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素敵髭紳士曰く、
「さて 一応確認いたしますがハンター試験は大変厳しいものもあり、運が悪かったり実力が乏しかったりすると、ケガしたり死んだりします。先程のように受験生同士の争いで、再起不能になる場合も多々ございます」
…だ、そうだ。
ぞろぞろと大人数が移動しているというのに髭紳士の声は足音に掻き消される事なくよく響いた。きっと何か特殊な発声法でもしているのだろう。
「なあ…ところで受験生同士の争いって…?さっき何かあったか?」
「ナニ、変態が暴れておっただけよ」
「ふうん…?」
別にどうしても気になるワケじゃないけど…それにしても刑部はもっと素直に教えてくれてもいいのだがな。…素直な刑部か…想像出来ん。あー…まあ、自分のやりたいようにしか動かないという意味ではある意味素直かも知れんが…。
素直か、旅団の中で言えばウヴォーとかか?いや、あれは単純バ……。思考が横道に反れて行く俺の頭に、
「申し遅れましたが私、一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場へ案内いたします」
紳士の声が冷水のように温度のないまま染みた。
…。え?イチジシケンタントウ?ニジシケンカイジョウヘアンナイ?
「二次……?ってことは、一次は?」
群衆の中から声。挙がった疑問。うっかり俺の心の声が漏れてしまったのかと思った。
先を歩く紳士は少しだけ俺たち―受験者―を振り返る。
「もう始まっているのでございます。二次試験会場まで私について来ること。これが一次試験でございます。場所や到着時刻はお答えできません。ただ私について来ていただきます」
紳士は鋭い流し目でおそろしく丁寧に答えた。
そしてそれ以上の質問は受け付けぬとばかりに前だけを見て長い足を動かす。空気を読んだか試験官に何か言う者はこの後現れなかった。
「…。ついてくだけなら楽勝だな………おい刑部、前に行くぞ」
「ウム、試験官に引き離されては敵わぬユエ」
「それもあるが…」
俺がそんなまともな理由でそう言ったと思うか?
答えは否ッ!
「こんなむさ苦しい男どもの中を走るだなんてご免だ。…消臭剤をバラ撒きたくなる」
「ぬしはホンに嘘の吐けぬ性格よナァ」
別に吐けないワケじゃないぞ。この場で嘘を吐く理由がないだけだ。

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