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宵々面で顔を隠して暗殺任務に闇を掛ける主を、宵々傍らで見守る銀鳥。
己が何よりも大切にしている娘が幾人もの敵に刃を向け、血飛沫を降らす光景は何とも形容しがたいものである。
本来ならば、貴族の娘として平和な道を歩む筈だった。
人を殺す刃など持つ機会も無かっただろうに、この娘の運命を変えてしまったのはほかならぬ吾であるのが、心苦しい。

この娘に夷坐浪の宿命を負わせたのは、己。
夷坐浪としてこの娘を選んだのは、己。

吾を恨んでいるかと、尋ねたら名前は何と答えるだろうか。



(残り五人…)



十二いた敵も残るは僅か。
銀弥の許可が無くては任務に手を出してはならぬ約束である為、こうしていつも娘の見事な太刀筋を陰から見守りながら、色々なことに思いを馳せる。
黒海を失って木ノ葉へ逃れてから再び塞ぎ込んでしまっていた名前が最近…波の国から帰って来て、少し感情を見せるようになった。それが嬉しい。



(残り三人…)



銀弥に恐怖した忍達がいよいよ武器を捨てて逃げ出す。
その行く手を塞ぎ、留めを刺すため純白の刀を振り上げる銀弥。



「…………名前?」



刀を振りかざしたはずの銀弥の動きが止まった。
死を覚悟していた忍達も状況を理解できずに停止している。



「…く、…ぅ…」

「な、なんだ!?」

「…はっ、う、グ…っ」



刀を投げ捨てて急に胸元を掴んでしゃがみ込んだ銀弥。
敵の攻撃を受けたようには見えなかった。
吾は咄嗟に人へと姿を変え駆け寄ると同時に銀弥へ襲い掛かる忍共の魂織を引き抜いて殺める。



「名前…!」

「う、…ぐ、…あ」

「!…熱い…」



痛みに喘ぐ名前の背を擦ろうと手で触れると、信じ難い程に熱い。
そして触れた手から感じたのは、禍々しい魂織。

―――龍神だ。

何故満月でもない今宵に龍神が目覚める。
何故人を殺めている最中に痛む。
人間の生き血なら、浴びる程に与えているではないか。
何故―――



「う、うっァアアっあ」

「―――!…そんな…まさか…」



龍神が、名前の魂織を食っている。

理解し難い状況を前にただ唖然とするしかない銀鳥。
封印術の枷を外した龍神が暴走しているのだ。
妖魔である銀鳥には、同じ妖魔である龍神を束縛する呪印術を扱える筈もなかった。
痛がる名前をどうにか楽にしてやりたくて手刀を打つ。
倒れこんできた娘を抱き留めてそのままその場に腰を下ろした。



「う…くっ…」

「名前…」



意識を失っても尚、痛みで嗚咽を洩らす愛しい娘。
何故今になって封印が緩まったのか、この娘の身体に何が起こっているのか、吾には皆目見当もつかない。
だが一つ解るのは…龍神がこのまま魂織を喰らい続ければ、三月もせずに名前の魂織は尽きるだろうということ。
巫女が魂織を失うのは、忍がチャクラを失うのと同じ。

―――死を意味する。



「龍神よ…、御主も知れよう、この娘が身に受けた儀式を。この小さな身体をそなたに捧げたというのに、それでも尚この娘を食い殺すと言うのか…」



龍神からの返答はない。
奴の暴れ回る魂織が否応なく確実に名前の魂織を削り取っていく。



「幾ら夷坐浪の名を担ったといえど、これ以上…この娘にこれ以上に惨めになれとは…吾は言えぬぞ、龍神よ…」




ただ、傍にいて欲しかった。この娘に。
幸せな姿を見ているだけで良かったのに。



「すまぬ…名前…―――」



吾がお前に齎した運命は、あまりにも残酷だった。
お前を夷坐浪に選ぶべきではなかった。



吾がお前を得た代償―――それがお前の不幸だとは、知らなかったのだ。





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