短編 | ナノ


「…殺してやる…」

ひっそりと呟いて、ロープをはためかせ、海から上がる。
満点の星空。
水面に映る月。
久しぶりの地上は、眩しく、それでいて、少し苦しかった。

こほこほ、と数度咳をして、地上に足を踏みしめる。
2本足で歩くのも久しくなかったので、よたた、と体制が崩れる。

ずっと海にいたボクの身体はもう海に適した身体になっていたのだろう。
少し息をしただけで、かなり息苦しい。


「地上は、嫌いだ…」

呟いて、顔をあげる。
まずは…王宮の場所と、この国について、情報を得なくては。

海にずっといたボクはまだ何もしらない。

濡れる髪を掻き揚げて、印をかき、魔法で使い魔を出す。
使い魔は久しぶりの召喚に、くぁ、っと欠伸をし、伸びをする。

「久しいな、ワルツゥ」
「あ、ご主人、お久しぶりっす」

使い魔のワルツゥは、黒猫の姿をしていて、ボクの優秀なしもべだ。
ボクが魔法使いになった時から、ずっと一緒にいる。
ボクがワルツゥにこの国の情報を探れ、と命令をすると、一目散にかけていった。


 王宮が大体どこにあるかは、検討がついている。
アリー様を水晶玉で見ていた時、一緒に見ていたから。憎き王の顔も知っている。

ただ、今はやみくもに動き回れるほど元気もないし、この国がどんな国かもよくわからない。下手に己が動いて、動けなくなるよりかは、ワルツゥに色々調べて貰い、国の事を知ることが大事だろう。


「…疲れたな…、」
少し歩いただけで、もう苦しく歩くのも辛い。
岩場によりかかり、目を瞑る。
ワルツゥが偵察し帰ってくるのには、まだ少し時間がかかるだろう。
身体の力を抜き、僕は岩場に凭れ掛かるように息をついた。


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