短編 | ナノ

雨が降る。うっとうしいほどの、雨が。

ザアアア、と止まらない雨が耳障りに、窓を叩く。切り離したように雨音の他に音はない。


厚い厚い雲のせいで太陽は隠れ、昼間なのに薄暗い。

ここのところ雨ばかりだ。

昨日も、今日も、明日も雨らしい。一週間この雨は泣いたままらしい。

天気予報では、梅雨入りを昨日発表したばかりだ。


今日も校舎の隅にある、美術室は暗い。
電気なんてつけていないから、尚更だ。
絵の具の溶いた、独特の匂いと雨と土の匂いが鼻につく。

キャンパスは白いまま


「……どうしたんですか」
「ん?」

俺の声に振り返る、先輩。

サラリ…、と髪が揺れた。
色素の薄い、真っ直ぐの癖のない髪が。
先輩に合わせて。


「ぼーと、しています…」
「そう…?」

―ぽつぽつぽつ、
雨の音をBGMにして。

「気のせいだよ」

先輩は、どこかつかめない笑みで笑った。

ふ、と、柔らかな、でもどこか悲しみを帯びたような複雑な笑みで。
窓の窓枠に、身体を凭れさせながら

軽く身体にかけられただけのワイシャツ。
開かれたそこからは、胸や鎖骨や腹が覗く。

白い絹のような、男にしては柔らかな肌に刻まれたいくつかの紅。
まるで、華。
先輩自身だ。


「雨…」
「はい…」
「やまないな…」
「はい…」
「いつ…止むのかな」

先輩は、言いながらきだるけに笑う。



―どこを、見ているんですか?いつも…
貴方は、いつも遠くを見ている。


どこか遠く…。
それは何なのか、わからないけれど。

ーいつも俺が描く先輩は同じ表情ばかりだ。

まだデッサン途中だったが、スケッチを片付ける。


「も…いいの…?」

先輩は小首を傾げて俺に問う。
大丈夫です…、というと先輩は「そう…」っと、またきのない返事をして、視線を窓の外へやった。

「先輩」
「ん?んぅ…」

ぼんやりとしていた先輩の唇を塞ぐ。

先輩の頭に手を回して、
深く、深く。

逃げられないように。
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