短編 | ナノ


 最初はただ俺の舌になすがままだった先輩も、次第に自分のソレを絡ませ、より深く口づけをねだる。


 欲を煽るような、
 キス。

 お互いを
 侵食するような
 甘い口づけ


口を離すと、どちらともわからない唾液が零れ落ちた。


「キス、好きだな…」
「…先輩だから、です」
「そう…」
「…ホント、ですよ」
「ふふふ…そうか…?」

まるで、リップサービスの返事でもするかのように、先輩は俺のネクタイを引っぱり顔を近付けてちゅ…、と軽くキスをする。

俺は一回ぎゅ、っと胸の中に先輩を抱きしめて…、額にキスをした。


「先輩、そのままだと風邪ひきますよ…」

美術室で盛り、先輩の服を脱がしたのは俺なのに、いけしゃあしゃあと、先輩の素肌を見て言う。


「ボタンをさ…、上手くつけられなくて」
「ボタンを…?先輩、名前が牡丹なのに不器用なんですね…」
「うるさい」

先輩はからかわれたのが、気分を害したのかプイっと俺から視線を外す。

先輩の名前は白川牡丹。
その名の通り、牡丹のように美しく繊細な容姿の人だった。



「先輩、俺がボタンつけてあげます」
「悪いな…」
「いえ…」

こんな場所で、場所も弁えず盛ったのは俺ですしね…。
半ば、言い訳を封じて、一つ一つ先輩のワイシャツのボタンをしめていく。

薄暗い美術室。
先程先輩を生まれたままの姿にしたのに、今度は着せ替え人形にしている。

「先輩、」

ざあざあざぁ。
激しい雨音。

「愛しています」

ざあざあざあ。

「貴方を」
「知っているよ」

先輩はクスリと音をたてて笑った。

華のように綺麗な、笑みだった。


「ボタンってさ…」
「はい?」
「…つけるの、嫌いなんだ……。
一つ間違えると、他もすべて間違えて嵌めるから」
「案外、面倒臭がりやなんですね、」

その繊細そうな容姿からは想像出来ない程、先輩は面倒臭がり屋だ。
雑用を俺に押し付ける事なんて日常茶飯事だ。

「うん、そー、面倒臭がり屋なの…だから……」
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