短編 | ナノ

「リリルク様のおなり〜」

案の定、何人もの従者に丁重に持て成されたリリルク。
これはいよいよ戦争の話だろう、と踏んだ時、恰幅のよい王が姿を現した。

リリルクは一応、この国の王の威厳の為に頭を下げる。
王はそんなリリルクに「よくぞきてくれた…」と満足そうに笑った。


「リリルク、立ち話もなんだ、わしの部屋に来ないか?食事でもしながら…」
「お言葉ですが、王様。私にもこれから所要がございます故」
リリルクは丁重に、王の誘いを断る。
この頭のいい王の事だ。長居をしていたら、それだけ何かを頼まれる。

食事…といって、食べ物に何か入れる場合もあるかもしれない。


現に、王はリリルクに一人魔法遣いの監視をつけている。リリルクが他の国へと寝返らないようにだ。
リリルクとしては不快極まりないが…
クリスの事もあるのでそのままにしている。
山奥で暮らすリリルクだが、一応山は国の領地だ。
何かあればクリスも引っ越さなくてはならない。
クリスは今の住んでいる場所が大変気に入っている。いきなり引っ越しなど、酷だろう。


「うむ…そうか…、まぁいいだろう」
「それで王様、話を聞きたい。言っておくが私は、戦争に力を貸す義理はないし人殺しに興味はない。頼むなら他をあたるといいだろう」
「相変わらずだな…リリルク。昔のお前は国を滅ぼし続けながら場所を転々としていたと聞いたが…」
「昔の事だ」

リリルクはそう吐き捨て、眼鏡をあげる。

少し…いらついているかもしれない。
昔の事を持ち出してきた王に。

王も冷たい空気を醸し出したリリルクを察し、すぐさま用件を言う。


「わかった、お前がそう言うなら。
お前は万が一があった場合、この国の護りを頼みたいのだ。戦いはせんでいい」
「護り…?」
「そうだ…、我が国と今は同盟関係を持つ近国が最近きな臭い話をしていてな…、どうも闇の魔道師・ファンベルを招き入れたらしい」
「ファンベルとは…また…」

リリルクは、ファンベルの名に眉間にシワを寄せる。
闇の魔道師、ファンベル・ストロガナフは、闇の力と契約し、それは凄い魔力を保持している。

といっても、天才リリルクの前では赤子も同然だが。

このファンベルという男は自分の力の為ならなんでもやってのけるときく。なので魔術師の間では禁術とも言える闇魔法に手を出しているのだ。


「わかりました、もしもファンベルが出てくれば私も力を貸しましょう」
「ありがたい。」
「しかし、私は国取りも国民の幸せも興味がない。
もし、私の力を不当に使おうと思うものなら…」

ちらり…と冷たい目線を王に向けるリリルク。

王はコクリと息を呑み…

「…承知している」

ぎこちなくうなづいた。
この王とて、馬鹿ではない。これでも国の民からは慕われ、リリルクの力も充分承知だ。


「話はそれだけですか?」
「あぁ…。そうだ、リリルク、久しぶりの街だろう。存分に見学したらいい。我が国は美人揃いだ。どうだ…お前も、恋人の一つや二つ…」
「あいにく興味ありませんね…」

王の奨めをきっぱりと断る。

何てったって、リリルクには、可愛い弟子がいる。

そんのそこらの人間が太刀打ち出来ないような可愛い弟子が。


リリルクは軽く王に挨拶すると、まだ時間は早いがクリスとの待ち合わせ場所に急いだ。

あのドジな弟子の事だ。
リリルクが時間より早く着いていないと、探し周り自分が迷子になる可能性もある。
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