「……」
「おや、燭さん」
「おや…じゃ、ないだろう貴様…!」

そりゃあそうだ。この体勢を見れば誰でもオイオイと言いたくなるしとりあえず燭先生、


『助けてください』
「…平門」
「今取り込み中です。傍観は歓迎しますよ」
「…何をしようとしている?」

いや、先生そこは怒号を撒き散らしてもいいところですよひっぺ返すのが普通じゃないですかと目で訴えてみる。目は合った。だけど眼差しをうっすらと細められるだけだった。


「見ての通り蒼を押し倒していますが?」
「そうだなぁその通りだ…平門、お前はどこまでも私の神経を綺麗に逆撫でてくれるんだな…?」
「逆撫でる?まさか、私はいつでも燭先生を敬っていますよ」
「ほう…?」
『平門…退い…、!?』

退いて、とりあえず最後まで言えない理由は躊躇いなく胸元を曝け出されたわけで。やばいと思う前にもう遅いことは分かってるけど唯一自由である片手でそこを隠した。

「…以前よりも開いているな」
『……』
「コラ。隠すんじゃない」
『やめてって言ってるんだけど』
「それは可愛い凄み方だな」「私という人間を無視して尚続ける気か」
『先生見てないでどうにかしてください』

顔を寄せようとする平門の顔を押し退けながら今も尚傍観サイドにいる燭先生に苦言を漏らしてもなぜか動こうとしてくれない…何故。


「平門…それがお前のやり方なんだな?」
「ええ、勿論」
「ならば私は見なかったことにしよう」
『は?』

一時間後採血に来るとだけ言い残し燭先生…もはや薄情な燭先生は静かにドアを閉めてしまった。


『……』
「ということだ」
『どうかしてる』
「燭先生になんていうことを言うんだ」
『どっちもですけど』
「こういう時は威勢がいいなお前は。それとも焦りからくる遠吠えか?」
『いいから早く退いてください本当に…怒りますよ』
「……」

ていうか怒りますよって…言った後で言うのもあれだけど我ながら子ども染みた言い逃れだと思った。後からじわじわと襲ってくる羞恥がまた自分を追い詰めていることは身に染みて感じる。

が、怯んだら負けだ。


『何…』
「その時点でお前の負けだな」
『は…』
「分かったことがある。聞きたいか?」
『…何?』
「その蕾、黒白と接触してからまた大きくなっただろう」
『……』
「おそらくそれは嘉禄との距離と比例している」
『え?』

どういうこと…?


「開けば開くほど嘉禄と接触率が上がる。完全に開く頃には『言わないで』…分かっただろう、蒼」
『……』

見て見ないふりをしていたけど、少しは勘付いてた。


「一度開いた蕾は閉じることはない。だが」
『っ!』
「…それを留めておくことはできる」
『ちょ…何、その触りか…っ!』
「嘉禄は嫉妬しているだろうな」
『平門…、んっ…!』
「夢の中でしか触れられない蒼を俺がこんな風に触ったり」

妙な手つきで胸の痣に触れてくると思ったらまともに直に触ってきた。身を捩ろうとしてもがっちりと押さえ付けられてされるがまま。

『…ぁっ、平門…っ!』
「お前のこういう声を出させていること…そう思わないか?」
『ひら…っ、やめ「やめる?」…ぁ、んぅ…っ』

半開きになった隙間から舌を捻じ込ませてきて何かがフラッシュバックした。
この違和感、あの時私が平門に寝かしつけられて目が覚めた時の感覚と似てる。

あの時は自力で目覚めた感じはなかった。

…平門しか考えられない。


「一時間もあれば…余裕だな」
『は?』

え、まさか…


『す、ストップ平門…!』
「何だ、察しがいいな」
『何考えてるの…?』

貼り付けた笑いを浮かべるのは冗談であってほしいから。だって場所が場所だ、いつ誰が入ってきてもおかしくない。だけど平門は至って平然としている…と思えばふっと鼻先で笑った。


「お前を抱くことしか考えていない」
『な…!』

って、オブラートに包むどころか包む気もない。一度関係をもった身であってもやはり抵抗はある。それでも幸か不幸かその間誰もドアを開けることもなければ燭先生も宣言通り一時間後きっかりやってきたのだった。

疲労困憊の私、清々しさをひけらかす平門を交互に見て怪訝な顔をするのはもはや予定調和だ。

これは人としての欲求…意味なんてない。

あっても…困るだけ。


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