どうやらあれから私は半日も眠っていたらしい。流石に自分でも驚いた。燭先生も驚いている、だけどさっきから眉間の皺の本数が減らない。 怒ってるとか呆れているという表情には見えない。 「お前が眠っている間に再度血液を採らせてもらった」 『それがどうかしましたか?』 「……」 血液検査なら検診前にもやった。なんてこはなかったはずだけど今の燭先生の表情は不審を募らせたような険しい表情。口を開きかけるけどまた閉じてしまった代わりに棚から小さな小瓶を取り出して私の前に翳した。 「…蒼、これが何だか分かるか?」 『分かりません…薬品ですか?』 青い、というよりは蒼いと言った方がしっくりくるような、くすんだ青。新しい薬だろうか、そんな程度の認識でしかなかった。 「お前の血だ」 『…え?』 ちょっと、待って?おかしくない?まさか冗談、と思っても燭先生は冗談を言えるような人でもないことは既に分かっていることだ。 それでもやっぱり信じられないのだ。 『血って…採血した時は赤かったじゃないですか』 「確かにお前の言う通りだ。しかしこれは紛れもない蒼、お前の血で間違いない」 『でも、』 言葉が見当たらない。燭先生の言葉、それに見せるものは絶対なのだ。 「眠りに落ちている間に何度呼びかけても反応はなかった。が…脳波に異常な動きがあった。思い当たる節はあるか?」 『……』 思い当たる節といえば一つしかない。その僅かな表情を見逃さなかったのか燭先生もまた表情が固くなった。 「このことはまだ誰も知らない」 『燭先生だけでいいです』 「…いいのか?」 『いいです』 要するに、平門や艇のみんなには言わなくていいのかと…言われていることも言っていることもお互い分かったうえでの言葉だった。 「平門にも言わなくてもいいのか?」 『…はい』 「分かった」 リーダーが誰だろうとこのことは誰も知らなくていい。表沙汰になったっていいことはありゃしない。 研案塔の扉を出て、持っていた安ピンで指を刺してみたらプツッと皮膚が弾く音、そこから出てくるのは赤い血ではなくて、 『……』 我ながら気持ち悪いと思う。まるで人間じゃないみたいで自分が気持ち悪くなった。 (まさか、) 夢の中で嘉禄にキスされたことが引き金になった…?いや、でもそんなわけない。夢は夢でしかない。 「おかえり蒼!検査、どうだった?」 『寝不足なだけ。あとは健康そのもの』 「よかったー!」 「じゃあ快気祝いでパーッと飲みましょうか!」 『だから健康って「細かいことは気にしない!ホラ蒼も着替えてらっしゃい」…分かった』 このままでいいんだ。みんなは何も知らなくていい。 Psychedelic |