5万打リクエスト1

コロコロとバレーボールが転がってくる。

それを名前はそっと拾い上げた。


「あ、ごめん名字」

「いいいいえ!」



ボールから顔を上げると、目の前にいたのは東峰。

名前のひそかな想い人である。


ボールが東峰の使っていたものだとは思わなかったため、急に現れた彼に慌ててしまった。


「あ、ありがとう」

どもりまくる名前の様子に少し驚いた表情をする東峰は、微笑んでボールを受け取った。

自分より1つだが年下のマネージャーに、恐怖心を与えまいと今まで気を遣って見せてきた笑顔である。














「ふぅ」

「なんだよー湿っぽいなお前はー」

「また昨日も言えなかったんだろ!」



翌日、ため息をつきながら体育館へと向かう名前に、同級生の田中と西谷コンビがちょっかいをかけてきた。


「うるさいなー!」

「早く言えって言ってるだろ!」

「そうそう、俺たちだって応援してんだぜ?」


「そんなこと言われたって…」



本当はずっと告白したかった。

名前は1年生の頃から、東峰を想っている。

エースとしての重圧に耐えながら、烏野バレー部を支えるその姿を誰よりも応援していた。

マネージャーとしてだけじゃなく、いつか恋人として彼を支えることが出来たら…。



部員たちはそんな彼女の姿を長い間見てきた。

特に同い年の田中と西谷は自分たちの親友である名前の恋を力強く応援している。

さらにその相手は自分たちも尊敬してやまないエース。

この恋が実ればいいと、ずっと思い続けていたのである。






「俺さ、思ったんだけど」

3人で並んで歩き始めると、西谷が言葉を発する。


「なに?」




「名前、告白しろ!」







「「は?」」













「と、いうことで俺たちも名前の協力をしようと思うんです!」

「なに言ってるの西谷!やめてよ!声でかいし」



部室に着いた途端、東峰がいないのをいいことに西谷が部員たちに宣言する。

その場にいない1年生を除く部員たちは、ぽかんとした顔で西谷と名前を見比べた。




「俺も賛成です!見ててじれったいし」

田中まで西谷の肩に手を置き、グッと拳を握る。


「今日の部活後、告白させましょう」




「だーかーら!2人とも私の意見聞かないで勝手に話進めないでよ!」

名前はバシバシと2人を叩くが、全く聞く耳をもたない彼ら。

一度決めたことは曲げることのない情熱的な男たちは、どうやって2人きりにするか相談を始めた。




「名字はさ」


すると菅原が口を開いた。

それまで黙って聞いていた大地と潔子も彼を見る。



「旭に告白したいの?それともしたくない?」


「え」



「俺はね、名字が東峰に告白したいって思ってるなら協力したいよ」

いつも通りの笑顔で菅原は話し始めた。


「でも、それは俺たちが強制することじゃないから、最終的には名字が決めるんだ。どうする?」


「えっと…」


いつも通りの笑顔でも、菅原は試しているようだった。

名前の気持ちは本物なのか。

部員という枠をこえてでも、東峰に告白する覚悟があるのか。






「わ、私…」



その場にいる全員が名前のことを見つめていた。

ギュッとジャージの裾を握り締める。




「ちゃんと気持ちを伝えたいです。たとえ叶わなくても、旭さんに、伝えたい」



下を向いて目をつぶる。

告白したいと部員たちに言うだけでこんなに緊張する。

それでも東峰本人にずっと溜めてきた自分の気持ちを伝え、告白したかった。



初めて会ったとき、身体の大きな彼を怖がってしまったこと。

傷ついただろうに、そんなこと気にも留めずに笑ってくれたこと。

自分を怖がらせないように、話すときは少しかがんでくれること。

目が合うと必ず微笑んでくれること。

みんなで歩いているとき、自分が1人でいたら絶対に声をかけてくれること。


東峰の名前に対する行動すべてが、優しかった。

そんな優しさがとても嬉しくて、大好きであることを東峰に伝えて、お礼が言いたい。










「じゃ、決定だね」


後ろから両肩をぽんと叩かれる。

温かいその手のひらは、潔子のものだった。


「私もずっと応援してた。協力するよ」


「だな。あのヒゲチョコ、びっくりするだろうな」


ニッといい笑顔を見せる大地も頑張ろうと応援してくれた。

田中と西谷もやるぞやるぞと騒いでいる。

そんな彼らを見て、名前も決意を固めるのであった。









「よーしかいさーん!」

「お疲れっしたー!」



部活が終わり、片付けをする。

名前は緊張が高まってきて、声が発せられない。

潔子もそんな彼女を気遣い、片付けを手伝った。




「日向、影山帰るぞ」

「居残りしたいんですけど!」

「だめだ!!」

いつもより強引に腕を引かれる1年生たちは、これから何が起こるのか知らない。

不満そうな顔をしながら、菅原に引きずられていった。



「あ!旭、今日鍵任せていいか?」

「いいけど、なんで?」

大地が部室の鍵を渡す。


「今日急いで帰らないといけないんだ。で、まだ名字が部誌書き終わってないからさ」

「あぁ、待ってればいいんだね」

「悪いな」

「いいよ、お疲れ様」


優しい東峰は快く鍵を職員室に返すことを受け入れ、手を振った。


「じゃーなー!」

「お先に失礼します!!」


一緒に残ると言う部員が誰もいないことに、少しだけ寂しく思ったが、おうと東峰も返事をして部室へ向かった。




ノックをする音がして、東峰が部室に入ってくる。

「名字、お疲れ」

「あ、旭さん!お疲れ様です!!」


もう部誌もほとんど書き終えている名前。

高鳴る心臓を抑えながら、立ち上がった。


「待たせちゃってごめんなさい」

「大丈夫だよ、ゆっくり書いて」


ほらほら座って、と相変わらず優しい東峰。

名前も深呼吸して椅子に座りなおした。








「…」

「…」


部誌を書きながら、東峰の様子を窺う。

彼はロッカーから雑誌を取り出して読んでいた。




「あ、旭さん」


「ん?」



「あの、ちょっとお話したいことがあって…」


「うん、何?」



東峰は雑誌を閉じ、床に置いた。

ちゃんと話を聞いてくれようとしている。

それが嬉しいような、緊張をさらに深めるような。




「と、突然なんですけど」

「うん?」












何から言えばいいんだろう。

自分の思っていたこと?

好きという一言?






「私、あ、旭さんが最初は怖かったんですけど…」

膝の上で拳を握って、話し始めた。

東峰は黙って聞いている。

自分の方に視線が向いていることが分かって、彼の方が見られない。



「でも、いつも優しくしてくれたり、部活に一生懸命な旭さん見て、全然怖い人じゃないんだって分かって…」


深呼吸をする。



「す、すすすきです!」









しまった。

脈絡がなくなっていた。


名前は、うまいこと言葉が繋げずに、つい先走って好きと言ってしまったことに後悔した。

しかも噛んだ。



しかしもう戻れないことに気付いていたので、スカートが皺になるくらい、ギュッと手を握り俯く。

東峰が何も言わないのが怖かった。








「ありがとう」


長く感じられた沈黙が、東峰によって破られた。


「突然だからびっくりしたよ」

「す、すみません」

「いっいや!謝ることじゃないよ!」



ガタと音がして、東峰が立ち上がったことが分かる。


「名字、顔上げて」

「っ…」

「ちゃんと返事したいから」



そう言われては、下を向いていられない。

振られてしまうのではと不安がよぎるが、名前は顔を上げた。





するとそこにいたのは顔を真っ赤に染めた東峰だった。


「俺、へなちょこだしそんなに優しくないし、バレーだって一度逃げてるけど…」

「…」

東峰は自分の髪をくしゃっと握る。





「俺も好きです。付き合ってください」


「え…」




しっかり目を見て、伝えられた言葉。

名前は耳を疑った。



「…だめ、かな」


東峰は困ったように微笑む。

名前はその言葉で我に返った。


「だ!だめなわけないです!!」


「そうか、良かった」


今度こそ東峰は嬉しそうな顔で笑った。















「おはよ」


「おーっす!って、おいおいおーい!」

「なに普通におはようって言ってるんだよ!!」



翌日、田中と西谷にあいさつをするが、2人はそのまま追い抜こうとする名前を逃すことをしなかった。


「ちゃんと報告しろよー!」


「えぇ?」


「待て待て龍、もう分かんだろ。こいつの顔を見れば…」


「まぁ、な」




「「おめでとう」」








「へなちょこめ、結局名字から言われちゃったのかよ」

「だって急だったしさ…」

「散々早く告白しろって言ったのになぁ」

「でも、良かったね」

「うん、ありがとう」












「帰るぞー!」

「居残りしたいんですけど…!」

「今日は名字が部誌書いてるからだめだ!」

「あーそうかぁ」

「それじゃあ旭さんお先っす!」

「うん、お疲れー」





カチャ。

「名前、書けた?」

「あ、旭さん!もうすぐ書き終わります!」


「ゆっくりでいいよ」

「はい」

東峰はいつもの笑顔で部室に入ってきて、その辺に腰かける。

名前も部誌を丁寧に書く。

「今日、疲れました?」

「あー、うん。ちょっと厳しかったなぁ」

「でもみんな楽しそうでしたよ」

「楽しいよ。どんどん強くなる」

「旭さん、なんか逞しくなりましたね」

「え!どこが?」

「なんか、雰囲気?」

「なんだよそれ」

あはは、と2人で笑う。




「お待たせしました」

「ううん、帰ろう」

校門を出て、そっと手を繋ぐ。

最初はぎこちなかった2人の関係も、落ちつくようになった。


あのとき勇気を出してよかった。

勇気を出させてくれた部員たちには感謝してもしきれない。

そんなことを思いながら、隣の東峰を見上げる。

彼も優しい笑顔で、こちらを見ていた。










☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
5万打感謝祭 えま様リクエスト
東峰 甘甘夢です!

2年マネが部員に協力してもらって告白
東峰にも好きと言ってもらう

ちゃんとお応えできたでしょうか><
えま様に限りお持ち帰り可です♪
リクエストありがとうございました!

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