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昼休みにジュース片手に教室へと歩いていると、扉の辺りで小さな男の子がコソコソうちのクラスを覗いているのが見えた。

「ハロー日向くん」
「うわぁ!?名字先輩!」
「うちのクラスに何か?澤村?菅原くん?」

挙動不審だった日向くんに後ろから声をかけるとさらに怪しい動きにさせてしまって申し訳ない。日向くんはプルプルと首を横に振ってから「名字先輩に…」と言い出すので驚いた。私なんかになんの用が…。

「レシーブ教えてください!」
「えっ!…ということはまさか」
「土曜日に他の1年たちと試合するんです!」

澤村がそんな条件を出すとは…。そして田中くんが早朝練習に体育館をこっそり使えるように計らってくれたと言うではないか。
負けたくないと必死になる日向くんを見ていると、私も少しは焚きつけてしまったしなぁと責任を感じる。それにこの眩しい感じ、懐かしいな。中学のときの自分や周りの仲間を思い出して温かい気持ちになった。

「…昼休みと放課後ならいいよ」
「い、いいんですか!?」
「ただ私もあまりレシーブ得意じゃないから、ちゃんと影山くんに教えてもらってね」
「はい!アザーーーース!」
「ちょ、声でかいな!?」

日向くんがまた直角お辞儀と共に大声をだしたので慌てていると、後ろから肩を叩かれた。嫌な予感。

「名字と日向じゃないか。なんで2人が一緒にいるんだ?」
「キャ、主将!」「澤村!」

日向くんとハモりながら後ずさると、澤村は何かを疑うような目つきで私たちを交互に眺めた。
関わってると知られたらなんだかやばい気がする。

「名字、もしかしてお前日向に」
「ヤッダー澤村!野暮なことしないでよね!せっかく可愛い1年と遊ぼうとしてたのに〜」

誤魔化さなきゃ!と焦った結果、私はわざとらしく日向くんに近付き、その腰に腕を回した。

「えっ名字さ…!」
「日向くん、あっちでお姉さんといいことしようか」
「い!?」
「ほらほら、行こう」

ピュア少年が真っ赤になって固まるので、力を込めて引きずり、澤村から離れることにする。こっそり振り返って見てみると、澤村は呆れたようにため息をついて教室へ戻っていった。






難を逃れた私たちは、体育館の近くで地面に座り込んだ。日向くんは少し緊張した面持ちで私との距離を取っている。ちょっとやりすぎたかな。

「おーい」
「!」
「菅原くんだ」

小走りで現れた菅原くんは、さっきの見たよ〜と笑っていた。澤村がいなくなったのを見計らって追いかけてきてくれたらしい。

「名字さん格好よかったなぁ」
「見てたなら助けて欲しかったな」
「いやいや、つい見惚れちゃってさ。なんか他の奴らも『名字が純粋そうな1年を誑し込んでお持ち帰りした』って騒いでたし」
「なんか誤解が生まれそうなんですけど!?」

アハハと呑気に菅原くんが笑っているので、彼もなかなかの曲者だと理解した。澤村よ…主将は大変そうだな。


「そうそう、練習すんだろ?手伝うよ」
「い、いいんですか!?」

蚊帳の外になっていた日向くんがパァッと顔を明るくした。現役男バレが手伝ってくれるなら心強い。
どこから取り出したのか、バレーボールを日向くんに渡してレシーブ練が始まった。

私がボールを打ち、日向くんがそれを受ける。そして菅原くんが外から指導をした。的確なアドバイスに、なぜか私まで勉強になってしまう。




「名字さん、あのっ…サーブ、見たいです!」
「え、私のサーブなんか見たってしょうがないよ」
「影山がうまいって言ってた!お願いします!」

ちらりと菅原くんを見ると、相変わらずニコニコしている。「別にサーブくらい見せてやれば?」と言いたげなその目つきに、私は仕方なくボールを手に日向くんから少し距離を取った。ネットがないから場所の間隔が掴みにくいなぁ。

「サーブなんてしばらくやってないし、うまくいくかわかんないけど…拾ってね」
「ハイ!!」

いつぶりになるんだろう。少し緊張しながらボールをくるくる回す。しかし、先ほどから日向くんにボールを投げていたからな。身体がウズウズしていた。
嫌いになったわけじゃない、むしろ好きだ。この高揚感は憶えている。

成功率はそんなに高くないからと時々しかやらなかった私のサーブは、思いの外染みついていたみたいだ。ふわりとボールを上に投げ、勢いをつけて走り、跳ぶ。そのまま手を大きく振り下ろせば、ボールは前方へまっすぐ向かって行った。



「うーん。やっぱりブランクありますなぁ」
「……」
「あ、あの…」

全盛期の頃と比べるとかなり威力の落ちたサーブにがっかりと肩を落としながら、私は右手を握ったり開いたりしてみた。体型も変わったし仕方ないか。
そして先ほどから特に何も言ってくれない2人を疑問に思い、まずは菅原くんの方に首を向けると、目が合った瞬間に逸らされてしまった。え、なに?
慌てながらすぐ日向くんを見ると、顔を真っ赤にして立っていたかと思ったらそのまま後ろにバッタリ倒れてしまった。

「ひひひ日向くん!?どうした!」

ボールがぶつかったわけじゃないのに彼の身に何が起きたのか分からず急いで駆け寄ると、菅原くんも私の隣にやってきて日向くんを抱え起こした。

「ごめん名字さん。ジャンプサーブだとは」
「え、なに」
「スカートで跳んだから、その…中が…ね?」
「…は!」

そうだ。私は今制服を着ているのだった。気付かないとはそれほどバレーに夢中になっていたらしい。
おそらくスカートの中を真正面から直視してしまった日向くんは、その刺激に耐えきれずに気絶した。ピュアすぎんか?






菅原くんがおぶった日向くんを2人で保健室に送り届けてから教室へ戻る。昼休みはもう直ぐ終わりだ。

「名字さん、サーブすごいんだな」
「へへ。やたらジャンプにハマって練習したことがあってね」
「ほんと、バレー部入ればよかったのに。誘われなかった?」
「道宮ちゃんが結構声かけてくれてたんだけどねー。なんか中学で完全燃焼してしまったというか」
「なるほどなー」

この話しやすい空気は菅原くんから醸し出す癒しオーラによるものなのだろうか。初めて同じクラスになるというのに、私たちは昔からの知り合いのように話が弾んだ。

「そういや、前から気になってたけど菅原くんってのやめようべ」
「へ?」
「呼び捨てにしてほしいな、なんかくすぐったい」
「あぁ、じゃあ私のこともさん付けやめてくれる?」
「了解、名字」
「ありがと菅原」

にししと2人で笑い合って教室に到着すると、席にいた澤村が何か言いたげな顔でこちらを見ていた。菅原はその視線に気付くと私の肩に手を置き、澤村に向かってピースサインを送る。
澤村が動揺した表情になったので、私もピースし、また菅原と向かい合って笑った。



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201205




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