太郎と女の子
 俺の名前は山田太郎。平成の今を生き抜く自称ナイスガイ!
 在り来たりな名前のおかげで偽名だと疑われるけれど、今日も元気に本名で生きています!
 これは、そんな俺が経験した少し変わったお話し。


「暑い!」
 買い物袋を振り回しながら、俺はあまりの暑さに怒鳴った。
 回りの視線が一斉に注がれるが、あまり気にしない。そう思っているのはみんな同じ筈だ。俺はそれを代弁しただけに過ぎない。
 それにあまりの暑さに人目を気にする余裕も無い。地球温暖化、深刻だ。
「ちくしょー、姉貴のやつめ」
 頭に浮かぶのは俺をこんな灼熱の地に送り込みやがった姉の顔。
 いたいけな高校男児を、こんなコンクリートジャングルに送り出すなんて鬼だ! 間違いない、奴はこのご時世に降臨した鬼だ! 鬼婆だ!
「……ちょっと休憩しよ」
 暑さに体内温度計が破壊寸前まで追い詰められた俺は、遊歩道の少し奥に所ある大きな木の下に腰を下ろした。
 やっぱり影に入るだけで暑さは随分変わる物で、俺は安堵のため息をついた。
「ああん、気持ちえー」
 だらしなく言ってみても、ここは滅多に人が通らないので問題無い。
 コンビニで買ったコーラと饅頭を食べようとした俺は、何故だか木の裏が気になって裏側に回ってみた。

「なんだ? 随分古い……お地蔵さん?」
 そこには苔むしったお地蔵さんのような物が一体佇んでいた。
 誰からも掃除をされなかったのか、苔やら蔓やらが絡み付いている。なんと言うか……酷く小汚い。
「どうもー」
 とりあえず挨拶をした俺は、お地蔵さんの前に腰を下ろしてコーラの封を開けた。
 プシュっと音を上げて中の炭酸が外へと出てくる。この独特の匂いが堪らんのだよ。うん。
「そんじゃあ……いただきまーす」
 一応合掌をしてペットボトルへと口を付ける。やっぱり食べ物に感謝しないと。ばっちゃんに殴られるからね。
 ぐびぐびっと喉を鳴らしてコーラが食道を通って行き、続けて口に入れられた甘い饅頭に顔が綻ぶ。
 ……筈だった。だけどそれができなかった。何故か前で独りで苔むしったお地蔵さんが気になって。

 コーラを飲む寸前の体制だった俺は、静かにコーラを地面に置くとお地蔵さんに巻き付いていた蔓を外し始めた。
 何だか、独り孤独に苔にまみれて今まで居たんだと思ったら、居ても立っても居られなくなったんだよ。ついでに"独りの地蔵"って妄想をしてたら、涙が浮かんだ。俺の想像力凄いな。
 気がつけばお地蔵さんはかなり綺麗になった。
 で、掃除して分かったけどお地蔵さんじゃなかったんだ。随分古くて分かり辛かったけど"石を何かの形に彫った"ような感じ。
「出来たぞ! 石美」
 見違える程綺麗になった石美(命名)に声をかけた俺は、達成感からかテンションが上がっていた。
 ──チリン
 石美に抱きついた俺の耳に澄んだ鈴の音が聞こえた。
 変質者よろしくと云った今の状態を見られたら流石に不味いと思った俺は、下着泥棒のようにキョロキョロと辺りを見渡した。
「何だ、空耳か」
 色々な理由で流れた汗を拭った俺は、石美に飲む筈だったコーラと饅頭を供えるとゆっくりと立ち上がった。
 後ろを見ると、見事な夕焼けが目に飛び込んで来る。
 やはり仕事をした後の夕焼けは特別だぜ……
 あ、今の俺多分格好良い。見た? そこの犬連れのお姉さん。

「夕焼け……? 夕方……あ゙ー!! 買い物ぉ!!」
 掃除に必死でお使いを忘れていた俺は、人目をはばからず大声を上げた。
 犬連れのお姉さんやら、鳩やらカラスが驚いているがそれどころで無い。俺の命が危ない!
 急いで荷物をかき集めた俺は、脱兎の如く家に向けて走り出した。

 ──チリーン

 顔面蒼白で走る俺の後ろで、また澄んだ鈴の音が聞こえた気がした。


 買い物から遅く帰った俺は、玄関に入った瞬間に姉のカウンターを喰い、その後ボッコボコになるまで鉄拳制裁を受けました。いやね、フルボッコはマジで勘弁っすよ。
 災難に見舞われた俺ですが、今はそれ以上にピンチのようです。ちょっと聞いて。お願いだから聞いてー!
 さっきまですやすやと赤ん坊並みに熟睡してたんですが、突然目が覚めたんです。
腹に何かが乗っている気がして……。
「目を開け」
 ほらね、声まで聞こえてきましたよ。女の声だ、コレ。
 でも姉ちゃん達はこの時間帯はきっと爆睡中。それに起こすなら蹴り飛ばして起こしている筈だ。
 だ・か・ら、これは家の家族以外の人ってことになる。しかし、窓はちゃんと閉めた。と、言う事は……。
 うん、あれだ絶対あれだ。あ、ちなみに体は一応動くみたいです。
 でも怖くて動かせない。こんな状況で動く奴はよっぽどのチャレンジャーか、ただのバカだ。絶対。

「狸寝入りだ」
 ドキンと心臓が跳び跳ねる。ちくちょう、何故バレた? いや、多分はったりだ。そうに決まっている! だって俺目開けてないもん!
「ん? 何だあれ」
 何かを発見したのか、声の主は俺の腹から下りてどこかへ歩き始めた。
 良かった、本当に良かった。いや、こういうの始めてだからさ。
「何じゃ、この大量の……」
 その声に俺は閉ざされていた瞼を重量挙げの如く持ち上げ、上体を起こした。
 マズイ、非常にマズイ。CIAすら知らないであろう俺の趣味が他人にバレてしまう。
 例え相手が幽霊とかであっても、あれだけは誰にもバレてはいけない。
「アウアウアー!」
 意味の分からない叫び声を上げながら、俺は"秘密ゾーン"に飛び込んだ。
 今更怖いだなんて言ってられない。秘密がバレる方が恐ろしい。

「やはりな」
 秘密ゾーンのブツをかき寄せる俺の頭の上で勝ち誇った声がした。
 この状況を確認した俺は咄嗟に眠ったふりをしたが、さすがにそれは無茶があったらしく、遅いと突っ込まれた。
「変わった奴」
 声の主が笑ったような気がした俺は覚悟を決めてゆっくりと顔を上げた。
 すると赤い着物を着たくりくりとした目とおかっぱ頭の少女と目があった。うん、将来はきっと美人になる。
「お主、気に入ったぞ」
 少女はにっこりと微笑むと、俺に向けて真っ白な腕を差し出した。正直な所、可愛い。
 ぼけーっと腕を伸ばすと少女は俺の手を取って握手をした。もう、最初の恐怖はどこかへと飛び散っている。
「お主、わしを住まわせてはくれんか?」
 むーん、可愛らしいのに言葉が妙に古くさい。でもそこがまた新鮮で可愛らしい。まるで天上天下の真夜のようだ!
 って……、はい? とんでもない事言っちゃってるよ、この子!
 断らなければ! こんな幼い子をいきなり家に住まわせたら問題が……有りすぎる!
「えっと、もう少し大きくなったらね」
「大きく? どれくらいじゃ?」
 断るつもりで言ったが、予想外に少女はその話しに食いついた。
 まあ、どうせどうにもならんだろうと、欲望に任せて言ってみる。

「そうだな、お兄ちゃんと同じくらいかな?」
 それなら、彼女にしても……ぐふふふふ。
「分かった、お主と同じくらいじゃな」
 妄想を膨らませる俺の目の前で少女はにっこりと微笑んだ。
 すると少女の体がみるみる内に成長していく。
 何十秒か経った後、俺の前にはモデルに負けない程、美人でナイスバディーな女の子が相変わらず笑みを浮かべて立っていた。
「これで良いか?」
 元少女の問いかけに、俺は滴る鼻血をせき止めながら、握った拳から親指を上に向けたのだった。


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