ジャンク | ナノ
 コンビニ本の話

※「どうかキミの未来に幸多かれ」→「それはきっと初恋なのだ」と同一ヒロインです。





「リツカちゃん、来たで」
「遅いよ克美さん。10時にはうちに着くって言ってたのに、もう11時半だよ。私、待ちくたびれちゃった」
「しゃあないやろ、こっちかて色々あるんやし。しっかしなぁ、床に服脱ぎ捨てんのやめへん?女の子としてあかんやろ」
「色々って何よ。あとそれは今片づけようと思ってたの!」
「はいはい、すんませんでした。今なぁ、うちんとこも大変やねん。リツカちゃんは知らんと思うけどな、桜臨会っちゅうとこの奴らがこっちの方針にぐだぐだ文句付けてきとんねん。うちの連中んなかでもどう対処するか意見が割れとるし…」
「ああ、桜臨会ってあれでしょ、何年か前に靖虎会から分離した新しい派閥。トップの米倉さんは強硬派で有名だとか」
「詳しいやんけ」
「私だって最近はちゃんと勉強してるだから」
「勉強?何しとるん」
「本読んだりとかかな 」
「本ってなんや」
「えーと、たしかこのへんに……あ、ほら、これとかだよ」
「あ?なんやこれ雑誌か?『激闘!関西ヤクザ血風録』…?」
「コンビニで売ってたの。なかなか詳しくしっかり書いてあってね。ぼんやりとしか知らなかったことがちゃんとわかってスッキリって感じ」
「ふーん、ほんまや。それぞれの組の歴史とかから書いとるやん」
「写真もいっぱい載っててわかりやすいし」
「ああ、どこ開いても知っとる顔しか出てきぃひんわ。卒業アルバムかっちゅうの」
「しかも、ここ見てよ、このページ。ほら」
「お?俺の写真やん」
「そう。こんなにでっかく丸々1ページ」
「はー、いつ撮ったんやろこんな写真。まったく記憶にあらへんわ」
「でもすごくかっこよくない?車から出てきてるとこみたいだけど、スーツの白と車の黒がすごくいい感じにマッチしてて、なんか昔の映画の俳優さんみたい」
「俺はいつでもかっこええやろ?」
「これは奇跡の1枚だね、うん」
「無視かい」
「しかもここ読んでみてよ」
「あー、なになに…?組長である原田克美は若いながらも統率力と状況判断力に長け、ものの数年で組を関西随一とも言える規模まで成長させた。また、麻雀の腕も確かであり、現役最強の異名を持つ……。なんやまともなこと書いとるやんけ」
「ベタ褒めだよねぇ。でも、びっくりしちゃった。克美さん、ほんとに麻雀強かったんだね」
「あ?知らんかったんか?」
「強いって言われてるのは知ってたけど、ほんとかどうかは疑ってた」
「自分で言うんもあれやけどな、俺は強いで。そこらの代打ちなんか敵にもならへんわ」
「麻雀についてはよくわからないけど、克美さんが麻雀好きなのは知ってるよ。前にじーちゃんが言ってたもん。克美はヒマさえあれば麻雀麻雀、麻雀のせいで今まで何人の女を泣かせてきたことか……って」
「なっ……、そりゃ、麻雀やっとるんはほんまやけど、女うんぬんのくだりは孝次郎さんの勝手な憶測やで。ないない、そんな事実はない」
「ふーん?ほんとに?」
「リツカちゃんにウソついてどうすんねん」
「でも今日は麻雀やってたから遅くなったんだよね?」
「!!!」
「桜臨会についての話し合いをしてたのは本当だけど、それが終わったあとはずっと麻雀やってたよね。うっかり時間も忘れて遊んじゃったんでしょ?」
「なっ……なんでそれ……」
「私、仕事は普通のOLだけど、じーちゃんの孫娘なのよ。克美さんに近い人から情報を流してもらうくらい、簡単にできるんだから。克美さんの行動なんて筒抜けなのよ」
「うげぇ……」
「今まで言わないでいたけど、結構な頻度でキャバクラとかクラブに行ってることも知ってるし」
「そっ、そんなんあれやん、接待やん。仕事や仕事。行きとうて行っとるんやないわ」
「ほんとに?」
「ああ……」
「でも、北新地に行きつけのクラブがあるんだってね。そこは接待じゃなくてもよく行くよね」
「ぐぅっ!」
「しかも克美さん、ホステスさんたちからすごくモテるんでしょ?組長さんはいいなぁ、美人のお姉さんからいっぱいチヤホヤしてもらえて」
「あ、あいつらは金目当てなだけやって…」
「ふーん?」
「男にも事情があるねん…、見栄張らなあかん時もあるし、そのへんもわかってぇや」
「まぁ、クラブのことはいいとしても、私の家に来る約束してたのに、遊んで忘れてたのはどうなの?」
「…そりゃあ…その……」
「まだ何か言い訳する?」
「…う…うぅ……」
「…………」
「…………」
「あーあ、この写真の克美さんはこんなにかっこいいのになぁ。キリッと誠実そうな顔してるなぁ」
「…………」
「麻雀で女を泣かせたことはないらしいけど、これから私が泣かされる女第一号になっちゃうのかなぁ」
「…………」
「…………」
「リツカちゃん……」
「なに?」
「……す……すんませんでした……」
「…………」
「…………」
「天下の組長なのに、そんな顔しないでよ」
「…………」
「別にいいよ。最近忙しかったもんね。久々の息抜きだから熱中しちゃったんでしょ」
「!!」
「麻雀するなとは言わないけど、これからはウソつくの禁止ね。約束だよ」
「あ、ああ、もちろんや」
「じゃあ、お茶でもいれるね。あ、お酒のほうがいい?」
「いや、なんでもええよ」
「だったら紅茶にしよっと。ちょっと待っててね」
「ああ…」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「リツカちゃんと付き合い始めて…あーっと…、3ヶ月くらいか…?」
「…………」
「なんや俺…もう尻に敷かれとるような気がするんやけど……」





back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -