02.乱心

(……今日も可愛い)
三成を見ていると改めて思う事がある。
(こいつ本当に男なんだろうか)
もしこの考えを聞かれたら…殴られそうだな、鞘で。


『中の人』が女性の場合、肉体が男でも女なのか?……なんてジェンダーフリーとかトランスジェンダーだとかの小難しい話題じゃない。…その話題ならワシにも当てはまるが。
ちなみにワシは困った事に中途半端なままここまで育ってしまった。男の自覚はあるが根っこの部分の『私』は変えようもなくどっちつかずだ。三成もそうなんだろうか。
話が逸れた。
つまり、ワシが言いたかったのは単に三成の体が男に見えないってだけの話だ。
三成は細くて小さい。
身長はワシと変わらないくらいで、けっして小さいと言えるサイズじゃない。メートル法で言えば百八十センチ近くあるはずだ、ワシも三成も。
だが筋肉があまりついてないせいだろう、三成はワシよりも一回りは小さく見えた。
そんなナリだからだろうが彼が女よりも男にモテるってのは本人には内緒だ。
余談になるが彼が小姓の頃はそれはそれは大変だったらしい。
手篭めにされかけたとかなんとか。…まあ、その手出ししようとした奴は秀吉殿と半兵衛殿と刑部に世にも恐ろしい目に遭わされたらしく、そういった輩はすぐに出なくなったそうだ。
「…で、………なのだが、……家康、聞いているのか」
「ああうん、聞いてる聞いてる」
「ならいい。それでだな、」
わりい、聞いてなかった。
それを正直に言うと気を悪くするだろうし、そもそもワシが怒られるので言わないでおこう。
低く落ち着いた声がワシの耳を震わす。
少年と呼べる年を過ぎ、声変わりも済んで、喉仏だって浮いているのに襟から伸びる首はそこらの女よりも艶かしく白い。
…本当にワシと同じ男なのだろうか。
なだらかに下る肩、薄い胸板、柳のようにしなやかな腰。
そっと腕の中に閉じ込めたくなるような華奢な肢体…
「?…家康?」
「っ、ぁ、すまんっ何でもないっ!」
意識しない内にその薄い肩を掴んでしまっていたらしい。
三成が訝しげにワシを見る。
一瞬浮かんだ考えが見透かされないよう、ワシは努めて笑みを浮かべた。
「…貴様さっきからおかしいぞ。変なモノでも拾い食いしたか」
「三成じゃないんだからそれはないよ」
「そりゃどーゆう意味だッ私に失礼だぞコラァ!」
「悪いっ今のは失言だった!つい本音が…」
「さらに失礼だぞ貴様ァァッ!!」
この衝動がバレやしないかと気が気じゃなかった。


抱き締めたい…だなんて、どうやらワシは本格的に頭がイカレちまったらしい。

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