「検査結果特別異状は見当たらないが、何か気になることはあるか?」
『眠いです』
「……」
『寝るのが怖いです』
「怖い?」

此処は定期健診というものがあって與儀もパッチの交換をしてもらっているらしい。なぜか私も検診者としてここに連れてこられたわけだけど私の言葉に訝しむ燭先生。


「理由は?」
『理由は、』

言ったところでどうにかなるわけでもない。あれっきり嘉禄とは会っていないし実際私は意図的に眠りを浅くしている。自業自得といえばそれまでだけど、それでもやはり調子はよろしくないのだ本音だ。


「念の為脳波を診てみるか。そこに横になってみろ」
『…はい』

たいして寝心地はよくない固い検査用のベッド。だけど私が横になって瞼を閉じるのを待っていたかのように恐ろしいスピードで睡魔が襲ってきた。

(やばい、だけど…)


抗う術が見当たらないままそのまま意識を手放すことになった。遠くから燭先生の声が聞こえるような気がするけどそんな声もすぐに消えてしまった。




「久しぶりだね、ずっと待ってたんだよ」
『…嘉…禄?』

気付いたらそこは前と同じ場所。相変わらず優しい表情で私を待っていた、そう告げる嘉禄。


『待ってた…?私を?』
「そうだよ。ずっとここで待ってたんだ。呼んでもそれを拒むように君はちっとも来てくれないし、すごく淋しかったよ」
『……』

やっぱり睡魔の原因は嘉禄、だったのかもしれない。ずっと呼んでいた、その言葉でリンクした。


「そっちの居心地はどう?」
『可もなく不可もなく、ですけど』
「そうなんだ…こっちの方が住み易いと思うよ」

その言葉の裏側は早くこっちにおいでと、そう言われているような気がした。


「ねぇ、何をそんなに迷ってるの?」
『え?』
「俺が怖い?」
『…分かりません』

怖くはない、だけど少し…気味が悪いとは思う。この現状も、嘉禄の独特な雰囲気も。


「でも迷っている時間はないんだ、蒼」
『…!』
「ねぇ、早く…俺にくれないかな」
『ちょっと…何、』

腕一本分以上の距離はあったはずなのにいつの間にか顔を持ち上げられて、顔が触れそうな近さになっていたことに驚きが隠せなかった。


『…っ痛、』
「どうしたの?苦しい?痛い?」
『や、めて…』

この距離で目を見据えられて、あの時同様逸らせない。これ以上見据えられると心臓、おかしくなりそう。
ただ見据えられてるだけなのに心臓が焼けそうなくらい痛い。苦しい。


「……」
『っ!』
「ココが痛いの?」
『お願い、触らないで…っ』

顎を優しく掴まれたまま胸元に手を滑らせてくる嘉禄にゾクッとした。もう一つの私の“心臓”に優しく触れてきて、感じたことがない脈の打ち方をしている。


「…今日はまだこっちに来れないみたいだから、また今度にするよ」
『…え?』

何を悟ったのかスッと嘉禄の手が退いた。さっきの痛みとか焼き付かれる感覚も退いたということは、


『…っ!?…』

え、何…?



「ここで待ってる。必ず、また俺に逢いに来て?」

耳元で囁くように吹き込まれたよりも、その前にキスされた瞬間全身がありえないくらい戦慄した。



「蒼、待ってるからね」



「…イ、しっかりしろ!」
『…?』

あれ?


『燭、先生?』

ということはここは研案塔で、現実に戻った…ということ?
未だに夢と現実の線引きが曖昧で視点が定まらない。だけど燭先生の言葉で一気に現実に引き戻されることになる。


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