03.否定

嫌いだって言うんじゃないむしろその反対だ。好きだ、大好きだ。
でもそれは友に対する好きで家族に対する好き。
そのはずだ。
「…そうでなければならないんだ」


相談できる相手がワシには官兵衛しかいないだなんて不幸だ。刑部がワシに不幸の星を降らせたのかもしれない。
秀吉殿や忠勝に言っても困らせるだけだし、半兵衛殿は…絶対引っ掻き回してくれる、刑部には笑われるか睨まれるかの二択だろう…と考えれば当然の消去法。
うーん、でも…やっぱり早まったような気がしないでもない。
どう考えてもこんな相談は得手ではなさそうだ。なんたって官兵衛だし。
「権現、お前さん今失礼な事を考えただろ」
「いいや」
「嘘だね!『官兵衛は頼りにならなそうだな』とか考えてんだろうがぁっ!」
「そんな事思ってないさ、お前を頼りにしているからこそこうして相談しているんじゃないか」
「そ…そうか?そんなら…ふん!いいんだよ」
ちょろいな。
「で、だ!相談ってのはなんなんだ」
「ああそうだ官兵衛聞いてくれ。ワシは三成が可愛いと思うし、この間なんか抱き締めたくなった。どういう事だと思う?」
ワシは真剣に聞いているんだ。
なのに何で馬鹿みたいに口を開けて呆けているんだ。真面目に聞いてくれよ。
「…、いや……どういうことも何も、そりゃお前さんが三成のやつを好きだってだけの話だろ」
しばらくの間ぽかんとしていた官兵衛は、何とも形容しがたい複雑な呆れ顔をして心底呆れた風にそう言った。
ワシが、三成を…か?
「それは……」
「もちろん恋い慕ってるって意味でな」
「まさか、そんなの…ありえない」
「なら嫌いか?」
極端な男だな。恋慕を否定したらイコール嫌いだなんて。
「嫌いなわけがあるもんか。確かに三成の事は好きだ。だがそれは友に対しての、家族に対しての好きであって……」
「それ本気で言ってんのか?」
「そうだ」
「はあぁっ…」
そこで何で溜め息を吐かれるのか分からないんだが。
面倒臭そうにがりがりと頭を掻いている。
しばらく何やら考える素振りをみせて官兵衛は、
「…お前さん確か西海とは友人だったな?」
随分と突飛な質問を投げかけてきた。
思わず眉が寄ったのは仕方がないと思う。こんな顔は三成の専売なのにな。
「元親?ああ」
「やっこさんに抱きつきたいと思うかね」
「思わない」
「だろぉ?」
いや、意味が全く分からない。
ワシが分からないと思っているのが分かったのだろう(ああもうややこしい!)、
「そう言やお前さんいつだったか小生に兄のようだと言ったよな」
「ん?ああ…随分古い話を持ち出したなあ」
官兵衛はさらに続けた。
あれは確かワシが豊臣と同盟を組んだ頃だったか、もう何年になるかな。官兵衛には何かと世話を焼いてもらって、その時に言ったんだっけ。ふふ、懐かしいなあ。
「小生に抱きつきたいと思うのか?」
「……思わない、気持ち悪い事言わないでくれよ」
「な?」
な、と言われても。
官兵衛が何を言いたいのか……うん、さっぱりだ。
「小生や西海には思わないのに三成は抱きたいって思ったんだな?そんならそれは友人や家族に思うのと別の感情、そういうこった」
「官兵衛『抱きたい』じゃ意味が変わる」
「おっと、そりゃすまんかった」
悪びれなく笑う官兵衛は人を苛つかせる天才だと思う。異議は認めない。
それに官兵衛が言うのは暴論すぎやしないだろうか。
「なあ、」
「……」
「認めちまえよ」
「…………認めるも何もないよ」
「っだぁー!いい加減往生際が悪いんじゃあねえのかあぁぁ?」
「やっぱりお前に相談したのはワシの間違いだったようだ」
「おい権現、お前さん…小生に対してだけ態度が悪いよな」
「気のせいだろ」
「だったら小生の目を見てはっきり言え!」
そう言うならその前髪切れよ。なんならワシが切り落としてやろうか。


三成が好きだ、でも違うんだ。

(4/16)
*prev | Title | next#



×
- ナノ -