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「貴公は、名をなんというんだ?」
「何故、名前など…、」
「知りたいから、じゃ、駄目か…?」
「理由になっていない」
魔法使いは、人には易々と名前を教えない。
アリー様でさえ、知っていたのは、ボクの仮名だ。
憎んでいる王に、何故ボクが名前など教えなければいけないのだ。
こんな、初対面で。
「理由…か…。そうだな…」
王は、ふむ…とひとしきり考えた後、
「貴公が気になるからだな…」
と、つぶやく。
「はぁ…?」
「いや、純粋に貴公の存在が気になる、と思っただけだ。何か悩んでいるのか、と思ってな」
「何故、」
「俺を、憎いといっていただろう?貴公…、お前の瞳も、俺を憎んでいるようだった。いや…悲しんでいるようだった、というべきか…、」
悲しんでいる、ね…。
「…、俺は、何かお前にしたのだろうか…」
ボクを見据え、困惑気味に尋ねる王。
「何故、そう思うのです?」
「お前が、昨日恨んでいるといったのだろう」
「ボクが恨んでいたとして、貴方になんの関係が?」
「俺は、何故恨まれているか知りたい。俺は王だ。そりゃ、恨まれることを沢山してきたかもしれない。でも、お前みたいな瞳で見られたのは初めてなんでな。気になって、今日もきてみたのだ。お前に会いに」
「暇人ですね…、ただ恨まれている人間に気になるから、といって会うなど…、」
「ああ、暇人、だな…」
王は、そう零すと、ボクの隣に立ち、
「散歩でもしないか?」
という。
「いやです」
「何故、」
「ボクは貴方が嫌いだから」
「俺はお前が気になる。だからそれは却下、だ」
「ボクの方こそ、却下、です。ボクは貴方を殺したいほど、嫌っているのだから」
そう、こうやって馴れ合いなど、本当はあってはならないことだ。
ボクはこの王を、殺したいほど憎んでいるのだから。
「貴方の顔を見るだけで、虫唾が走ります」
「嫌ってる、ねぇ…。ほんとか」
「ほんと、です」
「可愛くないやつ…、」
「ボクに可愛さを求めてどうするのです?」
馬鹿らしい。
隣に歩く王を無視し、海辺を歩く。
王は、そんなボクに苦笑し、後を追った。