ガン無視は興奮するのか


「潔子さ〜ん!」

「今日も美しいっす!」


「……」


「「ガン無視興奮するっす!!」」


毎日変わらない光景。

田中と西谷が興奮している光景。



しかし今日は少し違った。


「…」

じっとその様子を見つめている西谷の彼女、名前の存在である。


見つめられていることに気付いた西谷は、慌てて彼女の元へ走る。


「あっ名前…あのな!」



一年生の名前は、まだその光景を見慣れていない。

少し首を傾けながら西谷を見上げる。

何も言わない彼女に、西谷は怒っているのかと不安になった。

年下の可愛い彼女ができて舞い上がっていたが、さすがにこれはまずいと思ったのだろうか。

ワタワタと両手を動かし、必死に言い訳をしている。



「夕くん」

相変わらず西谷を上目遣いで見上げたまま、名前は彼を呼んだ。

「は、はいっ」

上擦った返事。


名前はいつものような無邪気な笑みを浮かべる。

「私のこと、ガン無視してください!」


「…え?」








ガン無視は興奮するのか?〜西谷の場合〜








翌日の朝練後。

「で、ガン無視するの?ノヤっさん」

「だって…名前がしてほしいって言うから…」

最初は嫌がった西谷だったが、可愛い可愛い彼女の要望となれば断れない。

今日は一日ガン無視することになってしまった。



「龍〜〜俺、名前を無視することなんてできねぇよ!」

「じゃあ無視しなきゃいいじゃねぇかよ」

「それが、少しでも返事したりしたら一週間口利かないって言われて…」

「意外と強いんだな、名前ちゃん」

「だろ?そこも可愛いんだけどさ」

「うるせーよ」





あっという間に来てしまった部活の時間。

田中と一緒に体育館へ入る西谷。


「あっ田中先輩、西谷先輩こんにちはー!」

入った瞬間、その場にいた名前が声をかけた。

「おーっす!名前ちゃん!」

「…!!」

いつも通り自分もそれに応えようとする西谷だが、約束を思い出す。


田中は隣で黙っている西谷を見て、憐れんでいた。




ピッ

いつものように練習をする。

レシーブを受ける西谷。

もちろん部活は真剣に取り組んでいるが、名前のことが頭から離れない。



ドムッ

「ナイス西谷ー!」

「ナイスー」

格好良くレシーブが取れたとき、いつも飛んでくる声援。

「西谷先輩、ナイスでーす!」

名前の明るい声に、今日は応えることができない。

チラッと彼女を見て、すぐに視線をボールに戻した。



  いつもなら、ガッツポーズして名前に応えるのに。
  
  「見たかー?名前!」っつって叫んで。

  名前も「はい!格好良い!」って言ってくれるのに。



西谷は泣きそうになりながら練習を続けた。





「おつかれー」

「帰るぞー」


いつもよりも長く感じた部活も終わり、部員全員で帰路に着く。

ここでも西谷は名前をガン無視していた。


「名前ちゃん、なんか食ってく?」

「そうですねー」

田中と楽しそうに話して、そして2人で西谷の下へ来る。

「ノヤっさんはどうする?」

「どーしますー?」

「……」

西谷はなるべく名前を見ないようにし、田中に返事をする。


「ガリガリくん食う、龍は?」

「んー俺はなー」





「じゃーなぁー」

「お疲れー」


部員たちと別れ、いつもの帰り道。

西谷は名前を送るため、2人になった。


ちらちらと名前の様子を窺う。

もう、無視しなくていいだろうか。




声をかけるべきか迷っている彼に、名前は笑顔を見せた。


「夕くん、ごうかーく!」

「えっ?」

「無視してくれてありがとう!もういいよ!」


2人になると、西谷先輩から夕くんへ。

そして敬語を使うのをやめる名前。

部員とマネージャーの関係から恋人同士に戻る合図。



「やっと…終わった…」

「うん、お疲れさま」

ふふっと笑う名前の手を、西谷は涙を浮かべて握った。

「俺、すっげー心が痛かったよ!」

「そう?」

「だってせっかく名前が話しかけてくれてるのに、返事できないんだぜ!?つらかったー!」

わーと叫びながら、握った手に力を込める。

「そっかぁ」

アハハと笑う彼女に、西谷は問うてみた。


「どう?興奮した?」


「それがね…」


少し声のトーンを落として、名前が話し始める。


西谷は彼女に顔を近づけ、耳をそばだてた。





「すっごい興奮した!夕くんと田中先輩の気持ち、よく分かったよー!!」



「マジか!分かってくれたのか!!」


共感してくれたと、つい西谷も喜んでしまった。

その後の名前の言葉で、地獄につき落とされるとも知らずに。




「うん、だから、またガン無視してね!」




「…えぇーーーーーー!!!」








ガン無視は興奮するのか?

 はい、とっても興奮しました。
 また無視してほしいです。






「龍、ガン無視って、する方がつれーよ」

「潔子さんすげーんだな」






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