「與儀、理解し難いだろうけど受け入れて」 「姉さん…っ、どうしてそんなに落ち着いてられるの?蒼ちゃん、見たでしょ?!」 「見たわよ。心臓止まるかと思ったけど平門があの子を殺すなんてわけないのよ、できるわけないじゃない」 「それは分かるけど…迷いがなかった」 「迷ってる暇さえなかったってことでしょ?それに今だから言えるけど平門のアレ、瞬間的に仮死状態にできる杖だったじゃない」 「え、そう…だっけ?」 「まぁ滅多にお目にかかれないけどねぇ」 こんなに取り乱した與儀も久々に見るかもしれない。それ以上に取り乱していたのは平門…付き合いはそこそこ長いけど初めて見たかもしれない。 「でもどうして、」 「平門が言ったことが全てなのよ。それに…」 「イヴァ姉さん…?」 「今蒼がアイツ等の手に渡ってしまったら二度と逢えない気がしたから」 正直今になってから分かるようなものだけど平門は確かに迷いなく蒼へ向けて杖を剣にして解き放った。 ほんの僅かな一瞬の間に平門は判断…もしあそこで繋縛できたとしても確実性に欠けると瞬時に判断した結果なら平門のあの行動は頷ける。 実際あの光景を目の当たりにしたのは精神衛生は悪いってものじゃない、だけど 「やっぱりうちの艇長は絶対だって思うの。平門はさ、目的の為なら割と何でもやっちゃうじゃない私たちにでさえ。非道だ冷徹だって思われようが結果的に覆して正論まで繋げちゃうし?揶揄された分倍返しにするのよ、アイツのやり方でね」 蒼は私たちの所にいる。今はそれが全て。 悔しいけど平門はいつも正しい。 *** 『…?』 うつらうつらと横になりながらも静かにノックする音にも過敏に反応してしまった。だけど起き上がるのも面倒だから誰かは分からないけど狸を貫くことを選んだ。 静かに歩み寄る足音。目を伏せながら早く出て行ってと念を送るけど傍にある椅子を引きずる音でここに居座ろうとすることが分かった。 (誰…) 確認したい、だけど面倒…ていうか今は誰だろうと会いたくなかった。もしツクモとか无だったらちょっと申し訳ないと思うけど。 「随分な狸寝入りだな」 『…!?』 多分気付かれた…ほんの少し肩が跳ねた瞬間もうバレバレだ。 「それで?いつまで狸になっているつもりだ?」 『……』 「追い剥がれたいのなら『何ですか』…起きているじゃないか」 売り言葉にまんまと引っかかったわけじゃない。だけどこの男が言うと冗談でも本気に聞こえるしその逆もあり得る、けど今の場合は明らかに前者だ。 『…何か用ですか』 「話をしようと思ってな」 『今じゃなきゃいけないの?』 「先延ばしにする方が面倒だ。蒼、いい加減こっちを向いてくれないか?」 『……』 「蒼、大事な話だ」 分かってる。分かってるけど今面と向かって平門の顔を見る勇気はない。傷もズキズキ痛むし目頭もなんか妙に熱い。 Psychedelic |