01.困惑

おはよう、こんにちは、こんばんは。
はじめまして、お久しぶり……ふう、これくらい言っておけばいいかな。
ワシの名前は徳川家康だ。
最近ほんとぉ〜に困ってる事があるんだ、聞いて欲しい。


近頃は大きな戦もなく穏やかな日々が続いていて、民たちは平和な時を笑い交わして過ごしている。
かく言うワシも三成とのんびりと過ごしていた。
皐月の風が瑞々しい日、いつものように縁側に並んで腰を下ろし八つを取る。
すっかり日常となったこの習慣はワシが豊臣と同盟を組んでからだからもう何年になるか。
始めは三成と仲良くなれるだろうかとはらはらしたものだがな。なんせ『何時か』関ヶ原の戦いを起こす二人だ、何もないと思うのは楽観視しすぎだろう。
ん?何故ワシがそんな事を知っているかだって?
答えは簡単、ワシが―私が元現代人だからだ。
そして戦国スタイリッシュアクションゲームも知っていた。…来るであろう『先』の話も。
三成を殺すのも三成に殺されるのもワシは嫌で、だから赤でも青でもないルートを作って三成も家康も幸せになれるエンディングにするのが転生した私の使命だなんてそんな青臭い事を思っていた時期もあった。
ところで、だ。
『ワシ』という例がある。つまり三成は本当に『三成』か…と言う事だ。
結論を先に言ってしまうと違った、彼もまたワシと同じようにこの世界に転生してきた人間だった。まあそれはいい、別に。
ただ一つ問題があった。
三成に転生した彼…じゃない彼女は私の姉だったんだ。ジーザス、何という運命の悪戯。
別に憎しみあってたりしたわけじゃない、ごく普通に仲のいい姉妹だったよ。それはそれとして何だか恥ずかしくないか?
ワシは恥ずかしい。すっかり『家康』の真似が板についてこれが素になっているが、ようはコスプレみたいなもんだろ。それを知り合いに見られるってのは精神ダメージが大きい。
しばらく三河の城に閉じこもったくらい恥ずかしかった。
これがワシの言う困り事だと思ったか?
そこのところの気持ちの整理はだいぶ前についたからそれは現在の困り事ではない。残念だったな。
……みんな、そろそろ前置きなげーよって思ってる頃だろう。
つまりだ、ワシが今困っているってのは、
「今日も団子が美味いな!」
「…そうだな」
三成が可愛すぎる……って事だ。
あ、待ってくれ引かないでくれ。
分かってるさ、いい年した男がいい年した男に思っていい言葉じゃねえのは。
ワシだって自分で自分が気持ちわりい。
でもさ、見てみろよ。団子を頬張る三成の顔!目を細めて幸せそーな顔してるだろ!可愛いって思ったって仕方ねえじゃねえかっ!
そうだ!あれだよ…小動物を見て愛でるように…って言やあ分かってもらえると思う。そう、そんな気持ちなんだよワシは。だからけっして疚しい気持ちだとかじゃなくて…ワシは一体誰に言い訳をしているんだろうな。
「む、なんだ家康…じっとこっち見て」
「んー、いや何も。そうだ…ワシの分食べるか?」
「…!食べる!」
目を輝かせて即答する三成。
差し出した皿ごと一瞬で掠め取られて、団子は早くも彼の口内へダイブ。
ははは、誰も取り上げやしないから落ち着いて食えよ。
ほんと…可愛いやつ。


ワシは、三成が可愛すぎて困っています。

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