『平門…もう、いい』

だから離してそう私が言いたいことは分かってるはず、だけど解放してくれる気は感じられない。


『平門ってば…、』

え、



『…ちょ、ひら…っ』
「じっとしてろ」

そんなこと言われてじっとしていられるわけがない。徐に裾を捲くし上げて直に腰を触られたことで思わず背中が仰け反るけど抱きしめられたままのこの状態では逆に体を預ける形になっていた。

腰や背中を弄られるような感触、でもふとそんな手も止まって私と改めて向き合う平門は何を考えてるのか分からない。私の体をじっと見据える目も、


「蒼、上着を脱げ」
『…さっき、言ったでしょ…?』
「そうやっていつまで現実から目を背けるつもりだ?」
『!』
「目を背けたくなるのも分かる。だがお前の場合そうも言っていられないのは蒼自信が一番分かっているはずだ」
『分かってても…っ、嫌なものは嫌だって言っ……!』
「……なら仕方がない」

気付いた時には背中をとられてソファへ押し付けられた。着ていた上着も殆ど肌蹴られて外気に触れることで強張るのが分かるけど反射的に顔を向けた。ここぞとばかりに苦言を散らそうと思っていたのに平門の目に気圧されてしまった。


「蒼」
『…っ』

だめだ、こういう時の平門の目には勝てっこない。逃げ場がない中唯一逃げられるのは視線だけ、だけど平門は何をするわけでもない。ただ肌蹴る隙間を見据えてるんだろうと思う。そう思ったら胸元を隠すように身を捩りたくもなる。


「不安なら外に出せ」
『…は、』
「怖いなら…手を差し伸べろ」
『何言って…』
「俺がついている」

そう私の手を掴んで顔を寄せる平門に張り詰めていたものが切れそうになった。

怖くない、不安なんかじゃ…


「ずっと…我慢していただろう」
『して、ない』
「ならどうして震えているんだ?」
『…もう、放っといてって「言放っておけるわけがないだろう」…!』

言い方は至って冷静、だけどこの声は絶対怒ってる。


「お前は仲間だ」
『…っ』
「だが俺は違う」
『…え?』

平門の言動にここぞとばかりに翻弄された中で一番不可解な言葉に目を見張ってしまう。仲間と言った矢先にこの言葉は誰だって理解できない。


目を逸らすことも許してくれない。


「…蒼、俺はお前を」

『……』


え…待って、


『平門…?』

鼓膜を舐るような平門の声と耳元に感じる声の振動に胸が跳ね上がった。ダイレクトに吹き込まれた言葉はどう足掻いても聞き間違いなんて言えるわけがない。それでもその深層にある意味というものは、受け入れ難いものがあった。

…信じちゃいけない言葉、そう言い聞かせながらも動揺が隠しきれなかった。



「俺はお前を、」


だめだ…また視界が揺らぐ。

平門の声が鼓膜にこびり付いて判断力が疎くなる。

人はここまで翻弄されるものなのかと思うのも一瞬でまた顔を持ち上げられてしまった。でも今の平門の目をまともに見ちゃいけないと思うのは潜在意識故。


「一人の女として見ている」

この言葉を口にしてしまった平門に私はどんな顔を向ければいいのか分からない。


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