5 この地は私が守ります
 気が付けば、クロキは一面真っ白な空間に一人佇んでいた。そして何故だか衣服は一つも身に付けていなかった。
 裸体を晒している事に驚いていると、急に目の前に映像が流れ出す。
 白い空間に映る映像が小学生の時に授業で良く見たプロジェクターに似ていて、クロキはわくわくしながらそれを覗き込む。

「てな訳で糞カラス。お前の力、俺に寄越せ」
『何故我が貴様何ぞに……っ!』
「良いから黙って力貸せよ。お前等も単品でいるより……」

 しかし目に入って来たのは先程までの自分とじっちゃんであったモノのやり取りだった。
 第三者の視点から見た自分は只の厚かましい厄介者。そして自分で聞いているよりぶっきらぼうな声で、クロキは少し落ち込んだ。
 面白くも何ともない映像に、がっかりすると共に何だか腹が立ってきたクロキは「何だここは」と不満を漏らそうとした。
 しかしそれよりも早く、重量が無くなったような浮遊感が体全体を包んで行く。そしてそれと同時に聴覚、視覚、触覚……全てが消えて行くような不可解な感覚に襲われる。
 体も感覚も奪われ、思考だけとなったクロキはまるで自分という存在が消えるような、奇妙な感覚に襲われる。

 ──此処はクロキ君の精神世界だよ。
 ぼんやりと浮かんでいると、懐かしい少女の声がクロキの中に響いて来た。
 直ぐに返答をしようとするのだが、いかんせん口というモノを失ったクロキはどうする事も出来ない。
 此処に来て初めて、クロキはこの環境に苛立った。ボケ、ボケと悪態を吐いてみるも、それが声になる事はなかった。

 ──待っててクロキ君。今、元に戻してあげるから。
 少女の声が心地好くクロキに染み渡る。その僅か数秒後、気付いた時にはクロキは体を取り戻していた。ちなみに、服は着ていた。
 自身の手をまじまじと見つめ、そして服を着ている事を確認したクロキは安堵のため息を吐いた。そして顔を上げた先に、何時までも変わらぬ少女がいた為に自然と笑みが浮かぶ。
「ありがとうな」
「どういたしまして」
 生前と何も変わっていない少女は柔らかく微笑みながら、
「クロキ君、花を咲かせたんだね」
「花? ああ、あのボケカラスか。うん、咲かせたのかは知らないけど、まあ咲人ってのになれたみたいだな」
「クロキ君、これからパートナーなになるんだから、そんな事言っちゃ駄目だよ」
 たしなめられたクロキは素直に「ごめん」と謝罪する。端から見れば11歳の少女に21歳の男がたしなめられている姿は中々滑稽である。
 しかし、一生変わらぬ同年代と考えている二人にはそんな事お構い無いのである。
「え、俺あいつとずっと一緒な訳? うわ、一回きりだと思ってた」
 一回だけ協力すると思い込んでいたクロキはあからさまに嫌な顔をする。幾ら昔からの仲だと言っても、愛犬を傷つけた輩だ。一生を共にするなんて想像するだけでゾッとする。
 そんな彼に少女はまた無垢な笑みを浮かべ、「一生じゃないかもしれないよ?」と意味深な言葉を口にした。
 耳ざとくそれに反応したクロキが食い付くも、少女は笑うだけで答えてはくれない。恐らく、自分で探せという事なのだろう。学級委員を勤めた少女は案外厳しい所があるのだ。
 面倒くさいなぁと愚痴るクロキを見て笑う少女であったが、ふとその表情が曇る。
「ごめんねクロキ君。もう少しお話ししたかったんだけど……」
 悲しそうな表情で少女がポツリと呟いた。
 初めて見る表情に焦りが生じるクロキ。だがそんな彼の焦りを無視して、真っ白であった周囲の景色は段々とどす黒く、そしてまだ映像を映していたプロジェクターの音声はノイズ混じりになってきた。
 物が腐るような不気味な光景に、クロキは僅かに後ずさる。
 するとクロキが先程まで立っていた場所に真っ黒な腕が無数に這い出て来た。それ等はまるで何かを探るかのようにうねうねと蠢いていた。
『小僧ォ……』
 やがて既に真っ黒に染まった方から、あの不気味な声がした。それと共に蠢いていた腕は一ヶ所に集まり、一つの巨大なカラスの形となった。
 オカルトな光景に冷や汗を垂らすクロキの耳元で、また少女の声がした。いつの間にか、少女の姿はこの空間から消えていた。
「クロキ君、クロキ君が契約した花はとても怖くて……でも孤独な花なの。恐れないで、真っ直ぐ受け止めてあげて」
「え、これ受け止めんの? ゴールデングラブ賞でも無い限り無理だろ」
 無茶な難題に思わず冗談を口にしてしまう。すると少女は「野球知らないから分からないよ」と笑みを交えて返す。野球だと分かっている時点で知っているだろと思ったが、クロキは敢えてそれを言わなかった。
『其処かァ、小僧ォ』
 うねうねと至るところが蠢く体を動かし、カラスの化物がクロキを捉える。妖怪を思わせるような不気味な様相と、赤く輝く片目が凄まじく不気味であった。
 もーやだ。そんな弱音が漏れないと言えば嘘になるが、クロキは憮然とした態度でソレを見上げて立っていた。
 何故ならば、少女が小さく言った言葉が彼の背を押していたからだ。

 クロキ君なら、大丈夫だよ。
「気持ち悪ィ体だな。さっさと来いよ」
 指で挑発すると、カラスのようなモノは不快感露に唸り声を上げた。けれどクロキは涼しい顔で立っている。
 脅しても無駄だと分かったのか、カラスは巨大な羽を羽ばたかせ、真っ直ぐにクロキへと飛んで行く。

 ありがとう、咲人になってくれて。

 不安が無いと言えば嘘になる。けれど少女が口にした感謝の言葉の方が、クロキには大きかった。
 口元に僅かに笑みを浮かべると、クロキは目にぐっと力を入れた。そしておもむろに左腕を引くと、飛んでくるカラスの嘴目掛けて殴りかかる。
 激しい力のぶつかり合い。それに伴い遠退く意識の中、クロキはかすかに少女の声を聞いた。
「……分かった」
 その言葉を最後に、クロキの意識は途切れた。

 ・

 カラスだったモノがクロキに飛びかかってから、一生とも取れる時が流れたかのように思えた。
 やがてクロキの体がピクリと動く。本来ならば喜ぶべきだろうが、シロサは逆にタビを深く抱き抱えて身を固くする。
 クロキと契約を交わした花は、古来その凶暴な性格と能力により、シロサの先祖を始め他の花と咲人により封印された忌まわしき花。この世に激しい恨みを抱いた花ならば、咲人であるクロキの体を乗っ取っているという事も予測されるからだ。
 やがてクロキである体は自身の左手を眺める。その身体からは禍々しい気が立ち上っていた。
 嫌な予感がした。
 けれど、そんな予感を遮るように頭上からブゥゥンという爆音が迫ってきた。直ぐ様頭上を見ると、成虫がシロサ目掛けて降下していた。
 ――駄目、間に合わない!
 クロキに集中するあまり、周囲への警戒を疎かにしていたシロサは当然の事に対処出来なかった。
 だが、自分は逃げられなくてもタビは助かるかもしれない。そう思った彼女はタビを投げ出そうとした。
 が、

 次の瞬間、シロサが目にしたのは無数の触手のような物に捕らえられ、身悶えする虫の姿であった。
 もがく虫だが、次第にその動きは弱くなり、やがて触角を僅かに動かすだけとなっていく。
「ふーん、こんな感じか」
 どうって事無いような呟きに我に返り、慌てて視線を向ける。するとそこには左腕から触手のような気を伸ばす何時もと同じクロキがいた。
「クロキさん……っ」
「悪い、迷惑かけたな」
 無事だった。思わず彼の名を呼んでしまうシロサ。そんな彼女に少し笑いかけ、クロキは気を弱て虫を地面に下ろした。
 そして最早痙攣しか出来ない虫に近付くと、左手をカブトムシのような角に当てる。
 すると虫は一際大きく揺れ動いた。しかしやがてはピクリとも動かなくなり、大きな目は光を失って暗褐色となっている。
「え、何で泣いてんの……?」
 やれやれと振り返ったクロキはシロサを見て狼狽する。シロサの目から溢れる涙。それに驚かずにはいられなかったのだ。
 ーー嗚呼、この人は他者の命を吸う運命なのだな。生き延びる為には自身が望まなくとも、幾百幾千の命を奪わなければならないのだ。
「すみません、すみません」
 彼のこれからの過酷な人生を思うと、シロサの目から知らず内に涙が零れた。
 それを止めようとするも止まらず。そしてそんな運命を気にせず、自分を心遣うクロキを前にすると更に涙が溢れた。止まらぬ涙に、シロサはただ謝る事しか出来なかった。
 狼狽するクロキだが、また接近して来る虫の羽音に気付くと落ち着きを取り戻した。
「タビ、待たせて悪かったな」
 そしてシロサの腕に抱かれたタビを右手でそっと撫で、すっかり弱りきったタビに語り掛ける。
 タビは最早瞼を開ける事すら困難なようで、クロキの声に微かに答える事しか出来なかった。タビが長く持たない事は、誰の目にも明らかであった。
「ごめんな、タビ。こんな目に合わせて、苦しませて、ごめんな」
 何度も何度も優しくタビの毛を撫でて、クロキは旅立とうとしている愛犬に謝罪を繰り返す。
 クロキの声は凛としており、タビを見つめる表情は相変わらず平然としている。
「ごめんな」
 クロキが何度かの謝罪を口にした時、タビは閉じていた目を開いて、そして彼の頬を舐めた。途端、クロキの目が大きく見開かれた。
「……ありがとう、タビ」
 俯いたクロキがタビへ感謝の言葉を紡ぐ。タビがそれに答えるように小さく鳴く。
 そしてクロキは左手でタビの頭をそっと撫でた。眠るように目を閉じ、タビは呼吸を止めた。

「心優しき死神に幸あらん事を」
 冷たくなったタビは抱えたシロサは、虫を始末するクロキの背を見て、そう祈らずにはいられなかった。

 ‘

「……と言う訳で、咲人ってやつになった」
 大量の甲虫が転がる家の庭で、クロキは簡単に今までの経緯を説明する。
 彼の前には両親と祖父母が難しい表情で縁側に座っている。ちなみに、クロキの幼い兄弟達はまだ朝方ゆえにまだ地下の部屋で眠っている。
「そうか」
 人一倍難しい表情で腕組をしていた祖父が、目を瞑ったまま小さく呟く。よく見てみれば、祖父とコウジの体は包帯が巻かれている。
 あれから山の虫をあらかた片付けたクロキは直ぐ様家に向かい、まだ集まっていた甲虫達を一気に片付けた。その時、虫達はまだ家を襲うには至っていなかったが、庭に出ていたコウジと祖父は甲虫に襲われて危ない所であった。
「よし。クロキ、お前家から出て行け」
「は!?」
 突拍子もない祖父の発言にクロキは思わずすっとんきょうな声を上げる。無理もない。本来ならば命の危機を救ったクロキに感謝こそ有れど、無下に扱うことはない。けれど、祖父ははっきりと出ていけと言った。どうも辻褄が合わない。
 何でだよ! と突っ掛かるクロキの横ではシロサが何やら複雑な表情で佇んでいる。しかしクロキはそれに全く気付かない。
「そう怒るな。わしとてお前を無意味に追い出そうとしている訳ではない。クロキ、我が一族がカラスの兼属であることは知っているな?」
「昔から聞いてるし。全国各地にいる獣の兼属の家筋の一つだろ? 今それ関係あんの?」
「大有りだ。獣の家筋はそれぞれに見合った花と深く結び付いている。カラスを主とする我がブシガワ家は元より決まった花と引き合う決まりだ。お前と、その死のようにな」
「は? じゃあ俺は最初っからあの馬鹿カラスと契約する予定だったって事?」
 布でグルグル巻きになっている左手を見ながら、クロキは心底嫌そうに呟いた。
 命を奪う力。
 あまりにおぞましい力が最初から自分に宿る予定だっただなんて、想像するだけで身の毛がよだつ。
「馬鹿者、対象はお前ではなくてブシガワ家全員だ。思い上がるな」
『全くよ』
 祖父がクロキをたしなめると、不意に頭上からしわがれた声がした。一同が顔を上げると、いつの間にか一羽のカラスが雨樋に止まって彼等を見下ろしていた。
 訝しげに見つめる一同を鼻で笑うと、カラスは小さな体に似合わぬ高圧感たっぷりとした調子で、
『我が小僧を選んだのはたまたま小僧がその場に来たからだ。我は小僧では無くそこの老いぼれでも構わんだ。先が短いだろうし、乗っ取り易そうだからの』
「ふん、どうなっと言え。そのような悪口等、この先ずっとクロキと共にいる事と比べれば可愛いものだ」
「俺どんだけ嫌われてんのよ……」
 クロキがポツリと呟くも祖父とカラスは相変わらず言い合いを続けており、彼の小さな呟きに気付かない。
 しかし、どれだけけなされようともクロキは祖父の愛情はいつも感じていたので特に気にはならなかった。祖父は誉めたりするより、怒って育てるような性格だからだ。
 よってそれを知っているブシガワ家は気にすること無くカラスと祖父の言い合いを眺めている。しかし、そんな事情を知らないシロサは一人オロオロとしていた。
「まあ、不名誉な我が家の花の話は置いておいて、だ。我がブシガワ家は太古の昔に兼属と共にある家に忠誠を誓っている。其処におわせられる、シロサ殿の鹿角家にな」
 カヅノ。聞き慣れない言葉に、そして予想だにしない展開にクロキは目を丸くする。
 何何どういうこと? 全く整理できない頭のまま、隣のシロサを見れば、彼女は気まずそうに身じろぐ。「鹿角シロサって言うの?」改めて名前を確認すると、シロサは気まずい表情のまま首を縦に振った。
「つまりなんだ。俺はあんたと神の獣? を探す為に色んな所に行かなきゃならんと。あほカラスと俺とあんたとで、花探しに出掛けるんだな。わー水戸黄門みたい」
 夜にシロサとコウジが話していた事を思い出しながら、クロキは彼なりに簡潔に纏めた推測を口にする。その推測は余りに現実離れしているのだが、シロサとコウジはその通りと言わんばかりに首を縦に振る。
 マジかよ。クロキは素直に自分の立場に引いた。
 しかしそこでそうですか。と素直に認める程、クロキの性格は単純ではない。
 やれと言われれば言われる程、強要されたらされる程反発したくなるのが彼の性格なのだ。
「ヤダ」
 余りにストレートすぎる言葉に、一同は目を丸くする。もっとも、カラスだけは楽しげに笑っていたが。
「面倒くさいし、俺がいないと虫退治どうすんのさ? またいつあのでっかい虫が来るか分かんないだろ? 正直、俺はこの世がどうなろうが興味ないね。そんなのより家族の方が大事だ」
『我も小僧の意見に同意する。神の使いに手立てする借りなど一切無いのでな』
 クロキの肩に舞い降りたカラスは白く濁った方の目で彼を見つめる。クロキは鬱陶しそうに追い払おうとするのだが、当のカラスは彼の手が当たる寸前で体を靄に変形させる。結果、クロキの手は幾らカラスを追い払おうとしてもすり抜けるだけであった。
 何度やっても変わらぬ結果に、クロキは心底うんざりとした調子で舌打ちをして手を止める。するとカラスは満足したように一声鳴いた。

 ーーどうしよう。
 一方でシロサは服の裾をキュッと握って俯いていた。
 カヅノの定めとしては、自分の課せられた役割を考えれば、クロキが旅に同行してくれるのが一番良い。けれど、クロキ本人が嫌と言うのならば、彼を無理矢理連れ出す等彼女の心に反する。

「おはよーっ! あれ、何この雰囲気?」
 微妙な空気に染まりつつある中で、ミキを背負ったモロミが空気を読まずに飛び込んで来た。
 勿論一同の視線はモロミに注がれ、クロキと同じ無神経を引き継いだ少年は困惑の表情を浮かべる。
「モロミ、あんたいきなり何しているの。ミキまで連れてきて」
「母ちゃん怒んないでよ。俺だってまだ寝たいよ。でもミキが母ちゃん達の所に連れてけって言うんだもん! ほら、ミキ。連れて来てやったんだから、早く用事済ませって!」
 母に怒られ、少々膨れっ面になったモロミは文句を言いながらミキを下ろした。ミキはモロミに礼を言うと、軽やかな足取りで縁側まで歩いて行く。
「クロキお兄ちゃん、行っても大丈夫だよ」
 開口一番の言葉に、クロキは少々面食らった。ミキは先程まで地下でいた筈だ。あの話を知っている訳がない。
 前々から不思議な子だとは思っていたけど、この子まさかエスパー? そんな事を考えるクロキを他所に、ミキは縁側から庭へと飛び降りて、向かいの山に鎮座している岩を指差す。甲虫の群に突進されていた岩は当初の位置から随分ズレたものの、何とか落ちる寸前の所で状態を保っていた。
 随分不安定だなと何気無しにぼやくと、既に聞き終えた筈のブブブという不快な羽音が耳に届く。逃げた甲虫がまた襲って来たのだ。
「おい、あほカラス! 何とかしろよ!」
『先程言うたであろう。我と主はまだ仮契約しか交わしておらん。仮契約の場合では能力を連続して使えぬとな』
「はぁ!? この役立たず!」
『数千年と生きた我に良くもまぁそのような下卑いた口振りを。大体我をあほカラス等と……』
「クロキお兄ちゃん、大丈夫だよ。ミキ、上手に出来るから」
 突然の強襲にクロキとカラスがやいのやいのと騒いでいると、満面の笑みを浮かべたミキが一歩前に出る。が、肝心のクロキは言い合いに必死でミキの言葉に反応出来なかった。
 そんな兄に苦笑を漏らすこともなく、ミキは裸足のまま真っ直ぐに庭を歩く。
 ミキがシロサ横を通り過ぎた時、ミキはほんの僅かだがシロサの方を見て微笑んだ。瞬間、シロサは理解した。この子は、咲人だと。
 ブブブと不快な音を立てて山の向こうから五、六匹の巨大な甲虫が姿を現す。その甲虫は全て雄であった。
 益々ヒートアップする家族の動揺とクロキとカラスの言い合いの中、ミキは両手を岩の方に差し出し、そして呟いた。
「ロチ、おはよう」
 ロチ。ミキがそう呟いた途端、向かいの山頂に鎮座していた岩が七色に輝き始めた。そして七色の光は徐々に輝きを増しながら、岩の切れ目を大きくして行く。その光景は神々しく、その場の誰もが言葉を忘れて見入る程であった。
 やがて光は山を覆い尽くす程に輝き、そして、岩もろとも破裂した。
 凄まじい閃光と爆風に誰もが目を瞑る。目を瞑る寸前でシロサが見た物は、爆風から妹を守ろうとするクロキの姿であった。

 爆風に襲われてから数秒後。クロキは腕に抱いた筈のミキの感触が無い事に気付いて目を開けた。すると案の定、腕の中にミキはいなかった。
「クロキお兄ちゃん、ミキ出来たでしょ?」
 確かに抱いた筈なのに。動揺を隠しきれぬまま声がした方に目をやると、そこには何時ものように微笑むミキ。そしてその傍らに居る巨大な白い蛇が目に入った。
「あのね、ミキも咲人なの。この子はロチ。お母さんのお腹に居るときから、ずっとお話ししてたんだよ」
『主の申す通りです。この土地は私が守ります故、貴殿はどうぞ鹿の君と花集めに馳せ参じてくださいまし……』
 物腰柔らかにミキの花であるロチはクロキの旅立ちを促す。目を凝らしてロチと言う名の蛇の向こう側を見れば、庭でぺちゃんこに潰れている甲虫が見えた。……この蛇、上品なだけではなく腕も中々のようだ。
 これでもう決まったも同然なような運命にため息を吐きながら振り返れば、コウジは今まで見たこともないような笑みを浮かべて、「行ってこい」と爽やかに言った。
「……まじで」
『解せぬ』
 不満を口にする一人と一匹であるが、その後も彼等の思い等尊重される訳もなく事は進んだのだった。

 出会い 完


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