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ずっと単調に走ってるだけだなんて暇過ぎる。かれこれ…五、六時間は走りっぱなしだぞ。体力的には問題ないけど精神的にキツイ。
「そー言えば、」
「うん?」
ただ黙って走る事に飽きたのだろう、刑部がおもむろに口を開いた。
「ぬしはキルと面識があった筈よナ?」
「…まあ。お前の家に遊びに行った時に何度か顔を合わせた程度だが」
顔見知り…とも言えそうにないお付き合いしかした覚えがないなぁ。
挨拶と「チョコロボ君好きなの?」しか口利いた事ないや。
キルア君の反応?「別に」のただ一言だったよ。
俺嫌われてんのかな。うーん、俺が行くたびにお兄ちゃん二人を占領しちゃうから嫌われても仕方ないのか?
「フム…キルに気付かれては不都合がある。顔を変えよ」
「簡単に言うなよ。俺はお前みたい顔を変形なんて出来ないの!」
自分が出来る事が他の人にも出来るだなんて思わないで欲しいよまったく。常識で考えたらすぐに分か…あの家には『常識』という概念すらなかったか。
「なれば我が手伝うてやろ」
言うや否やスチャッと懐から針を取り出すと刑部は、
「は?手伝うって何を………って、ぎゃー!!」
俺にぶっ刺した。顔が溶けているかのように熱く、そしてそれ以上に皮膚がうぞうぞと蠢くかのごとく気持ちが悪い。
しかし耐え難いかと思われたその苦痛も一瞬の事だった。
「うーん、いてて…予告なく針を刺すなバカたれ」
「予告しておればよかったのか?」
「そーゆう問題じゃ……まあいいや」
ほら、と今度は手鏡を取り出した刑部はそれを俺に手渡してくる。
一体何のつもりだ、と言うのは野暮ってものか。
おとなしく受け取り鏡面を覗き込むとそこには、
「おー。懐かしい『私』の顔だ」
予想通りクロロ=ルシルフルとは別の顔、懐かしき石田三成の顔が映っていた。
釣り上がった眉、色の薄い目、通った鼻梁、気難しげに引き結ばれた口。ただ、残念な事に髪の色は黒のままのようだ。黒い三成…い、違和感…。
「なあ……ソレ、変化の術だろ?まさかオレ以外にも忍がいたとはな!」
いきなり馬鹿でかい声で話し掛けられ、一体何だと目を向ければ、
「ハゲだ」
「禿がおるナ」
そこには見事に禿げ上がった光り輝くハゲが居た。

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