絶望アパート


 さて、これからどうしようか。




 きのう、街でかわいいことすれ違った。かわいいこに因縁つけられてボコボコにされた。立ち去るかわいいこをストーキングしてアパートの部屋特定して、そのまま侵入して、かわいいこをベッドに手錠で繋いで監禁した。

 「変態くそやろう」

 かわいいこは一週間経っても、僕の名前を呼ばない。かわいいこは、ペットボトルにおしっこしやすいようパンツを全部破棄されたから、下半身丸出しでTシャツとパーカーを着てる。

 「や、んぅ…」

 僕はかわいい子のご機嫌伺いにキスをした。下唇に痛み。かわいい子のかわいい八重歯が刺さる。僕の柔らかい唇の内側に深く、深く、傷口が白く腫れて、膨れる。かわいい子に噛まれた。ご機嫌伺いなんて、やっぱり嘘。ただキスしたかっただけなんだ。かわいい、犬歯かわいい、犬歯を舌先でなぞる。
 たっぷり味わってから口を離すと、僕の口の端からは血が垂れた。眼前に怒りを滲ませる、僕のかわいい子。かわいい子は、欲張りだから。僕は欲張りだから。手の甲で血を拭って、俺もシャツを脱いだ。

 「っ!ば、かぁ!野郎!昨日何回したと思って…!」
 「俺2回。君4回。」
 「てめぇカウントしてんなら控えろ!俺はもう汁一滴出ねぇんだよ!」
 「別にいいけど。」
 「っっ!…あ」

 昨日散々なぶり倒したかわいいそこに指を這わせる。びくりとかわいい子の肩が跳ね、強気な瞳に怯えと期待が揺らぐ。目、かわいい。キャンディみたい、あまそう、眼球をべろりと舐める。あ、キャンディみたいな味はしない。でも白目赤くなるの、痛々しくて、かわいい。

 「んっ…ほんとに、っ!………くそ、もう口でしてやっから…」
 「やだ。中以外で出したくない。」
 「っぎ!あ、あ…嘘だろぉ……っ!あ、やだ、」

 沿わせてた指で穴をくっぱり開いて、ローションを塗りたくる。腫れた縁は指に吸い付いて、ひっぱられてるのがいやらしい。自分のパンツを下ろして、涙目で壁際まで後退したかわいい子を押さえ、ローションを塗りたくったそこに、そのまま。

 「い、あ…っっ!!」

 ギッ!
 安いベッドのスプリングが壊れそうに叫ぶ。壁に押し付けたまま、腰を振る。かわいい子のはかわいいままだった。かわいい子ははぁはぁと荒く息を吐きながら、俺の肩に爪を立てる。かわいいままでも、とろみを帯びた声は反応を示していた。

 「ぁいやだっ、やっ!くぅ、あ、あっ!」
 「かわいい。かわいい。このまま一つにくっ付けたらいいのに」

 かわいい子は頭を振って、意外に長い睫毛を震わせる。緊張ではりつめた腹の筋がやらしい。腹に手を沿わせて、下げ、かわいい子の茂みに手を突っ込む。太く縮れたそれをかきみだしながら、今度これを一本づつ、じわじわ抜いてやろうと思って、ゾクゾクした。

 「あっ、う!やだぁ、やっ、だ…出せねぇ、っのに、きもちよく、するなぁ…!くるしい、くるし…っ!!」

 壁を引っ掻くように悶えながら、かわいい子はかわいい事を言う。涙と鼻水を垂らし、出せない勃起もしてないまま、前立腺を掘り抉られる、気が狂いそうなもどかしさと苦しさが、かわいい子をかわいくする。俄然燃えて涎を口に注ぎながら、腰を引かせる時に同時に浮かせてみたりした。

 「ひんん"!あ、あ"っ!あうっ、あっあっあっあっ、やめ、それ、あたるぅ…」
 「あててるからね。」
 「やだ、くっ!んんぁっ、あーあーあーっ、くるし、ほんと、くるし、」
 「苦しくないよ。射精なんかしなくても、俺の専属穴になれるのがきもちいってなれば。」
 「なるかぁっ!くっ!あーっ!だめ、それ、ほんとっっ!あっあっあっ、う!」

 かわいい子の手を握りこんで、口を食べるみたいに啄んで、変則的なリズムで腰を振る。たっぷり焦らして引き抜いて、戻して。ゆるゆると視線が定まらなくなってきた子の、耳を噛む。鼻を噛む。

 「やだ、も、へん…っ!イきそ、出ないのに、くる、きそ、ぉ…っっ!」

 丸め込まれた足先、おでこに張り付いた前髪、切なげに寄せられた眉、これが眼前にあるだけで、俺は法を越えることに抵抗がなくなる。かわいい、勃起してないのにイっちゃう?前立腺抉られるなんて下品で暴力的な快楽で射精せずにイっちゃう?ち×ぽ狂いの下品で頭ぱーのかわいい子になっちゃう???
 かわいい子の荒い息を食べながら、一際奥まで貫いた。ひっ、とかわいい子が息を飲んだ。びりびりと内膜が震え、神経パルスが繋がる。

 「あ、」

 かわいい子は、そのかわいい目を見開いて、徐々に体を震わせ、ある一点で緊張をほどいた。熱っぽい息が口に広がる。

 「あ……あぁ…みるなぁ……」

 出すもののないかわいい子は、絶頂を迎えて失禁した。前立腺こねくりまわされ、かわいく絶頂失禁、かわいすぎる。さらに健気にもそこを両手で隠して、俺に見せまいとしてる。
 放尿が終わり、安いベッドが黄色くなった後、かわいい子のびしょびしょの両手をつかんで、その滴る液体を口に運んだ。しょっぱい、好き。

 あれからかわいい子は出せないまま幾度となく絶頂を越え、しばらくして意識を手放した。
 それから僕はぐちゃぐちゃになった子を、蒸しタオルで拭いてやり、ずっと寝顔を眺めていた。かわいい子は目を閉じていると、きつさがなくて本当に天使みたいだと思った。かわいい子の唇に触れる、頬っぺたを押す、耳朶を摘まむ。全部が全部、いとおしかった。

 それから一時間ほど経って、空腹に気づいた。そういえばもう夕飯の時間だ。かわいい子にもご飯食べさせないと。そう思い、部屋の簡素な冷蔵庫を開ける。しかしかわいい子の冷蔵庫の中身はめんつゆとプリンとビールとミネラルウォーターしかなかった。なんかこの取り合わせ…かわいい子は冷蔵庫の中もかわいい……。プリンとビールとめんつゆ…めんつゆは肉じゃがとか作ろうとしたのかな、プリンは好きなのかな、肉じゃが、そうだ、今日は肉じゃがにしよう。
 部屋を離れるのは名残惜しいけど、芋も肉も米もこの部屋にはない。買い物に行かざるをえない。名残惜しんで寝顔にキスして、かわいい子の手錠のロックを確認して、部屋を出た。

 「あ」
 「あ」

 かわいい子の部屋を出た途端、ちょうど帰ってきた隣の部屋の住人と鉢合わせた。俺より背が高い好青年に見える。

 「…こんばんは」

 青年は一瞬、眉をひそめると、気を取り直したように微笑み、隣室へ消えていった。僕は青年が消えてから挨拶を返した。

 「こんばんは」

 僕が、かわいい子の部屋から出るところ
 見られた。
 見られた。
 見られた。
 見られた。
 見られた。

 かわいい子はもう一週間も外に出ていない。職場や家族、(まさかと思うけど恋人、まさかね。僕だしね)それらが、もし、捜索願いでも出したら。隣室の住人が警察に僕のことを告げたら。そうしたら。…でも、成人男性の捜索なんて、真剣に警察が動くとは思えない。警戒しすぎ、

 「…………違う。」

 違う。あいつは違う。隣室の住人の、あの目。あいつは、何か感づいてるのだろうか?勘づいてるのなら、あいつは俺のことを警察に言うだろうか?あいつは……言うかもしれない、あの目は、明確な敵意があった。俺の聖域を壊しにかかるかもしれない。いや、必ず壊しにかかる、あの目は、俺と同じ、狂気的な黒をしていたのだから。
 さぁ、どうしようか。

 「よし、殺すか。」

 かわいい子のご飯ついでに、凶器を買いに行くことが決定した。それにしても今日は暑い。帰ったら冷えた水を飲もう。


*


 目が覚めると、アイツはいなかった。厳重にロックをされた手錠と、ご飯を買ってくる旨を書かれたメモだけがあった。

 「………」

 そっと、手錠を撫でる。手錠を口に運んで、キスした。唇を離すとき響いたリップ音が、一人の部屋に響く。

 一目惚れだった。

 俺の働くコーヒーショップに毎日来る、常連さん。向こうは俺を一切知らないと思う。だって俺キッチンから出たことないし。
 キッチンから毎日、毎日、毎日、ずっと見つめてた。食器を片すときに、キッチンにかけられる「ごちそうさま」を聞き漏らしたことなんてなかった。

 「だいすき…」

 そんである日、正確には一週間前、俺の気持ちは決壊した。気づいたら、町行く彼をつけ、いちゃもんをつけてたのだ。恋愛偏差値Fの俺の考える彼の気を引く方法は、小学校男児レベルだった。そうしたら、どういう運命のいたずら、こうして監禁されることになった。

 「はぁ…あ…」

 目を閉じて、うっとりさっきまでのことを反芻する。指を中にいれて、彼の一部を確かめる。にゅるにゅるする、俺で、こんなに、いっぱい出したんだぁ…!

 「んやぁ…あぁう…」

 手近なペットボトルをケツにあてがって、イキむ。ペットボトルの底に、うっすら液体が溜まる。

 「おいひぃー…」

 ペットボトルをくわえ、傾ける。じわじわと垂れてくる白みがかった液体に、期待に胃が疼くみたいだった。めろめろと、舌の上にザーメンを溜めると、舌の上で何度も何度も捏ね、噛んで歯の隙間から滲ませたりして、食感と味を楽しんだ。

 「これがあの人の最後のザーメンだったら…」

 ふと、そんな考えがガムのようにザーメンを噛みしめていた時に沸き起こった。もし今、あの人が死ねば、俺のケツに出して今口の中にあるこれが最後の一滴になる。おれ、憧れてた言葉があるんだ。
 最初の男より、最後の男。
おれ、あの人の最後の男になりたい。あの人の精子がどっか他にぶちまけられるなんて考えられない。このまま、このまま、ずっとこのまま、この瞬間が続けばいいんだ。確信がある。今がすべての、本当にすべての、ピークだと。ゼラチンみたいにこの瞬間を固めてしまいたい。この瞬間を固めて固めて固めて固めて固めて固めて固めて固めて、崩して、ぐちゃぐちゃにして、ぜんぶぜんぶ食べちゃいたい(はぁとはぁとはぁと)
 さー、どうすっか。

 部屋にあった煙草を切り刻んで、台所で煮出した。そうして出来た毒液をミネラルウォーターに仕込んで、冷蔵庫に戻しておいた。
はやく、帰ってこないかなぁ(はぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁとはぁと)なんかくらくらするけど、愛の力のせいかなぁ!(はぁと)



*



 「ただいまぁーご飯買ってきたよぉー!あっくんのすきなぁ、のりべんー!あとぉ、しゅーくりーむぅ!あっくん、あっくんおきてぇ!」

 隣人とおぼしき青年は部屋に入るや否や、床に転がる人物に甘ったるい声で話しかけた。青年は床の人物にまとわりつく。床の人物、本当の隣人に。隣人は光を写さない瞳を動かし、青年をとらえた。

 「そういえばーお隣さんに会ったよぉー。あっくんの言うみたいにイケメンだったけどー、ちょっとキチ×イっぽかったなぁ。」
 「…………」
 「あっくんが悪いんだよー!お隣さんのこと、好きになったかも、なんて言うなんて。あっくんが好きになっていいのも、あっくんの王子さまも、ぼくだけなんだからー!ねっ?」

 青年は恍惚とした表情で、隣人の手の甲にキスし、手首に噛みついた。それは尊敬であり忠誠であり欲情でもあるキスだった。青年は隣人の筋の浮く手首を味わってから、隣人を抱き起こした。

 「…んはぁ」
 「………あっくんは、こーゆう時だけ、ぼくを見るんだ。エッチなんて、ぼく、興味ないけどさ」

 ほぼ抵抗らしい抵抗を示さなくなった隣人の足を開き、青年は顔を埋める。青年は隣人がセックスの時に自分の事しか考えられなくなることが好きだった。その為に青年は自分の欲求よりも、隣人への愛撫を優先した。隣人は小刻みに痙攣しながらも青年にされるがままだった。

 「…ひゃ、ぁうう」
 「…あっくんは…おれじゃまんぞく、できないの…?」

 隣人は虚ろな視線を空に留めながら、ねちっこいフェラチオに甘い声を返す。青年が拡張した隣人の尿道口は、舌先で抉られる度に、強烈な快感を隣人に与え苛み続けた。青年が口で皮を剥き、手と口でいたぶり倒すと、隣人は大きく跳ね、のたうつ。その譫言のような矯声が、隣人の部屋に木霊する。

 「んぁあっ!あっあっ、ひぅっ!」

 愛撫をしながら、青年の頭には過るものがあった。さっき出会った隣室から出てきた男についてである。青年が聞かされていたイメージとは違ったが、その人物は確かに整った顔立ちをしていたのだ。青年は焦燥感に駆られ、怯え、パニックに陥っていた。隣人が取られる、その恐怖は次第に現実世界に影を落とし始める。

 「あっくんはっ、あっくんは、おれの、だ…っ!」

 目を離した隙に、あの男とあっくんが逃避行するのではないか。その恐怖たるや、寒気と涙に襲われながら、青年は懸命に奉仕し続けた。感じさせることで、隣人をここに縫い留めることができると信じていたからに違いない。

 「あっ、ふぅ!んん、あっ、あぁっ、まな、ぶ…」

 そんなことは全くの幻想であった。隣人の口から溢れ出たのは、青年の名前ではなかった。青年は隣人を縛り付ける術が、他にもう残ってはいなかった。白い肌に帯びる赤みも、腫れたように赤付く目尻も、鼻から抜ける媚びた声も。全てを縛り付ける術が。
 …どうしようかなぁ。

 青年はそうして、隣人の首に手をかける。喉仏を掌に感じながら、渾身の力を込めて締めにかかった。



*



 最初はたわいない挨拶だった。

 「おはよーござっす」
 「あ…おはよう、ございます……」

 それから隣に住む人のことが気になって、隣の郵便受け開けて携帯料金とか保険料とか光熱費とかの書類をチェックするようになった。アプリのせいか割高な携帯料金や、ちゃんと食べてるか不安になる光熱費、未納ばかりの社会保険料、隣の人の人となりが垣間見え、その度、思いは強くなっていった。
 隣の人は廊下に洗濯機を置いている。隣の人の洗濯物を漁った辺りから、薄々、自分の異常さには感づいた。だから相談したんだ。学生からの友達を自室に招いて。
 しかし奴はそれを聞くや否や、俺を拘束し俺の部屋にも関わらず監禁してきた。そうしてかれこれ半年近く、日光を浴びてない気がする。筋肉の削げた手足は細く、日に日に思考は弱まっていった。

 監禁されるなかで、唯一、信じられるものが俺にはあった。お隣さんに会いたい、お隣さんに俺を知ってもらいたい、お隣さん、たすけて。まなぶさんに関する全てだった。それが何とか俺の正気を保っていたのだ。
 しかしそれは隣の人から音沙汰なく半年を過ぎたあたりから、狂気に代わった。狂おしいまでの感情と期待が、次第に憎悪と失望へと変化していったのだ。理不尽。お隣へは完全な理不尽に違いない。
 でも俺は!オレは!ずっと待ってるのに!お隣さんが、助けにきてくれるの!!ずっとずっと待ってるのに!オレはお隣さんがすきで、こんな目にあってるのに、どうして助けにきてくれないんだよ!!!
 そんで、どうしてやるか。

 オレは完全に壊れた。部屋にあったカビとり剤と洗剤を混ぜたものを作った。繋がれた鎖を限界まで引っ張ってベランダに出る。その日たまたま開いていた隣室(なんだ、ずっと前から助けは呼べたのか)の中にその毒液を容器ごと投げ込んだ。気付いて、隣にオレがいることに!!!
 部屋に戻っても、あーくらくらする、お隣さん、オレ、ここにいるよ、ここにいるよ、ここにいるよ!くらくらして床に伏せると、ちょうど同時に友達が帰ってきた。

 おしまい!



追記

時系列
半年以前:隣人(あっくん)がまなぶに惚れる
半年前:隣人(あっくん)監禁
一週間前:まなぶが攻に絡む→監禁
それから1:
隣人(あっくん)がまなぶの部屋に塩素ガス投げ入れる&攻と隣人(青年)がすれ違う
それから2:目を覚ましたまなぶがミネラルウォーターに仕込み
それから3:隣人(青年)が隣人(あっくん)殺害
(それから4:攻が戻り隣人(青年)殺害、帰宅し、ミネラルウォーターに口をつける…?)

殺害方向
隣人(青年)→隣人(あっくん)→まなぶ→攻→隣人(青年)


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