって、普通の会話は可能になった。

笠松が名前に対して恋心を抱くようになってから、また挙動不審になるのが増えたことは別として。





結局、名前は笠松の不審さを深く追求することなく去っていった。




翌日、久々のオフなのでCDでも買いに行こうと笠松は街に繰り出した。

駅前のコーヒーショップの前を通り過ぎようとすると、

「ん?」

名前の姿が見えた。

誰かを待つようにして立っている。

声をかけようか。しかし待ち合わせの相手が来てしまったら申し訳ない。

そんなことを考え、少しまごついていると、パッと名前が顔を上げた。

その視線の先には…

「え、黄瀬?」



手を振りながら小走りで現れた黄瀬は、遅れたことを猛烈に謝っているようだ。

名前はニコニコと笑って許していた。

笠松はその様子に複雑な気分になる。

もしかして2人は付き合っているのだろうか。

そして今からデートということか…。

2人が歩き出すのを見て、いても立ってもいられなくなる。



「少しだけ…方向同じだし…」

そうやって自分に言い訳をし、あとをつけることにした。




楽しそうに話しながら歩く2人。

笠松はその様子を後ろから眺めながら、自分は何をしているんだと自己嫌悪に苛まれていた。

しかし、どうせ歩く方向は同じだ。

せめてどこへ行くのかだけでも確かめてから、CDショップへ行こうと決める。



そして黄瀬と名前が足を止めたのはこの辺りで一番大きなショッピングモール。

新しく出来たところだが、おしゃれなお店がたくさん入っているということで女性に人気だとニュースにもなった。

デートにはもってこいの場所だ。


グッと笠松が下唇を噛む。

自分が想ってきた相手が他の男と、よりにもよってモデルの黄瀬とデートだなんて。

もし2人が付き合っているのだとしたら…。

立ち直れるのだろうか。

色々な思いが頭の中を交錯する。



そのまま店内に足を進める2人を、見過ごすことが出来ずについ笠松も後に続いた。

多くの人で賑わうショッピングモール。

黄瀬は名前を連れ、雑貨屋に入った。

笠松は見つからないように少し時間を置いてから雑貨屋を覗く。

楽しそうに笑いながら店内を物色している黄瀬と名前が目に入った。

アクセサリーを手に取り、2人で見入っている。

時折、名前がそのアクセサリーを合わせて見せ、黄瀬が首を横に傾げていた。

いつも部活で見ている2人とは、別人のようだ。




「名前ちゃん、私服可愛いな」

「あ、あぁ」





突然聞こえた声に返事をして、ふと異変に気付く。

叫び声を上げそうになるのをなんとか堪えて後ろを振り返ると、そこにはなぜか森山がいた。




「もももも森山!?なななんで!!」

「シー。声がでかいぞ」



慌てて雑貨屋を覗くが、2人は気づいていないようだ。

笠松は森山の腕を引き、少し離れた柱の影に身を隠した。


「なんでお前がここにいるんだよ!」

「オフだから買い物に出かけたんだ。そしたら笠松が黄瀬と名前ちゃんの尾行をしてたから、オレもその笠松を尾行してたってわけさ」

「…!!」

「それにしても黄瀬たちはデートか?いつのまに付き合ってたんだ」

「し、知らねーよ。第一付き合ってるとはかぎらねぇだろ」

「こんなところでデートしててねぇ…」

ふーん、と森山が柱から顔を出して様子を窺っている。

笠松は尾行している姿を森山に見られたことが恥ずかしくて、逃げ出したかった。



「も、もうオレは帰る」

「何言ってるんだ。ここまで尾行したんだからちゃんと見て行こうぜ!最後まで!」


するとなぜか森山の方が盛り上がってしまい、帰ろうとしない。

もちろん笠松も2人が一体どういう関係なのか気になって仕方ないので、渋々尾行を続けることにした。





それから2人は洋服を見に行った。

そこはメンズとレディースと両方置いてある店だったので、笠松たちも店内に入って様子を窺う。

大きな棚を挟んで名前たちと反対側の位置に行き、少し緊張を解す。

「なぁなぁ、こういうサングラスで尾行したら面白くないか?」

森山がふざけてどこから持ってきたのか、大きなサングラスを2つ差し出してきた。

「バカなことしてんなよ」

笠松は黄瀬たちの動きを少し気にしながらも森山をあしらう。

「いいからつけてみよう!」

森山が強引に笠松にサングラスをかける。

「なっやめ…」




その時だった。




「この辺の服、可愛いっス!」

「あ、ほんとだー」



2人の声が聞こえた。

と同時に、笠松たちと彼らを隔てていた棚に吊るされる服が黄瀬の手によってずらされた。

洋服がカーテンの役割をしていたのだが、そのカーテンがなくなる。


「え?」

黄瀬の声が聞こえたが、笠松は一瞬で店内から飛び出し、トイレに避難した。

森山はいつの間にかいなかった。おそらく彼もすぐ逃げたのだろう。

あまりの俊足さに自分で驚くくらいのスピードだった。



かけていたサングラスは店内の棚に放るようにしてきた。

一瞬だし、黄瀬も気付いていないだろうか。

焦りと緊張による激しい動悸に襲われて胸を押さえていると携帯が鳴った。



「悪い悪い。ばれなかったか?」

「たぶんな。ってかそれよりお前どこにいるんだよ!」

「さっきの服屋の隣。帽子買った」

「は?」



トイレから顔を出し、2人がいないことを確かめてからそそくさと隣の店に入る。

そこでは森山がハットをかぶって笑顔で待ち構えていた。

「お前の分もあるぞ!」

そう言って無理やりニット帽を被された。

「なんだよ、これ!」

「一応変装だ!サングラスもいるか?」

「いらねーよ!」


仕方なくニット帽を被ったまま、笠松は隣の店を覗く。

するとしばらくして2人が出てきた。

どちらも買い物をした様子はなく、また別の店へと向かう。

先ほどの緊張から、少し距離を保ちながら後をつけた。


「いいなーオレもああいう風にデートしたい」

森山の心底羨ましそうな声に、笠松は肘鉄を軽く食らわせる。

確かに、2人であれこれ話しながら歩く姿は楽しそうだ。

笠松も正直、黄瀬を羨ましく思った。




「またアクセサリーかよ…」

「デートにアクセサリーショップは定番だな。よし、メモしておこう」

森山は真剣な顔つきでメモを取っている。

いつのまにか黄瀬の行動がいくつか書かれていた。


先ほどと同じように名前がアクセサリーをつけ、それを黄瀬が見る。

いくつか試し、あるブレスレットをつけたとき、ついに黄瀬の目が輝いた。

「これにするっス!」

という声が聞こえてきそうだった。



2人が出てくる前に、店から離れて森山と向かい合った。

「完全にできてるじゃねーかあいつら」

笠松は意気消沈しており、がっくりと肩を落としていた。

「うーん、完璧すぎるデートだったな…黄瀬やるな」

森山は一体どこに着目していたのか、いっぱいになったメモを見て頷いている。

そんな森山に喝を入れることもできないくらい落ち込む自分がとても滑稽で惨めに思えた。



「あ、出てきた!笠松行くぞ!」

「もういいだろ、帰ろうぜ」

笑いあう2人をこれ以上見たくないのだが、森山がまだ見たいと駄々をこねるので、諦めてついていく。

いつのまにかショッピングモールを出て外を歩き出した。

もしかしたらもう解散なのかもしれない。


色々なものを見ながら、黄瀬たちは歩いている。

その距離感が気になりつつも、笠松もあとをつけた。

ふと黄瀬が振り返る。

同時に笠松と森山は植木に身を潜めた。

どうやら今回も気付かれなかったようだが、なんだか少しずつ尾行に慣れてきている自分が嫌だった…。




今度はスポーツ用品の店に入っていった黄瀬と名前。

意気揚々とそれに続く森山とは反対に、疲労感でいっぱいの笠松。


黄瀬が新しいシューズを試していて、その間名前はタオルやリストバンドなどを見ていた。

そしてチラッと黄瀬を見やると、色違いのタオルを2つ手に取り、レジに並ぶ。

濃いめの青と、可愛らしいピンク。

「あ、これ完全にお揃いだ。プレゼントだな」

すぐ隣から森山の声が聞こえ、笠松のショックはさらに大きくなる。

「黄瀬にか?でもなんで黄色じゃないんだろうなー」

「知るか」




シューズを選び終えた黄瀬が名前を探して戻ってきて、彼女の持っている袋を指差す。

何かを問われたようだが、名前は袋を背中に隠して首を横に振っていた。




買い物を終えてカフェに入っていった2人を見て、森山も尾行を諦めたらしい。

「とりあえず、明日の部活で様子見るか」

「…完璧に付き合ってるだろ。様子見るも何もオレは…」

「まぁまぁ。そう落ち込むなって!元気出せ笠松!女なんていくらでもいるだろ!」

「別に落ち込んでねーよ!!」

散々落ち込んだ姿を見せたにもかかわらず、最後に意地を張る笠松。

森山はそのことは指摘せず、苦笑いをして場を収めた。






翌日。

落ち込みすぎて眠れなかった笠松は、また部活の休憩中にぼーっとしていた。


「笠松先輩?」


そして聞こえた名前の声。


「う、あ、名字…」

「なんだか疲れてます?顔色良くないですよ」

いつもと変わらない様子の名前に、少し癒されるが同時に彼女の持ったタオルが目に入った。

昨日買っていたピンクのタオル。

早速使っているのか。黄瀬とお揃いで買ったであろうそれを見て、また落ち込む笠松。

「どこか悪いとか…」

心配しながらしゃがんでくる名前に、なんでもないと返そうとしたとき





「危ない!」





声のする方に顔を向けるとボールが飛んできていた。

とっさに名前を引き寄せる。

きゃっと小さな悲鳴が胸の中で聞こえた。




「笠松、名字大丈夫か?」

監督の声で顔を上げた。

ボールはどちらにも当たらず、転がっている。

「笠松先輩、名字さん、すみませんでした!」

ミスしたらしい部員が慌てて走ってきて謝る姿に片手で応え、やっと我に返る。

しっかりと名前を抱きしめていた。



「わ!悪い名字!」

慌てて突き飛ばすように名前を離す。

「ありがとうございます、笠松先輩」

少し頬を赤らめて笑う名前が、とても可愛く見えた。





部活に集中できなかったので、自主練は一番最後まで残っていた。

色々な不安や邪念を吹き飛ばすように何本もシュートを打つ。

気付くと体育館のあちこちにボールが転がっており、それを拾い集めるだけでも一苦労だった。



「は?」

着替えるために部室に入ると、なぜか名前がいた。

「あ、笠松先輩お疲れ様です」

名前はすでに制服に着替え、今までの部誌やノートを整理している。


「な、名字、どうして」

「ちょっと先輩が心配だったから…」

大丈夫ですか?と見上げられる。

その純粋な目に、昨日尾行して勝手に落ち込んでいる自分が恥ずかしく写った。


「いや、その…それよりお前」

「はい?」

「答えたくなかったらいいんだが」

「なんですか?」


小さく深呼吸した。

もやもやしているより、きちんと失恋した方がいいと思った。

このままでは部員や監督に迷惑をかけてしまう。

そう決心をして、名前に問う。



「黄瀬と、つ、付き合ってるのか?」







「は?」








「いや、その実は昨日、お前たちがデデデデートしてるのを見て…」

「でっデートなんかしてません!!!」





初めて聞く大きな声だった。

驚いて目を大きく開く笠松と、肩で息をする名前。



「昨日は、黄瀬くんに頼まれたんです。中学の頃のマネージャーさんがもうすぐ誕生日だから何かプレゼントしたくて、一緒に見てほしいって」

「そ、そうなのか?」

「だから買い物に付き合っただけで、デートとか、そういうんじゃないんです」

「なんだ…」



心底ホッとした。

その感想しかなかった。

心がいっぱいで何も言えないでいる笠松に、名前が紙袋を差し出す。

「あの、先輩に…」

「え?」

「どうぞ」



紙袋を受け取って中を覗いた笠松は、また驚いてしまった。

「こ、これ!?」

取り出したのは濃い青色をしたタオル。

昨日名前が買っていたものだった。

黄瀬にじゃなくて…自分に?



「先輩のタオル、ちょっとくたびれかけてるなって気付いて。あとなんだか疲れてるみたいだし、こんなもので元気になれるなんて思わないですけど、その…」

もじもじとして顔を赤らめながら捲くし立てる。

よく見ると、タオルにはY,Kと刺繍がされていた。

「ありがとう…」

「いえ、今日も先輩には助けてもらったし、いつもお世話になってるお礼です」

えへへと嬉しそうに笑う彼女に、胸が苦しくなった。

自分のものにしたい。

そういう気持ちが溢れてくる。

昨日黄瀬と歩く名前を見てずっと思っていたのだ。

自分だったら待ち合わせで遅れたりなんかしない。

隣にいるのが自分だったらどんなにいいか。

あの笑顔を独占できたなら…。




「名字…」

「はい」

「その、今度、オレと…」

「?」

「で、デートしないか?」

「えっ?」





突発にも近かった。

それでもそう言いたくて仕方なかったから、後悔はない。

笠松は真っ赤になりながら下を向いて拳を握る。


「その、それって…」


小さな名前の声が聞こえる。


「き、期待しちゃってもいいんですか?」


その言葉に思わず顔を上げると、そこには同じく真っ赤になった名前が両頬を押さえていた。


「も、もちろんだ!期待…してください…」


顔がどんどんと熱くなるのを感じながら、頬を掻く。



「あの、笠松先輩、私…先輩のこと…」


名前が勇気を振り絞ったかのように、笠松に向かい合う。

何が言いたいかは、なんとなく分かった。


「ま、待て!オレに言わせてくれ!」

笠松はここで自分が言わないなんて男として情けないと思い、名前の言葉を止める。

名前も顔を真っ赤にしながら、小さく頷き両手を握った。






「好きです。付き合ってください!」




突然訪れた告白のチャンスだったので、台詞なんて考えてもいなかった。

なんだかありふれた定番の告白になってしまったが、おそらく自分にはこれが精一杯だと笠松は冷静に考えていた。



「私も先輩が好きです、よろしくお願いします…!」



一呼吸あけて、名前が返事をする。

なんとなく分かっていたが、実際に彼女の口からその言葉が聞けてやっと実感がわいてきた。



「嬉しいです…」

そう言って名前は目尻に浮かんだ涙を持っていたタオルで拭う。


「そのタオルって…」

笠松が指差すと、名前は慌てて後ろに隠した。

「あ、あの…これは…」


「オレのと、同じ?」


笠松は自分が貰ったタオルを掲げて尋ねる。

観念したかのように名前は頷いた。


「すみません、昨日先輩のタオル買ったときに、自分もお揃いでほしいなって思ってつい…」

気持ち悪いですよね、と申し訳なさそうに頭を下げる名前。


「そんなことねぇよ。なんか、嬉しい」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ。今度また何か一緒のもの買おう」

「は…はい!!」












「そういえばこの間、笠松先輩に似た人見たんスよー」

「へ、へぇ」

「でもサングラスしてたんで、違うなって思ったっス」

「あぁ、オレはサングラスなんかしないからな!」


「それよりお揃いのタオル…いいなぁー!」

「ありがとな」

「え?オレ何かお礼されるようなこと言いました?」

「いや!なんでもねぇよ!」

名前と付き合うきっかけをくれた黄瀬に、つい感謝したくなる笠松だった。






★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
5万打感謝祭 逢坂咲夜様リクエスト
笠松 ギャグ甘夢です!

黄瀬と夢主がお出かけしてるのを目撃した笠松が尾行

ギャグ要素少なかったですね><
しかも勝手に森山先輩登場しちゃったし><
逢坂咲夜様に限りお持ち帰り可です♪
リクエストありがとうございました!



[ 4/11 ]

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