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お邪魔しましたと頭を下げて体育館を出ると、先ほど追い出された1年コンビが立ち尽くしていた。
心の中で頑張れよと親指を立ててから静かにその場から離れようとすると

「名字さん」
「…」

とても年下とは思えない迫力の影山くんに行手を阻まれた。

「影山くん、よく分かんないけどさ…澤村も反省してるって分かったら許してくれると思うから」
「俺たち、先輩に勝負挑もうと思ってます」
「はぁ!?」

突然すぎる申し出に、立ち去ろうと思っていた足がぴたりと止まった。何言ってんの!?そんな漫画みたいなことある!?

「仲間っぽく見えると思うんです」
「いやいや、仮にも先輩だからね!?勝てるかどうかも」
「俺がいれば勝てます」
「ひぃーアンタそんな子だった!?」

もっと純粋なバレー少年じゃなかったかい?そういえば目つきも昔は可愛かった!

「コイツさえ、俺の邪魔をしなければ大丈夫です」
「だから、そんなこと言われて大人しくしてられるわけねーだろ!!」
「うーんごもっとも」
「だから作戦立てるの手伝ってください!」

影山くんがビシッと90度のお辞儀をした。それを見ていた日向くんも真似するかのように勢いよく頭を下げてくる。

「え…普通に嫌なんだけど」
「「なんでですか!!!」」
「圧がすごい!」

断れば食い付かんばかりに詰め寄られて逃げ腰になってしまう。
しかし私はもうバレーからとっくに離れてる。今更手伝えることなんて何もないよ。応援はしてるけど…。

「そんなことないです、名字さんのサーブはその辺の男子よりずっとすごいです」
「え!そうなのか!?」
「いやそれほどでも」
「セッターだった頃の格好良さもちゃんと覚えてます」
「セッター!?すげええええ」
「え、いやいやそれほどでも…」

なにこの2人。めちゃくちゃ気分良くしてくれるんだけど?
特に日向くん、キラキラ輝いた目で見つめてくるの可愛すぎる。わんこかな?撫で回していいのかな?

「ちょっとだけでいいです!コイツの練習付き合ってください!」
「お願いしぁーース!!」

うう。こんなに可愛い後輩たちに言い寄られたら断れない。身体鈍り切ってるしだいぶ体重増えてるし、自信ないけど少しだけなら。

「…じゃあ、その勝負とやらがもし受け入れられたら、ね」
「あざっす!!」
「あざっす!名字先輩!」
「ヒィー可愛い」




とりあえず今日は帰るから、また進展聞かせてねと手を振って2人に別れを告げた。
日向くんがビシーっとお辞儀をしてくれていて、なんだか和む気持ちになりつつ校門へ向かう。


「名字先輩!」
「え、まだなんかあるの?」
「や、あの…」

後ろから影山くんに呼び止められたので、少し構えながら向き合うと彼は気まずそうな表情で口を尖らせた。

「その…本当にバレーやめたんすか」
「うん」
「なんで…」
「さっきも言ったけど別に深い理由はないよ?身長があまり伸びなかったとかそんな感じだし」
「嫌いになったわけじゃないんすね?」
「当たり前だよー!今も観に行ったりはしてるよ!」
「それなら良かったです」

影山くんは私を心配してくれていたみたいだ。ホッと表情を和らげたのを見て嬉しくなった。
本当なら頭を撫でてあげたいけど届かないので、頑張って両肩を軽く叩いた。

「影山くん…成長したのね」
「180pになりました」
「いや、身体の話では…でも伸びたねえ」

しみじみと顔を見上げると、影山くんは中学生の頃と変わらず純粋無垢な表情で首を傾げた。

「名字さんは、太りましたよね?」
「……は?」
「バレーやめたからですか?走り込みとかしてないんすか?」
「…」

なんだこいつ。前言撤回、まったく成長していません。デリカシーというものを学ばずに高校に入ってしまったようです。

「運動してないからそりゃ太るわ!」
「筋肉は?」
「落ちたわ!」
「ふうん…」

じいっと私を見下ろされたので、半歩ほど後退して身構えた。すると開いた分の距離を詰めてきた影山くんが私の二の腕を掴んだ。

「…柔らかくなりましたね」
「うひゃあ!それはセクハラだ!!」

むに、と二の腕の感触を確かめられたのでおかしな悲鳴を上げて飛び退いた。どうせ筋肉があるのかが気になっただけだろうけれど、いきなり女子の身体を触っていいわけない!

何が悪いんだ?みたいな顔をしている相変わらずの影山くんに今度こそ別れを告げて学校を後にした。
澤村たちよ…絶対コイツの人間性も教育しておくれよ。絶対だぞ。



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201126




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