消失



久しぶりあった男は何故か寂しそうであった。
なにがあったなんて聞く理由はなかった。
いつもとは違う。
寂しい瞳でこちらを見ている。

「何かあったのか?」

仕方なしに聞いてみた。

「私にとって大切な存在が失ったんだ」

彼奴は曹仁は淡々と話す。

「いつも誇り高いお前がそんな風に悩んでいるとはな」

ホウ徳は冷たく言った。

「私は後悔している。助けられなかったから…」
「曹仁殿、お前…」

さすがに言葉を続けられなかった。
自信に満ちた彼。
今はその面影もなかった。

「曹仁殿、落ち込んでも仕方ない」
「ホウ徳殿、すまないお前に迷惑かけてしまったな」
「気にはしていない」

曹仁がホウ徳を引き寄せ抱き締めた。

「ホウ徳殿…」
「なっ、離せ曹仁殿」

抵抗するがびくともしない。

「しばらくはこのままに」

哀しさの辛さを隠すかのように、ホウ徳を抱き締め続けた。

「……………」

曹仁にとって大切な存在は誰なのだろう?
よほど身近なんだろう。
わかったとしても自分は何もできない無力なのだから。
この男が自分で立ち上がるのを待つしかない。
私は信じている。
曹仁の瞳には、焔がある。
内に秘めた力は失われる事はない。

「強くなれ、曹仁殿…」
「ありがとう、ホウ徳殿」

曹仁は軽くホウ徳に口付けた。

「あいかわらずだな」

ホウ徳は溜め息を吐いた。
近い内に曹仁が立ち直る事が分かる。

「もう悲しむな、曹仁殿…」
「ああ…」

ホウ徳は曹仁に呟いたのであった。
いつかは私も大切な存在が消えたら正気でいられるのかわからない。
それでも生きなければならない。
それが残された者が果たさなければならない責任だから。
ホウ徳は曹仁を強く抱き締めたのであった。





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