短編 | ナノ

二度目の対面

この暗い、感情は。
いつか消えるのだろうか…。

この罪悪感にも似た感情は…。



『兄様は…、もしも恋をされたことがありますか…?』

いつの日か、控えめな笑顔で、そう尋ねたアリー様。
ボクの気持ちも知らず、無垢な笑顔。

小首を傾げながら、問われたその表情に、どきりと一際大きく心臓が高鳴った覚えがある。

『兄様…?』
『ボク…が…、ボクが好きなのは…』

アリー様。アリー様が好きです。
だけど、意気地がなかったボクは、結局何も言えずに口を噤む。


いいたい、けど、もし、この気持ちを受け入れてくれなかったら…?
受け入れられないだけじゃない、もし、気持ち悪いと言われたら…。

ありもしない想像に怯え、ボクは何も言えなかった。
卑怯な、魔法使い。

『兄様、もしも、もしも。もしも身分も何もかも合わない方と恋をしたら。あいまみえない方と恋に落ちてしまったら、貴方なら、どうなされますか…、』

―兄様は…、その愛を、信じられますか。


ガン、と頭に何かが当たる衝撃とともに目を覚ます。
昨日は、あのまま海には帰らずに海辺で眠っていた。
丁度、適度な大きさの岩が枕代わりになるとおもい、そのままそれに身を預けて寝ていたのだが…
随分と寝こけていたらしい。
ずるっと体制を崩した拍子に頭をぶつけてしまった。

ボクが起きたのを知るや、隣で丸くなっていたワルツゥがぱちりと目を開けて、欠伸をする。むにゃむや、と猫口をもごもごと動かしている様を見ると、まだまだ眠たいらしい。

まだ眠ってもいい、とワルツゥに告げて、ボクは立ち上がり一人海辺を歩く。
地上に落りて、まだ一日もたっていないが、大分昨日よりかはふらつきがなくなってきた。

このままいけば、明日にでも憎むべき王がいる王宮へ乗り込めるだろう。
その時、呪いでもなんでもかけてしまえばいい。
いっそのこと、もう子孫など出来なくしてしまうか。
種無しの王と罵られて、将来愛した王妃にでも笑われ、国民から失望でもされればいい。


「よし、」
「なにが、良しなんだ?」
「っ…?」

ひやりとした。
声がし、振り返る。
そこには、また王の姿。

「な…、」
「よぉ、」

昨日、確かに気分を害していた筈の王は、今日はニコニコと笑っている。
本物か…。また護衛もつけずに、一人らしい。
この王は馬鹿なのだろうか…。
奇襲でもあったら、どうするつもりなのだろう。
王の服装も、本当に簡単な薄着であり、普通の民衆と変わらない格好だ。
腰には、長い剣を1本差しているだけ。

「な、何故…、」
「あ?散歩だって…、」
「こ、こんな時間からですか…?」

まだ日が昇って数時間しかたっていない。
こんな朝っぱらから散歩など…。
余程暇なのか。

「ああ。いつもは夜だけなんだがな…、」
「いまは、朝ですが…。王族ともあろう方がよほど、暇なのですね…、」
「お前、結構いうな…」

王はボクの言葉に気分を害することなく、笑う。
クスリ、と、柔らかな笑みを浮かべて
なんだかそれが、無性にイラついて、ふいっと顔を背ける。

昨日は確かに不機嫌な顔をしていたのに…。
よく声をかける気になったものだ。
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