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「見事なハゲだ」
「ウム、あの禿頭…見事過ぎる程に照り輝いておる」
突然話し掛けてきたハゲ頭に刑部は眩しそうに目を細める。
と言っても実際は地下の薄暗い明かりを反射しているだけだから眩しくなんかないのだが…まあ気持ち的にだ。
「あのハゲの服…忍者だろうか」
「草の者の様にも見えるが如何であろうか」
「テメェら!さっきからハゲハゲうるせぇんだよ!オレは剃ってんだ!」
怒り心頭のハゲは赤くなっている。湯気でも出そうだ。…見てみたいな、出ないかな。
そんな期待を裏切ってハゲは普通に怒っている。つまらん。
「おおう、キレおった」
「短気なハゲだな」
「全く」
以上すべて走りながらお送りしました、あーしんどい。
体力的には平気だけど同じ景色が続くのがしんどい。
「禿で無いのならばぬしの名は?」
「……ハンゾーだ」
刑部が息も乱さず尋ね(この程度のマラソンでへばってもらっても困る)、ハゲ頭がこちらも息切れ一つなく答えた。…不承不承といった体であったが。
「ハゲゾーか、よし覚えた」
それにしてもハゲ頭で名前がハゲゾーだなんて出来過ぎた…
「ハ、ン、ゾー!!もう間違うなしっかり覚えろよそうだこれ名刺な間違うなよ」
何だ違ったのか。残念な事である。
声を荒げ無駄に一息で言い切ったハゲを無視し、押しつけられた小さな紙片を眺める。そこには『雲隠流上忍・半蔵』と自己主張激しく書かれていた。忍べよ、忍なんだから。
「ふーん…伊賀とか甲賀とかじゃないのか…」
「おっ!兄さんジャポン通だな!昔は…つっても百年以上前だけど…分かれてたらしいけどお偉方の方針で忍の技術向上のために合併させたらしいんだ。んで今は表向きはただの派遣会社、裏では護衛に諜報暗殺何でもござれの…あヤベッ!これ極秘事項だった!!今聞いた事は忘れてくれっ」
はじめは揚々と、それからサァッと顔色を蒼くしてハゲゾーが慌てた様子を見せた。よく表情の変わる男だ。
極秘というほどの情報かと聞かれたら微妙な気もするが…それにしても口が軽い。
「いやぁオレ前にも機密情報をうっかり言っちまってさあ!メチャクチャ怒られたんだよ。なっ!頼むから聞かなかった事にしといてくれ」
「「忍やめちまえ」」
頼む、と手を合わせるハゲゾーだが顔は悪びれておらずいっそ清々しいくらいに笑顔だ。刑部が冷たい軽蔑の眼差しになるのも仕方のない事である。

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