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「……もう、五日になるか」



七班が波の国から帰って来るなり儂の手から約束の滅却任務の依頼状を全て引っ手繰って行ったナルト。
あれきり、一度も帰って来ていない。
まさかあの任務を全て果すまで戻って来ないつもりだろうか。
そんなもの普通は不可能、儂でも十数日は優に掛かる。
何より大掛かりな滅却ばかりだ。
……一度に殺める数が多すぎる。



「!」

「…戻りました、火影様」

「おお、ご苦労じゃっ………、」



銀弥の後に付いて入ってきた銀鳥の腕の中でぐったりとしている人物を目にし、火影は煙管を落として言葉を止めた。
驚きに目を丸くして、口をぽかんと開けている。



「そ、槍刃……ッ!?」

「過労で寝てるだけだよ、大丈夫」



変化を解いたナルトの身体を、銀鳥が執務室のソファに横たえる。
こんなに狼狽えている三代目は初めて見た。



「…過労、とは…」

「草隠れとの国境少し手前、山吹の丘の近くの屋敷に大量の死体…木ノ葉の暗部もいた」
「……山吹…じゃと…?」



まさか…、と額に手を当てる三代目。
どうかしたのかと尋ねたが、何でも無いと言う。
神妙な面持ちで落とした煙管に火を点け直し、咳払いを一つ。



「……ばれてしもうたのォ」



ばつが悪そうに笑いながら、面を取れと言う。
三代目の指令で、銀鳥はナルトを抱え直して地下の篭りへ出ていった。
俺と三代目の二人になったこの部屋には、マッチの焦げた匂いと微かな鉄の匂いと…静寂。



「黙っておって、すまぬ」

「……。」

「お主があいつを知らぬ様に、あいつもお主の事を何も知らぬ」

「…なら、あいつもサスケの護衛を課されて七班に?」

「そうじゃ。理由は以前お主にも言った通り……ナルトにも告げてある」



―――お主にも、年相応の仲間をつくって欲しくてのォ……

…それで、俺とあいつを同じ班に……。



「…………。」

「里の露払いであるお主等を、一度に表の世界…しかも下忍として出すのは戦力の浪費だとご意見番には真っ向反対された。だが、これだけは譲れなかった」

「………三代目、」



俺はこの人へ多大な感謝と尊敬の念を持っている。
三代目の頼みなら喜んで受ける。
だけど……、言わせて欲しい。



「同じ里の忍をあそこまで残忍に殺せる男と仲良くなるために、俺に下忍の生活を強いたんですか……」

「っ、そうではない!」

「三代目はあんな人殺しと俺を一緒にするのか…!俺は……あんな殺戮好きの同胞殺しと仲良く出来る程非道じゃない…!」



珍しく声を荒げる名前。
火影はそっと席を立ち、少女の前まで歩み寄る。



「お主が好んで暗部として生きておる訳ではないのは重々知っておる」

「……、!」



火影は少女の身体をきつく抱きしめた。
名前は顔を顰めたまま火影の肩に頭を預ける。



「あいつと……ナルトと同じ班にお主を入れたのは、他でもないナルトの為なんじゃ」

「?」



名前が顔を上げると、三代目がその肩をそっと掴む。
まるで子供にする様に、同じ目線まで屈み込んで…少し歪な笑顔を見せた。



「ナルトはのォ、あれでも一応儂にとっては可愛い孫なんじゃ」

「……。」

「お主とナルトには、お主等の爺として…日の下で育って欲しいという願いがあった。そしてナルトには……、お主の優しく真摯な心を見せてやりたかった。あいつに必要な優しさ、人を信じる強さを…お主は黒海から受け継いでおるからのォ」



ナルトと名前の志向が全く異なることは重々承知している。
名前が反発するのも当然の反応なのだ。
だその実力故に、二人はどんな形にしろいずれは出会う運命にあっただろう。
そして儂は故意に名前とナルトを同じ班に入れた。
大きな戦力である二人が手を組めば、木ノ葉にとって大きな財産になる。
…儂の手に負えないあのバカ者に喝を与える為には名前との接触が一番だと思ったのも、一つの理由ではあるのだが。

この老い耄れの願いを聞き入れてやってくれんかと頼むと、名前は渋々頷いて帰っていった。



「…………。」



…ナルトには何らかの罰を与えねばならない。
儂の手から奪った任務の中に山吹の組織滅却任務は入っていなかった筈だ。
恐らく…暗部達から奪取したんだろうが、それなら儂から取った四つの滅却任務は既に終えたことになる。
……僅か五日で。



「…なんという奴じゃ…」



休む間も無く、想像を絶する数の人間を殺したあの子に…掛けてやる言葉が見つからない。
何とかせねば…殺戮を楽しめる歪んだ志向があいつの心に巣食う前に。

名前との接触が、あいつにとって人を殺める事の重さを見つめ直す契機になればいいのだが…
黒海が名前に与えた様な愛を、儂がナルトに与えてやれなかった事を悔やんでも悔やみきれない。






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