短編 | ナノ

時にはお前がしねば良かったのに…等と、暴言まではいたらしい。

病弱で甘え上手な胡蝶の方が、両親やみんなに好かれていたから。


その言葉に先輩は深く傷つかせたもので、時折『俺が死ねば良かった』と言っては俺を困らせた。

先輩はクールだけど、傷つかない訳じゃない。
強がりだから泣かないだけで…
本当は誰かに縋りたいのかも知れない。


学校でも、先輩の噂はすぐに広まった。
それもありえない中傷めいた噂ばかり。

ただえさえ、あまり笑わない先輩は、胡蝶が死んでから笑わなくなってしまった。
泣きそうな顔ばかり見せるようになった。

いつもぼーとして、窓を見ていた。


先輩の心から笑う姿をここ最近は見ていない。
梅雨の、太陽のように。

俺は、先輩の笑顔が好きなのに。
俺は、胡蝶じゃなく先輩が好きなのに。

どうして、こうなった?
どこでボタンを掛け間違えた?


誰が、これを望んだ?
こんな…未来を……。


先輩の笑顔を、誰が奪った?

「…、早くやまないかな…」

雨がやめば…先輩は笑ってくれるのかな。あんな苦しげな顔、しなくてすむのかな…。
先輩も。




「…先輩、」

昔貰った先輩の第二ボタンをポッケから取り出して


そっと唇をあてる。


『第二ボタン下さい』
『はぁ?』
『俺、貴方の事が好きなんです』


あの時から、俺は…先輩が好きで…愛している。

甘え上手で可愛い素直な、俺を慕っていた胡蝶よりも。

はかなくて綺麗で…でも虚勢張って強がっている先輩が何よりも愛しかった。

俺は、先輩だけが好きだった。






  
ざあざあざあざあ。
雨の日は続く。

太陽は見えない。

ざあざあざあざあ。

先輩の笑顔も今は見えない。

早く雨なんて、止めばいい。



そしたらきっと、先輩も笑ってくれる気がするから。


明日、天気になりますように。


美術室の隅に吊してある、てるてる坊主に小さく祈った。
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