短編 | ナノ


寄せては返す波。

ザザン。ザザン。

波に揺れるは、水音。

ザザン、ザザン。
昔々、人魚は歌う。

海は暗いわ、海はくらいの。だけど安心。誰もいないわ。
暗闇なら寂しくないの。
暗闇なら、誰もいないわ。傷つくこともない。

にんぎょは歌う。古い歌。

だけど、求めてしまう、光を。
目を潰してしまおうと、求めて、求めて、求め彷徨ってしまう。

光である貴方を求めてしまうの。

セレナーデ。

アナタニこの歌が届きますように。
泡となっても、貴方にこの想いが届きますように。
どうか、届いて、私の思い。
どうか…あなたの元へ。


「…っ、」

耳に入ってきた、懐かしい調べ。
低い、歌声にはっと目を開く。
ボクの傍らには、一人の男。
男は、僕の隣に腰かけて、海を見つめている。

「あ…、」

風に揺れる金色の髪。どこか、遠くを見つめる寒々しい瞳。
王。
王が…いた。

何故…。こんなところに王一人で。おつきもつげずに…。
憎しみよりも、まず驚きで、反応が遅れる。

「気づいたか…?」

王は、ボクを一瞥せずに海を見ながら、言う。
ボクのことなど、興味などなさそうに…。

「あ…貴方は…カサル・マグアイア…王。な、何故、ここに…?」

こんな、海辺に。しかもボクの隣に腰かけていた…?
王は酷くつまらなそうに、ボクに顔を向ける。
気ダル気そうな、顔。でも、様になっている。ボクがやっても、こうはならないだろう。


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