「俺は間違ったことはしていない」
『…いい、もうそのことは』
「お前を貫いたアレは一時的に仮死状態にさせる為の杖だ。まぁあの時は剣になっていたが」
『どうして、』

その先の言葉に繋げられない。でも正直な本心を言うならどうして殺人紛いな手段を選んだのか、だと思う。


「蒼、覚えていただろうあの男のこと」
『……』
「蒼を狙っている嘉禄の護衛、といったところだ」
『嘉禄…』

いや、今はそれじゃない。どうして…


『平門…私を殺すつもりだった…?』
「……そう思われても仕方がないとは思うが、」

違う。静かに、それでもハッキリと言われた。でも安心とかホッとすることはなくて未だに胸の奥が燻ってる。認めたくないけどそれだけ私、ショックを受けてるっていうこと…?


「…ショックだったか?」
『……』

そうだけど、そうじゃない。まるで最初から分かったような平然とした口調になんだかとてつもないやりきれなさが。腹が立つとかムカつくとか、どの感情にも属さないどろどろとした感じ。


『悪いけど帰って』
「それはできないな」
『正直今は誰とも話したくない』
「分かってる。だから尚更だ」

何なの…本当、意味わかんない。だったら嘉禄の言う通り…黒白という男に身を委ねれば良かった?
大人しく嘉禄の元へ行くべき…だった?


『私は、何なの?』
「蒼?」
『分かんない…平門が』
「蒼、顔を上げろ」
『もう、疲れた…』

…?


「すまなかった。困惑させてしまったな」
『いいから。だからこんなこと、しないで』

顔を背けたけど大きな手がそうはさせてくれなかった。優しく頬を覆われて顔を上げられたけどまともに目が見れない。


「どんな手段だろうと蒼を行かせるわけにはいかなかった」
『…え?』
「どう思われようが構わない。それでも俺はお前を手放すつもりはない」
『意味分かんない…』
「分かろうとしないだけだ、今のお前は」
『っ!』
「もし一瞬でも嘉禄の元へ行くべきと考えたなら」
『そんなこと…っ』
「考えたな?」
『考えて…な、』


…え?ちょっと、


「本音、吐き出すまで離さない」
『何、してんの…?』
「そうだな、これからどうしてやろうか考えているところだ」
『じゃあとりあえず圧し掛かるのやめてください』
「それは無理だな。それに蒼お前」
『…?』
「こういう風に追い詰めた方が」


う、わ…


「…すぐに吐き出すことくらい知ってる」


耳元で舐るような声にぞわっと身の毛が弥立った。ていうかそういう風にさせているのは平門でしょ…と言う余裕も隙も見せたらいけない気がした。

とりあえず耳の辺りがすごくゾクゾクして仕方がない。


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